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【ショートストーリー】カワセミに出会った日…南川渓谷を歩く③(福島県郡山市)
福島県郡山市の南川渓谷のおさんぽ記録。
今回はショートストーリーでご紹介。
今回の主人公はアイカ(30代女性)。
後半の写真は「南川渓谷を歩く①②」で紹介し切れなかった「駐車場から国道4号バイパス」までの渓谷の写真です。こちらもすごく好みでした。岸辺の石とゆらめくリフレクション! モネの絵画を思わせる美しさでした。
「南川渓谷を歩く②」はコチラ↓
「五百淵公園の近くに『南川渓谷』っていう場所があるよ。あそこならマインドフルネスにぴったりなんじゃないかな?」
マインドフルネスに向いてる場所ってある? 20年ぶりくらいに合った友人にそう尋ねると、そんな返事が返ってきた。
なんでも郡山市内を流れる南川の水辺に五百淵公園から国道4号バイパス(現在は昇格して普通に「国道4号」になっているらしい)まで続く遊歩道が整備されているらしい。
最初は「川辺かあ…」と思っていたアイカだが、友人の話では、住宅街の下のほうをひっそり流れる川で、市街地にありながら”手付かずの渓谷感”があるという。
へえとアイカは思った。そんな場所が郡山にあるなんて知らなかった。
早速検索してみると、確かに市街地を流れる川とは思えない雰囲気の写真がたくさんヒットした。うっそうとした木立に覆われ、森の中を歩く感じが満載だ。
(行ってみるか)
アイカはシューズクロークから、購入したばかりのホーキンスmount599を取り出した。
駐車場に車を停め、車から降り、助手席のシート下からシューズを取り出す。トレッキングシューズが必要なほどの渓流じゃない。だけど、水辺を歩くのだから、防水加工のシューズがいい。靴紐をしっかり結び、アイカは歩き出した。
(すごい…! こんなところがあるなんて!)
展望デッキから続く階段を降りたアイカは、目の前に広がる風景に心を躍らせた。
新緑の樹木と草に覆われた川辺があり、澄んだ水が軽やかな音を立てながら流れていく。ツタが川辺に積まれた石の壁を覆い、岸辺には可憐なヒメジオンと独特な匂いを漂わせるドクダミの花が咲く。
陽光が川面に落ちて、キラキラと光る。木々が枝を揺らし、その切れ目からは青空が見え、緑の葉を透かしながら日差しが地面に落ち、不思議な影が手招きするように揺らめく。
そして、心地よい野鳥のさえずりが緑の中に響き渡る。右からはウグイスとカッコウだろうか、左からはなんの鳥だろう? ピッ、ピッ、ピッとスタッカートのような高音の鳴き声が聞こえてくる。
友人の話では、南川には「野鳥の森」と呼ばれる「五百淵公園」が広がっており、特にこの時期はさまざまな野鳥の声が聞けるらしいのだ。
足を止めて、野鳥の声に聞き入っていたら、バードウォッチング中だろうか、双眼鏡とカメラを下げた70代くらいの男性が「今日は翡翠(カワセミ)の声がよく聞こえますね」と話しかけてきた。
「カワセミの鳴き声が聞こえるんですか?」
そう問い返すと、男性は微笑んだ。
「このピッ、ピッ、ピッ…という少し甲高い声がカワセミなんですよ。姿をご覧になりましたか?」
「残念ながら、まだ…」と答えると、男性は「わたしは今日、2回見ましたよ。あなたも、きっと出会えますよ」と言い、「じゃあ」とその場を去っていった。
その後ろ姿を見送り、アイカは再び歩き出した。
カワセミ。漢字では「翡翠」。その名の通り、水辺の宝石と呼ばれる美しい緑色の羽を持つ野鳥。
もしかしたら、カワセミに会えるかもしれない。
![](https://assets.st-note.com/img/1686106107399-MOh9d8w4YB.jpg?width=1200)
五百淵公園近くの小学校まで歩き、そこから来た道を折り返し、一度、駐車場へ戻る。そこから今度は国道4号バイパス方面へと向かう。
(わあ…!)
アイカは目を輝かせた。
住宅街から約2、3メートルは下だろうか。岸辺に敷かれた石畳の間を川が流れる。外界からの視線を遮るように樹木が枝を差し伸べ、川を隠す。川面には、緑のリフレクションがゆらめき、日差しがキラキラと輝く。まるで印象派の絵画のような美しさだ。
先ほど年配の男性から教えてもらったカワセミの鳴き声が、ピピピ-ッ、ピッ、ピッ、ピッとスタッカートのように響きわたる。
頭上にある住宅街から、子どもたちが走り回り、はしゃぐ声が聞こえてくる。すぐ近くにいるのに、まるで別世界に迷いこんだかのようだ。
(確かにマインドフルネスにぴったりかもしれない)
アイカは川辺に設けられた木のベンチに座り、ミネラルウォーターでのどをうるおした。
そっと目を閉じる。川の流れ、木々の葉ずれが聞こえ、ピピピ-ッと高音の鳴き声が響き渡る。
![](https://assets.st-note.com/img/1686110150386-sWKgBPudHA.jpg?width=1200)
ピピピ-ッと高音の鳴き声が聞こえ、アイカは目を開けた。
(カワセミ…?)
目の前の水辺に翡翠(ひすい)のような色の羽を持つ、小さな鳥がたたずみ、ピピピ-ッとさえずり、突然川の中に飛び込んだ。緑色の羽が揺れ、水しぶきが上がる。
緑の渓谷の中、川面の緑のリフレクション。その中にゆらゆら揺れる翡翠色の野鳥の姿。
「美しい」という言葉しか出てこなかった。
アイカは再び、そっと目を閉じた。
頭をからっぽにするのではなく、この美しい自然に心を解放してみよう。心の中にある不要なものをすべて捨ててしまおう。
カワセミのさえずりを聞きながら、体が溶けて透明になっていく自分を想像する。意識も溶け出して緑に染まり、川の流れになり、ゆらゆら揺れる日差しとなり、カワセミとなり、川へと飛び込む。水飛沫が上がり、石畳を濡らす。
風が吹きすぎる。やさしい指先でアイカの頬を撫でていく。
………どれくらいそうしていたのだろう。
ふと、人の気配を感じて、アイカは目を開けた。
すぐ隣に緑色のTシャツとハーフパンツ姿の青年が立っていた。年の頃は20歳くらいだろうか。不思議なことに青年の服は水に濡れていた。人形のように整った顔だちを取り囲む茶色の髪も濡れて、水が滴り落ちている。透き通るような白い頬が緑色に染まって見えるのは、緑陰のせいだろうか?
青年は濡れた服を気にすることなく、アイカのほうを向き、柔らかく微笑んだ。
「カワセミ、飛んでいっちゃいましたね」
青年はそう言うと、「じゃあ」とも言わず、その場を去っていった。
アイカは慌てて、カワセミが佇んでいた場所を見た。”水辺の宝石”は姿を消し、鳴き声も聞こえなくなっていた。
カワセミの鳴き声が止んだ瞬間、その場にあらわれた不思議な青年。緑を映す白い頬。水に濡れた服…。ふと、水飛沫を上げるカワセミの姿が浮かんだ。
(もしかして、あの人、カワセミの…?)
そんなことを思い、アイカは笑った。
そんなこと、あるわけない。ただの妄想だ。
ピピピ-ッ!
再び高音の鳴き声が渓谷の緑に響き渡り、アイカは頭上の緑陰を見上げた。もう、頭の中のダメだしは聞こえなくなっていた。(了)
ここからは「南川渓谷を歩く②」の続き。
駐車場から国道4号バイパス手前までの風景を紹介します。
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整備される前の南川は、捨てられたゴミが散乱するなど、今の美しさからは想像できない風景が広がっていたそうで…。今のようにきれいに整備されたのは、平成に入ってからとのこと。
この美しく、森林浴、マインドフルネスにぴったりなスポットをたくさんの人に
知ってほしいような、自分だけのものにしておきたいような、ちょっと複雑な気分になっています。
今後も郡山市内のおすすめ「水辺スポット」を紹介していきますので、スキやフォロー、コメントなどをいただけるとうれしいです。サポートもよろしくお願いします!
「緑陰と水辺のマインドフルネス」に関するマガジンを作成しました↓
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![まひろ@自然を写し取りたい](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/143808913/profile_b399d4333d1b9cae8ee26558175e1a1e.jpg?width=600&crop=1:1,smart)