希少なチョウとの出会いとナラ枯れの被害〜五百淵と野鳥の森「小さな自然散歩」②(福島県郡山市)
森の奥に消えていったアカボシゴマダラ(中国亜種)
9月15日(日)、郡山市の五百淵と郡山野鳥の森でおこなわれた探鳥会レポート②です。
①では水辺の鳥たちや、この時期、森の中でさかんに鳴いていたシジュウカラやヒヨドリについてご紹介しました。今回は五百淵と野鳥の森で出会った希少なチョウや秋の植物、そしてナラ枯れと自然の循環について感じたことをお伝えします。
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五百淵と郡山野鳥の森の位置はコチラ↓
水鳥たちを観察中、五百淵のほとりにアゲハに似た翅を持つチョウがひらひらとやってきました。
案内人さんによると、このアゲハよりも一回り小さいチョウは、国内ではおもに関東で目撃されている「アカボシゴマダラ」だそう。
「郡山では、なかなか見られなかったチョウです。たぶん食草(しょくそう)となるエノキを求めてやってきたのでしょう」と案内人さん。食草とは、草食動物、とくに植物性昆虫が食物として食べる植物のこと。木の場合は「食樹」と呼ばれることも。
後から調べたところによると、五百淵で見かけたアカボシゴマダラは奄美大島の亜種とは異なる中国大陸亜種と呼ばれる種類のよう。人為的に放チョウあるいは飼育されていた個体が逃げ出した可能性もあるようです。この亜種が奄美大島に侵入ししてしまうと、現地の亜種と交雑してしまう可能性が高いため、2018年に特定外来生物に指定されました。ちなみに奄美亜種は,レッドデータリストで準絶滅危惧にランクされているとのこと。
●アカボシゴマダラ(チョウ目・タテハチョウ科)
日本国外では、ベトナム北部から中国、台湾、朝鮮半島まで分部(中国や韓国では里山から都市部まで広く分布)
日本には、もともと奄美大島とその周辺の島だけに固有亜種が分布していたが、現在東日本を中心に目撃されている個体は、中国亜種由来のよう。
食草はエノキ。
おそらく中国亜種と思われるアカボシゴマダラは、ひらひらと休むことなく動きまわり、五百淵のほとりではシャッターを押す時間さえ与えず、どこかへ飛び去ってしまいましたが、その後、野鳥の森を散策中に再会することができました。撮影に成功しました!
以前ご紹介したヒョウモンチョウも郡山ではあまり見かけないチョウだそうです。
また、後述しますが、この日は「ナガサキアゲハ」か「モンキアゲハ」と思われる黒いアゲハチョウも見かけました。
森の植物も実りの季節へ
野鳥の森では、外来種のヨウシュヤマゴボウやヒヨドリが大好きといわれるヒヨドリジョウゴが実をつけはじめていました。
ヨウシュヤマゴボウの葉は昨年見たときよりも、赤く色づいていました。
「今年の夏は暑かったので、その影響かもしれないですね」と案内人さん。
ヨウシュヤマゴボウは秋が深まると、ブドウのようにつややかな実をつけますが、葉や茎にはアルカロイドやサポニン、根には硝酸カリが含まれていて、食べると中毒を起こすこともある毒性のある植物です。
同じくヒヨドリジョウゴにも有毒なソラニンが含まれています。
●ヨウシュヤマゴボウ(ナデシコ目ヤマゴボウ科)
北アメリカ原産で日本には明治初めに渡来
現在は帰化植物として国内に広く分布
●ヒヨドリジョウゴ(ナス科)
北海道から沖縄まで日本全国に分布するナス科の多年草
日当たりのよい場所を好み、林縁、山の斜面、草地、川岸、道端などで他の樹木などに絡みついて育つ
全草にソラニンを含むため、食べられないが、漢方では「白毛藤」という生薬として、解熱・解毒・利尿に用いる
また、野鳥の森の脇を流れる南川渓谷のほとりには、マムシグサが実をつけていました。
その名前の通り、花のカタチがマムシに似ていることから名づけられたマムシグサ。秋が深まると、鮮やかな朱赤の実をつけます。昨年も五百淵の探鳥会や三春ダム周辺でよく見かけました。
マムシグサも全体にシュウ酸カルシウムの針状結晶、サポニン、コイニンを含む有毒な植物。実にも毒があり、触るだけでかぶれることもありますが、ジョウビタキやヒヨドリ、シロハラなどは赤く熟した実をついばむことがあるそう。
野鳥は餌を得て、マムシグサは野鳥に実を食べてもらうことで、広範囲に種子をばら撒くことができる“もちつもたれつ”の共生関係。
野鳥にも植物にも、お互いに助け合っているという意識はないのかもしれませんが、それでもこうしたお話をうかがうたび、種を次世代へとつないでいく自然界のしくみに「よくできているなあ」と感心せずにはいられません。
●マムシグサ(サトイモ科)
北海道から九州に分布する多年草
明るい森林や谷沿いのやや湿った場所に生育する
名前の由来は、茎(正確には偽茎)にマムシに似た模様があることから
マムシグサの仲間には雄株と雌株があり、成長の途中で性転換する。球根に栄養が貯まると雄株になり、さらに栄養が貯まると雌株になるが、栄養状態が悪いとまた雄株に戻る(これは栄養状態の良くない地域で生きていくための工夫とのこと)
そのほか、五百淵と野鳥の森で見かけた秋の植物たちをご紹介します。
甘い香りをふりまく和製モンスタープランツのクズ(マメ科)。
ニセアカシアなどと同じく、アレロパシー(他感作用=植物が放出する化学物質によって、他の植物や虫に殺菌や成長・発芽の抑制、忌避作用など、様々な作用をもたらす現象)を持つマメ科植物。ものすごい勢いで成長します。
最近は日本のみならずアメリカでも猛威をふるっているそう。
ウメモドキ(モチノキ科)の赤い実も見られました。
庭木としても人気のウメモドキは本州・四国・九州の日当たりのよい場所で見られる落葉低木。葉のカタチが梅に似ていることから「ウメモドキ」の名がついたそう。
カシノナガキクイムシ…自然のしくみからナラ枯れを考える
野鳥の森を散策中、頂上近くが茶色に変色したコナラの木を見つけました。
「これは『ナラ枯れ』ですね。カシノナガクイムシに寄生されたのでしょう」と案内人さんが教えてくれました。
ナラ枯れは、「ナラ菌」と呼ばれるカビの仲間の病原菌を、カシノナガキクイムシという虫が運ぶことによっておこります。いわば、樹木の感染症のようなもの。
カシノナガキクイムシはその名の通り、カシの木に寄生する虫ですが、東北にはカシが少ないため(検索したところ宮城県が北限とのこと)、ミズナラなどに寄生することが多いそうです。
「この虫は樹木の幹や枝、新しい梢などに穴を空ける穿孔性害虫の一種です。雌にはナラ菌という菌類を運ぶ『マイカンギア』という器官があり、枯れた木から生きている木へ菌類を運び、内部から木を枯らしていきます」と案内人さん。
県内でも会津地方のミズナラの森で大発生し、大きな被害が報告されています。また、郡山市内でも、ナラ枯れの被害に遭った木を伐採したまま、放置したことで、被害が拡大したケースがあるといいます。
今回発見したコナラの幹からは白っぽい木屑のようなものが出ていました。これは、カシノナガクイムシが排出した木屑や植物の組織のかけら、糞などが混じった「フラス」と呼ばれるもの。幹にフラスが見られる樹木は、カシノナガクイムシに寄生されている可能性が高いそうです。
案内人さんによると、この木からは3年くらい前からフラスが大量に排出されており、カシノナガキクイムシに寄生されていることはわかっていましたが、ナラ枯れが急激に進行したのは、今年になってからだそう。猛暑の影響で、木が夏バテになったのではないかとのことでした。
「樹木も人間と同じですよね。人間も健康で、免疫力が高いときは、ウィルスや細菌が入ってきても負けませんが、体が弱ると免疫力が下がり、病気になってしまいますよね」
すでに幹の中に虫はおらず、今残っているのはナラ菌だけの可能性があるそうです。ナラ枯れの広がりを防ぐためにも、早急に伐採し、処分する必要があるといいます。
また、来年か再来年には、ナラタケというキノコが発生する可能性もあるそう。案内人さんによると、「ナラタケはけっこうおいしい」らしいです💦
森や森の木を扱う人びとに、大きな被害をもたらすナラ枯れですが、案内人さんは「かならずしも、悪影響だけではない」と言います。
「カシノナガキクイムシが宿るのは太くて大きな木です。それが枯れて倒れることによって、それまでその木の影になり、太陽の惠みを受けられなかった低木に光が当たるようになるのです」
森全体の新陳代謝が進み、リフレッシュするという感じなのでしょうか。私たちはどうしても「虫と細菌によってナラが枯れた」という目の前の現象に注目しがちですが、もっと視野を広げて、「循環」「サイクル」という視点から森や生態系、自然界をとらえる必要があるのかもしれません。
●カシノナガキクイムシ(コウチュウ目・ナガキクイムシ科)
体長4~5mm
黒っぽい円柱形をしたカブトムシの仲間
比較的古くから日本に生息していたと思われる害虫
※以下は下記サイトより抜粋
6月上旬、幹に穿孔したオスが数cmの長さまで母坑を掘り、仲間やメスを引き寄せるフェロモンを出す。
交尾が終わると、メスは坑道をさらに掘り進み、卵を産む。このとき、坑道壁面にアンブロシア菌(ナラ菌とは違う?)を植え付ける。
孵化した幼虫は、壁面で生育したアンブロシア菌を食べながら成長し、さらに坑道を伸ばしていく。やがて、垂直方向に長さ1cm程度の部屋をつくり、蛹となり、越冬し、翌春成虫となり、初夏に樹木を脱出する。
森の一角につまれた丸太が示すもの
野鳥の森の一角に、2年前に伐採した丸太がそのまま放置されていました。「そろそろなじんで、森の肥料になるのでは?」と案内人さん。
微生物によって分解が進み、やがて土に還るということでしょうか。
森の植物たちは肥料を与えなくても、森の土壌から必要な栄養を吸収し、太陽の光を浴びて、光合成をし、成長し、花を咲かせ、種子をつくります。
そして、次世代へと生命をつないだ後、ある種(しゅ)は葉を落とし、ある種は全草が枯れ果て、土へと還り、微生物に分解されて、新しいいのちの栄養となっていく…
森の一角に積まれた朽ちかけた木は、そうした「森の植物のサイクル」を示しているかのようでした。
探鳥会の案内人を務める日本野鳥の会郡山支部の皆さんは、ゆくゆくは野鳥の森をコナラやクヌギ、クリなどが生い茂る里山の雑木林として整備したいという構想を持っているそうです。
昨年「里山再生」の一環として、森の日照を遮っていたニセアカシア(ハリエンジュ)を伐採し、ヤマザクラを植樹しましたが、日陰に弱いため、成長が遅いのだとか。今年も植樹したそうですが、花を楽しめるようになるまで、10年程度かかるのではないかとのことでした。
昭和40年代まで、五百淵と野鳥の森周辺には農家があり(軒数は不明)、菜の花畑が広がっていたそうです。詳しいいきさつは不明(聞き忘れました💦)ですが、昭和40年代に郡山市が土地を買い取り、公園として整備しました。そのころは菜の花畑が広がり、サンコウチョウも生息していたそうです。
●サンコウチョウ(スズメ目カササギヒタキ科)
本州以南の平地から山地の鬱蒼とした森に生息する夏鳥
コバルトブルーのアイリングとオスの長い尾羽が特徴(この鳥も見てみたい!)
秋の野鳥の森で見られる素朴な野草たち
以下は野鳥の森で出会った秋の野草たち。
赤い花はミズヒキ(タデ科イヌタデ属)かな?
背後の白っぽい花はチヂミザサ(イネ科チヂミザサ属)と思われます。
どちらも地味だけど可憐。
下の写真は、Googleレンズ調べによるとケイノコズチ(ヒユ科イノコズチ属)
本州・四国・九州の道端や林内の木陰などに生育する多年草です。
イヌタデかと思いきや、Googleレンズによる検索ではヤナギタデでした。
(どちらもタデ科イヌタデ属)
花が薄ピンクで、集合花がヤナギのように垂れ下がるのがヤナギタデのようです
今となっては見分けがつかず…。
またしてもアカボシゴマダラが飛来!
五百淵から野鳥の森に入り、植物のお話をうかがっていたら、私たちを追いかけてきたのでしょうか、またしても「アカボシゴマダラ」が現れました。
慌ててカメラを構えるも、またしてもひらひらとどこかへ飛び去ってしまいました。動きが本当に早いです。
しかし、その後、南川渓谷沿いの水辺で本日3度目の遭遇!
同じ個体かどうかは不明ですが、今度は雨上がりの水辺に止まり、静かに羽を広げたり閉じたりしながら、その場にとどまり、撮影のモデルとなってくれました。
なぜ、今度は逃げることなく、動かずにいたのか不明だったのですが、案内人さんから「暑いので、体温調節のため、吸水しているのでしょう」と解説してくださいました。
※下記サイトによると、チョウの吸水行動には、体温調節のほか、栄養成分補給のためという説もあります。理由ははっきりとはわかっていないようです。
また吸水するのは、多くがオスだそう。
この日は最後に黒いアゲハチョウも目撃しました(残念ながら撮影できず)
黒アゲハに似ていましたが、後ろの翅に水色の模様が見られました。
案内人さんの間でも「ナガサキアゲハ」か「モンキアゲハ」か、意見がわかれましたが、どちらにしても希少なチョウであることは間違いなさそうです。やはり南下している途中だそう。
「アカボシゴマダラ」もそうですが、先日はこちらも希少種である「ルリタテハ」も観察されたそう。
これも気候変動のせいでしょうか。それとも野鳥の森のシードバンクが芽吹いたことで、これまで見られなかった植物たちが花や実をつけるようになり、それを目当てに、これまで見られなかったチョウたちが集まるようになったのでしょうか。
少しずつ五百淵や野鳥の森が変化している気配を感じました。それが生態系にどのような影響を与えるのか、よいことなのか、それともそうではないのか…わたしには、まだまだわからないことばかりです。
来週は郡山市西部に位置する逢瀬公園での探鳥会。案内人さんによると「フジバカマにアサギマダラが来ているかもしれない」そうです。
はじめて参加した高篠山森林公園での探鳥会で、いきなり胸元にぶつかるように飛んできたアサギマダラに出会い、感激したことがありました。ぜひ来週の探鳥会でも”旅するチョウ”アサギマダラにぜひお目にかかりたいものです。
※残念ながら翌週の探鳥会は、諸事情により不参加となりました
〈この日の鳥合わせ〉
●ドバト
●ダイサギ
●コサギ
●カルガモ
●ゴイサギ
●ホシゴイ
●マガモ
●バン
●オオバン
●ハシビロガモ
●カイツブリ
●ハシボソガラス
●ハシブトガラス
●シジュウカラ
●ヒヨドリ
●キジバト
●ササゴイ
●カワセミ
●アオサギ
●スズメ
●メジロ
●ハクセキレイ
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