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化学ニュースピックアップ Vol.5 ~全固体電池の仕組みと可能性~

(前半無料です)
電池を研究する者の夢と言っても過言ではない、全固体電池
その名の通り、全てが固体です(従来の電池には電解が含まれています)。
半世紀以上前から研究されている技術ですが、その難易度は高く、文字通りの夢でした。
しかし、遂に実用化され、普及も現実味を帯びてきました。
現在、実用化されているのは、ボタン電池クラスの小型のものです。

全固体電池のメリット

全固体電池が従来の電池と異なるのは、電解液を使っていないという点です。つまり、電解質が固体なんです。
従来の電池(主にリチウムイオン電池)と比較した全固体電池のメリットは

液漏れが無い
〇電解液の劣化や発火がないため、安全性が高く長寿命
小型で発熱が少ない→冷却機構が不要
〇使用可能な温度範囲が広い=極寒の地域でも使える
充電速度がリチウムイオン電池の3分の1以下
エネルギー密度がリチウムイオン電池の3倍
 =電気自動車の航続距離や、スマートフォンのバッテリーの持ちが伸びる

いかがでしょうか?
全固体電池が如何に優れているか、電池研究の夢だったかがお分かり頂けると思います。
今後数年で、全てのリチウムイオン電池が全固体電池に置き換わるとも言われています。もしかすると2021年は、様々な用途に少しずつ全固体電池が使われるようになる、普及元年になるかもしれません。

そもそも、電池にはなぜ電解液が必要なのか、電池の仕組みから見ていきます。

電池の仕組みと電解液の役割

一次電池

電池について簡単に表現すると「化学反応によって電子を流す小さな発電所」となります。

有名なボルタ電池の仕組みを例に、もう少し詳しく説明します。

名称未設定のアートワーク

図は、酸性水溶液中に亜鉛板(Zn)と銅板(Cu)を漬けています。
そして、亜鉛版と銅板は電球を介してつながっています。
酸性水溶液は希硫酸(H2SO4)かクエン酸水溶液(レモン水)のことが多いですね。この水溶液が電解液の役割を果たします。

イオン化し易い亜鉛がイオン化することで電子が発生し、銅板に移動します。それによって電流が流れて電球が点灯します。

名称未設定のアートワーク(1)

そして、銅板に移動した電子は水素イオンとくっつき、水素(H2)が発生します。すると、また亜鉛がイオン化して電子が移動し、水素が発生するというサイクルを繰り返します。
こうしてボルタ電池は電流を流します(電流は電子とは逆向きに流れます)。
電解液の中をイオンや物質が動くことで電子の流れが起きるわけですね。
水に溶けるとイオン化し、電気を流すようになる物質を電解質と呼び、電解質を溶かした水溶液などを電解液と呼びます。

名称未設定のアートワーク(2)

ただ、しだいに銅板の周りに水素が集まり、電子が水素イオンとくっつくのを邪魔してしまいます。こうなると電子の移動がなくなり、電流は流れません。

名称未設定のアートワーク(3)

この問題があるため、ボルタ電池は実用化されませんでした。
ただ、多くの電池の仕組みはボルタ電池と変わりません(使用される材料が異なります)。

そして、一次電池は材料(ご紹介した例だと亜鉛板)が反応によってなくなると電子の移動はなくなり、使えなくなります

〇 二次電池

一次電池と違い、充電することができる電池を二次電池と呼びます。
一次電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変換するだけでした。
しかし、二次電池は充電によって、電気エネルギーを化学エネルギーに変換することができるんです。

代表的なのはリチウムイオン二次電池ですね。
下図のように、正極・負極共に層状になっていて、層の間にリチウムイオンを保持しているのが特徴です。

リチウムイオン電池

充電すると、リチウムイオンが正極の酸化コバルトから負極の炭素材料に移動します。そして、炭素の結晶構造の中(層間)にリチウムイオンが保持されます。
放電する時(スマートフォンやLEDなどに接続)は、炭素材料の層間に保持されていたリチウムイオンが正極に移動します。それによって、外部回路に電流が流れます(スマートフォンなどが充電される、LEDが点灯するなど)。

このようにして充放電が出来るため、一次電池のように電極材料がなくなることはありません。

ここでも、電解液の中をイオンが移動することで電子が流れています
人の血液のように、物質を搬送して受け渡す重要な役割を担っています

今は大分改善されましたが、リチウムイオン電池が普及し始めた頃、発火による事故が相次ぎました。電解液に水ではなく、有機溶媒を使っていたためです(水はリチウムと反応してしまう)。
安全性が大幅に向上した今でも、直射日光の当たる場所や高温環境で発火する事例が出ています。
と言っても、無理な使い方をしている例が多く、そういう使い方をすることが問題とも言えます。
また、長時間使用すると発熱によって熱くなります。そのため、リチウムイオン電池や電池を組み込んだ機器には冷却機構が必須です。

ところが、全固体電池ならこれらの問題は起きません
電解液が無いからです。

では、全固体電池はどのような仕組みなのでしょうか?

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