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上手く書けない時は寝てしまおう ~空海の作文講座~
空海といえば、日本における真言密教の祖。その空海が、「文章の書き方」をアドバイスしている一節があります。歴代中国の漢詩を解説した『文鏡秘府論』の一節ですので、厳密には詩(韻文・散文)の創作理論ですが、文章作成全般に通底すると私は解釈しています。
文章は興に乗じてたちまち作れ
興なくんば 睡るに任せよ
睡れば大いに神を養う
(『文鏡秘府論』)
「興に乗じて」の「興」は、「面白み、喜び、楽しさ」を意味する漢字です。
甲骨文字でも存在しており、向かい合う二人が両手を上げて、真ん中の神輿を担いでいる様子を表しています。そのように見えてきませんか?
この漢字の成り立ち自体にも興が湧きます。
文章は気分が乗っている時、すなわち書くことを楽しめている時に、一気呵成に書いてしまおう!というアドバイス。
経験から誰もが知っていることですが、1200年も昔、かの空海さん(当時40歳代後半)もそうだったのか…と思うと、親近感が湧いてきます。
高揚感のある時にサッと書き上げ、喜びを感じない時には、眠ればいい —
考え過ぎかもしれませんが、「睡る」という文字を用いていることにも、一理あるように思います。
「睡」の字義は「仮に眠る」です。
睡魔には抵抗せず、横になればいい — その間も脳は活動しているのだから、自分の潜在能力に任せてよい、と保証してくれています。
「睡れば大いに神を養う」
「神」には「霊妙な心の働き」という意味があります。
作意ではなく、自然に湧き上がってくるもの。
精神は文字通り、神に通ずるものなのですね。
これもまた、経験のある方が多いと思いますが、目覚めた直後にインスピレーションが湧く、ということがあります。
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場合によっては徹底的な思考や、細かな推敲がふさわしいこともあるでしょう。
書いた文章を寝かせた後、自分が第三者の目になって加筆修正するプロセスも大切です。
しかし意外なことに、あっという間に書けた文章ほど共感を得やすいこともあるものです。
湧き上がってきた言葉を素直に紡ぐことの大切さを教えてもらった気がします。
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『文鏡秘府論』文化遺産オンライン(文化庁)