花生産者のために花屋は何ができるか?
花の業界に入って26年。
アルバイトから始めて今は経営者になりました。
SDG's・フラワーロス・生産農家の苦境など花屋の社会問題への取り組みを見るようになって、「花ギフト専門店」に向け私の思うことを書きたいと思います。
結論
花屋ができることはたくさん売って適正価格でたくさん仕入れること。
大きな社会問題に取り組む前にまずは自店の収益を上げることに専念する。
生産農家の現状を分かってる?
最近様々なものの値段が上がってきていて花屋においても仕入れ原価が高くなっています。
仕入れ原価の上昇は花屋経営を直撃するので苦しい状況になりますが、国内生産の花が減少している状況では一時的な価格上昇ではなく今後も続いていくと思います。
しかし長期的に見れば仕入れ価格の上昇は花業界全体で見れば望ましいもので、小売店が販売価格に転嫁して高値を維持することで国内花生産の縮小を食い止めることができます。
生産者目線で言えば生産コストと十分な利益を確保できる「上等級品」が適正な価格で売れることが一番望ましことで、フラワーロスと呼ばれる商品価値のない廃棄するような花をいくら出荷してもほとんど輸送コストに消えて利益はなく、逆に収益源である上等級品の花が売れなくなるのでさらに農家経営を圧迫します。
つまり上等級品が大きな収益源で下等級品はその副産物。
下等級品をどれだけ売っても生産者の利益にならないので、フラワーロスを社会問題視して「生産者のため」と活動している方はぜひ上等級品を適正価格でたくさん買ってください。
それが本当の「生産者のため」になります。
生産農家との定期注文契約
生産農家へ行きいろんな情報を収集している中で多くの生産者から生産コストの高騰を聞くようになりました。
肥料や燃料、ハウスのビニールも価格が上昇しているとのことです。
花は時価(セリ)で取引され現状の取引方法では「買い手側」が値段を付ける構図となっているので、上昇した生産コストを考慮して高値で仕入れをしてくれる神様のような買い手はいません。
つまり生産コストがどれだけ上がっても価格は市場(セリ)に委ねられるので結果として上昇コストは生産者が負担することになります。
「生産者のため」に活動している花屋ができることは、生産者の希望価格で
毎週1回~3回決まった本数を仕入れる定期注文をすることが一番です。
ただし繁忙期だけでなく閑散期も同じ価格で購入しなければ意味がないので、1年以上は継続して契約してください。
そういった定期注文をする花屋が10件20件と増え、生産量の50%以上が定期注文になれば生産者の経営は今より安定するでしょう。
私の経営する店では多くの花を定期注文し、中には10年以上継続して同じ生産者から希望価格で購入しています。
フラワーロスなんてただのイメージ戦略
フラワーロスは大手企業のブランドイメージ戦略として使われる「ビジネス」手法で、アパレルなど花の専門外である彼らに任せておけばいい。
現実はそんなのんきなことをやっている暇などなくかなり深刻な状況です。花のプロである私たち花屋がその影響を受け乗せられて同じような活動をしている間に国産の花生産はどんどん減少しています。
燃料コストや資材の価格上昇、生産者の高齢化によりさらに国産の花が減少していくことは明確で、「今のままの価格」で推移すると30年~40年後には国内生産はほぼなくなります。
今後景気がもどり需要が増えてきても国内産の花は不足し、年間1億本程度の輸入の花でも補いきれないので当然価格が上昇すると予測しています。
仕入れ価格が上昇すればフラワーロスだと活動していた大手企業はコスト高を考慮してあっさりと撤退するでしょう。
そして安易な考えで低価格路線をとった花屋は急な高価格帯への軌道変更ができず更なる苦境に陥ります。
上等級品はギフト専門の花屋にしか販売できないものなので、より高値で売れるような魅力的な商品を開発しなければなりません。
「ギフト専門」の仕事の本質とは何か?
「仕入れた花に付加価値を付けて高く売る」
これを追求してこそプロの花屋の仕事だと考えています。
1本100円の花をどうすれば1,000円で売れるか?
経営者であるならば朝から晩まで利益追求を考えて、その収益でまた生産者から適正価格で仕入れをする。
生産者は商品価値がない廃棄するような花ではなく、高い生産技術によって作った「自慢の花」を売りたいに決まっています。
その上質な花に花屋がデザイン(付加価値)を加えて消費者に喜んでもらう。
これが花屋の本来の仕事ではないでしょうか?
価値がない廃棄するような花をタダ同然で引き取り、フラワーロスだ社会問題だと消費者に訴え低品質の花を飾ってもらうことは生産者も花屋も消費者も誰も得をしていません。
中にはSDG'sを履き違えて花屋で売れ残って廃棄される花までゴミが増える問題だという方もいますが、それはただ仕入れが下手なだけだし、生産し出荷された花は枯れたら必ずどこかで廃棄されます。
そこまで言い出すともう花なんて作らなければいい。
生産者も花屋も輸送も含め花業界自体なくなれば花関係が排出するゴミや温室効果ガスはなくなり地球環境は良くなりますが、これは結果として自分自身の存在を否定していることになります。
何が言いたいかというと「仕事」として花の仕事をしているのであれば、収益を上げることに専念してほしいということです。
利益が薄い安売りをしたり、下等級品を安く販売することばかり目を向けていて花業界にかかわる皆が貧しくなるような路線に進んでいます。
生産者だけでなく自分の花屋で働く従業員の給料も安いままなのに、そこは目をそらし社会問題への取り組みでごまかしている。
私も含め業界規模が小さい花屋には社会問題への取り組みより優先すべきことが山積みなので、まずは自分の店の問題から取り組んでいただきたい。
大きな問題への取り組みはまだ先です。
生産者と市場にも問題がある
バラでいえば曲がりのない80cmの真っすぐな茎で、花にも傷がない商品に「秀2L」という最上ランクがあります。
花に問題がなくても茎が少しでも曲がっているとランクが落ちて「優2L」になり、長さが70cmになると「L」の表記になります。
生産者は労力を費やして「秀2L」を作り、高値で高級ギフト生花店に仕入れてもらうことを目指しているのではないでしょうか?
花市場もその商品を褒め称え最高値の情報だけを他の生産者に伝えます。
しかしこのモデルで成功している生産者はごく一部だけです。
2番手3番手の生産者がほぼ同様の商品を出荷しても1~2割低値段となり、
1番手と同様のコストをかけたせいで利益率が低くなり、結果経営が苦しくなります。
近年は家庭用需要が伸びている中、一般家庭に80cmの花はあまり必要とされないので生産コストが低い50cm~60cmを主体とした生産にすればいいところを、花市場が伝える「他人の高値の情報」と「自分自身の過度な職人のこだわり」のよりまた多大な労力をかけて「秀2L」作りを目指してしまいます。
花市場は花屋から情報収集し正確に生産者に伝える。
生産者は需要に合わせた生産を行う。
情報というのは「1次情報」がとても重要で、生産者が情報を得るべき相手は自分の花を買ってくれる客「花屋」です。
花屋(客)が求めているものに合わせた生産をしなければ、いつまでたっても需要と供給がずれたままになり、生産者は「良いものを作ったのに売れない」、花屋は「ほしい花がない」と平行線になります。
花は業界関係者同士の交流が少ないので中核を担う花市場が率先して活動してほしいものです。