お菓子の総合商社も、こだわりの専門店も 〜菓子業界の働き方改革に関する当事者の一考察〜
今日はパティシエのキャリア形成と菓子業界の変化についてあれこれ論じていこうかなと思います。最近、文春さんのある記事を読みました。
要旨は
「お菓子屋さんは女の子の憧れる職業堂々第一位であるにも関わらず、現在第一線で活躍されているパティシエの多くは男性である。
それはなぜか。長時間、重労働の世界であるため、越えようのない男女の体力差によりパティシエールほど体を壊したり、出産、子育てなどによりキャリアの継続が困難なためである。
しかし今、日持ちのする焼き菓子やチョコレートなどに特化した店づくりをすることで、日々絶え間なく続けなければならない生産業務から計画的な生産にシフトし仕事と家庭の両立をはかりながら活躍するパティシエールもあらわれてきた。
このような変化が進む事で業界全体のブラックな働き方が見直され、男性パティシエも働きやすくなる契機となるのではないか」
はしょりましたがこんな感じです。
なぜお菓子屋さんのキャリア継続は困難なのか
理想と現実の乖離
まず男女共にのお話ですが、一般的なお菓子屋さんは周知の通り長時間重労働、そして薄給です。そして若手の頃はその長時間労働の後に練習です。
お客様の購入されるものを練習台には出来ませんからデコレーションの技術習得など、どうしても練習が必要なのです。
また重いものもたくさん持つので体の負担は大きいです。1番下っ端の時は忙しそうに働く先輩に、こっちに来て重いものを運んで欲しいと頼むことは中々できなかった><なので、常にヘトヘトでした。
そして少ないお給料の中から、気になるパティスリーのお菓子を勉強がてら食べに行ったり、自分専用の製菓道具を買ったり。とにかく公私共にお菓子一色に染まっていました。
今の私が若き日の私に何か言えるなら、
「近くばっかり見てないでお菓子とは関係ないことを体験したり学ぼうよ!お菓子のアイデアにも広がりでるよ!」
と言いたいですが、その時の私は他のことには時間やお金を割り振れなかったです。
今30代半ばですが、一昔前は業界全体にお菓子に全集中する気持ちが美徳とされる風潮があったと思います。
パティシエール(女性パティシエ)のキャリア形成
そして記事の焦点であるパティシエールに関してですが、まずなにより身体的な負担は男性よりも大きい。これは変えられない事実です。
私も重いものの持ちすぎで二十代半ばに膝を壊して入院、手術するまで悪化させてしまいました。
また心身のケアをきちんとして重労働を乗り越え、着々とスキルアップしたパティシエールでも、結婚や妊娠となると働き方や働く事自体を見直さなければならなくなります。
今や父親は働きに出て、家の一切を母親にまかせる家族像は時代錯誤だと思います。それでもフルタイムで働く、独立して自分の店を持つとなるとパティシエールは家族や周りの相当な理解と助けが必要です。それゆえ、キャリア継続が困難だと感じる人も多いと考えます。
冬場は特にですが、家族が寝ている時間に仕事に行き、子供や配偶者と団欒の時間を十分に取れない時間に帰宅する。フルタイムで働くと、そんな生活が続きます。ですので、本人の心情的にも体力的にも辛いものだと当事者たちを見て強く感じました。
だからといって誤解してほしくないのは、男性が何も障害なくキャリアを継続できるかと言えばそうでもなくて、結婚を機に家族のために土日休みのお給料の比較的高い職種にやむなく転職した仲間もいます。
そもそも論 : ではこれはどんな職場を想定しているのか?
このように話を進めてきましたが、ではこの上述したパティシエたちが働く職場はどのようなものが想定されているのかという前提を確認することが大事になります。
今までのお菓子屋さんは生菓子をはじめ焼き菓子、チョコレート、はてはアメなどお菓子の総合商社のように一店でなんでも見つかるというような業態が当たり前でした。
パティシエは毎朝お店にならぶ全種類生菓子の仕上げをし、終われば明日のケーキの仕込み、焼き菓子の焼成、包装、補充。誕生日ケーキの予約の対応などなど、これが毎日間断なく続くのです。
この初期設定が当たり前の中で結婚後のキャリア形成を模索するのはとても難しいのです。
この”そもそも”が変化し始めた
しかし、近年こだわりのお菓子のみを扱う専門店、通販で予約受付のみのクッキー缶販売など、コロナ禍のお取り寄せ需要の加速でこの単一専門店がかなり周知されました。
また通販でお菓子を買うことへの抵抗感の低下により、まず店舗を持たずに始めてみることが比較的容易になったため、異業種や、趣味でお菓子を作られていた方の菓子業界参入を促進したと思います。
品目を絞ったラインナップなら初期投資も少なくてすみますし、なんなら自宅の一部を作業場に改造してネット販売されている方もいます。
この流れによって従来のお菓子屋さんで働く職人の気持ちにも変化があったと思います。実際私はありました。
「こんなやり方でやってもいけるんや」と。
めっちゃ失礼、本当にごめんなさい。でも目から鱗でした。
雑誌などへの掲載や口コミによる消費者のパティスリー認知が主流だった頃はパティシエやパティスリーの知名度は経歴が結構ものを言う時代でした。
だって絶対雑誌とかに経歴書かれてたもん。
それが消費者の購入に至る安心材料になっていたと同時に、職人たちが有名店や辛く厳しい環境で働くモチベーションになっていたと思います。学歴社会って感じでした。
いいものは良い
しかしSNS華やかなりしこの時代、経歴やバックグラウンドだけでなく作り手の考えや思いも同時に自分で発信できるようになってからは、購入動機や職人のモチベーションあり方も多様になったのではないでしょうか。良いものはいい、そんな素地が整い始めてきたと思います。
私が感じるお菓子業界の変化
まぁまぁ詰んでたお菓子業界の働き方が変わろうとしています。
それはやはり業界外から参入し、新しい風を吹き込んでくれた方々と消費者の意識の柔軟さが要因だと考えます。
私も一応職人ですから、色々なものを作る総合商社的なパティスリーもやっぱり良いよなあという気持ちはもちろんあります。
ですが、自分に選択の時が訪れた際に多様な選択肢が提示されているというのはとてもとても心強いです。
お菓子の総合商社もあるし単一専門店もある。このような業界の許容範囲の広がりがパティシエ、パティシエールのキャリアを守り、息の長い職業人生を歩むことを可能にするのだと思います。
makoでした^^