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旅して出会った、大好きな私
振り返れば、思い切った行動だった。
あの日私は、旅人になった。肩書のない、旅人。ニュージーランドへのワーキングホリデーに出かけたんだ。
ワーホリ。旅に出ている人からすれば、それほど珍しくもない。昔からの夢とか、世界を見てみたいとか、将来海外で働きたいからとか、色んな理由で人はワーホリに出かける。
でも、私の場合はちょっと人とは違っていた。
結婚8年目のワーホリ。
それは長い長い、人生の夏休みだった。
さかのぼること数年前。結婚して5年。いわゆる価値観の違いから、別居に至った。2年ほど別居が続いた。
このままでいいのか、悩んだ。そして出した結論。
「人生後悔しないように、今しかできないことを、やろう。」
別居したまま旅に出て、1年間の遠距離別居が始まった。この時、30歳。ワーホリの年齢上限。最後のチャンスで、旅に出た。
きっかけは、29歳。今思えば29歳なんて若いのだけれど、その時はもう結婚して5年経っていたし、人生経験を積んだつもりでいた。自分の考えや行動が凝り固まってきているのが、自分でもわかった。
だから、20代のうちに、人生でやったことのないことをやってみようと思い立った。一人で飲みに行く、一人旅をしてみる、新宿伊勢丹の一階で化粧品を買う。どれもちょっとしたこと、でもやったことのないことだった。
その時気づいた、とっても小さくて、とっても大きなこと。
「やったことのないことも、やらなかっただけで、できないわけじゃない。」
そうして見えた、一つの可能性。
「もしかして、海外で暮らすことも、やればできるのかもしれない…。」
今思えば、なぜ海外だったか、謎だ。だって、長年の夢とかじゃない。別に日本での生活に満足していた。ただ、もしかすると、自分が一番「できない」と思っていたことにチャレンジしたかったのかもしれない。今の自分を超えたかった、ただそれだけだったのかもしれない。人の顔色を伺って生きている、そんな自分に嫌気がさして、自分らしく生きようと思った。
そして行ってみたニュージーランド。驚いた。見るもの、やること、すべてが新鮮だった。日本の常識は、日本だけのものだった。例えば、休暇。一か月以上の休みで旅をしている人はたくさんいたし、高校卒業後や徴兵終了後に一年間の〈ギャップイヤー〉で世界を旅している人にもたくさん会った。「日本では一週間の休みを取るのが難しい」という話は、逆に驚かれたものだった。文化も違う。お店に行けば、店員だろうが客だろうが、言いたいことは言う。自分の想いは、ちゃんと言葉にする。みんながみんな、自分の人生を大切にして、だから相手の人生も大切にする。とても居心地がよかった。そして、自然を愛する人々。自然と都会が分離されず、自然の中で生きている感覚。街中でも星がとてもきれいだった。山へ行くと、もっともっときれいだった。目が合えば微笑み返してくれるニュージーランドの人が大好きになっていった。
うまくいかないこともたくさんあった。銀行口座を開くにも一回ではうまくいかなかったし、住む場所を探すのも手探り状態。ゲームのステージをクリアしていくように、一つずつ課題を解決していった。思うようにいかなかったけれど、それでも、「生きるのはこんなに面白いのか」と、初めて感じた。自分で選ぶ。行動する。誰も私の代わりになってはくれない。けれど、見守ってくれる人、手伝ってくれる人はたくさんいる。応援してくれる人がいる。生きている実感のようなものを感じた。
そんなニュージーランドで、私はたくさん、旅をした。クライストチャーチの語学学校から始まり、その友達と訪れたダニーデンという町が気に入りすぎて、語学学校を出たらすぐに移った。旅をしながらも、バックパッカーズの宿で働いてみたり、ニュージーランドらしい風景が見たくて、羊のファームで働いてみたり。大好きなビールは、各地でクラフトビールを探しては飲んだ。ニュージーランドはワインが有名だけど、ビールの超絶美味しい国だった。行きたいところには全部行こうと、観光名所もたくさん巡った。最南端から最北端まで旅をした。愛車での旅は素晴らしかった…と書きたいところなのだが、買った車を3か月で事故って廃車にしたりもした。現地で知り合った友人と旅をしたり、ヒッチハイクや、「うちにおいでよ」と泊めてくれた人。素晴らしい出会いがたくさんあった。
旅の途中に、ふと、気づいた。
前より、自分のことを好きになってるってことを。
そういえば、以前は自分のことがあまり好きではなかった。なのに、なぜだろう。旅をしているうちに、気づけば自分のことを好きになっていた。
「ここに連れてきてくれてありがとう。」
「こんなに楽しい人生を送っている。ありがとう。」
「こんなところまで来ちゃった。すごいね。」
そんな風に、自分に感謝した。
自分でも不思議な感覚だった。なんでこんなに自分のことを好きになれたんだろう。自分に「ありがとう」って思うんだろう。
それはきっと、私が私を大切にしたから出てきた想い。
気づかなかった。これまでどれだけ、自分の想いを蔑ろにしてきたんだろう。周りの目という得体のしれないものに、どれだけ振り回されて生きてきたんだろう。どれだけ期待に応えるいい子で生きてきたんだろう。
私の生きる軸が私になかった。常識、一般論、周囲の期待。そんなものを軸にして生きてきたと、気づかされた。でも、その〈常識〉は、日本だけのもの。一歩海外に出れば、全くの無用だった。そんなちっぽけなものに、なぜ長年縛られていたのだろう。旅に出なければ知り得ない感覚だった。
私は、私を大切にするために生きている。誰かのためではなく、自分のために生きている。それでいい。今この瞬間の自分が幸せになることだけを考える。私は私の幸せを。あなたはあなたの幸せを。それがどれほど単純で、どれほど難しかったんだろう。少なくとも、私にとっては。
旅に出る。自分のためだけに時間を使う。行きたい場所に行き、食べたいものを食べ、寝たいときに寝る。立ち止まりたければ、じっとそこで立ち止まる。そして、また動きたくなったら、次の旅へ進む。今しかできないことを、今この瞬間に味わい尽くして生きる。そんな旅の生き方が、私に自分を大切にすることを教えてくれた。
つい忘れてしまう、でも本当に大切なこと。
「自分の人生の主役は、自分。あなたは誰かの人生の脇役ではない。」
どこかで聞いた言葉が、ふっと腑に落ちた瞬間だった。
旅することで見えてきた、大切なこと。自分を大切にすること。それは、旅に出なくてもできることかもしれない。でも、旅をして初めて気づいたことだった。
そして現在。別居していた夫と二人、今は仲良く暮らしている。今この瞬間の自分を大切にして生きる。それだけで、こんなにも人生が楽に幸せに回り始めるなんて。
旅に出てよかった。本当によかった。大好きな私に出会えたから。
自分のことを、もっともっと大切にして、もっともっと好きになる。
私は今日も、旅するように生きていく。
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