水酸化アルミニウムのゲルと深海のエビ
水酸化アルミニウム(Al(OH)3)は、胃炎用の薬や吸着剤、防火機能の有る建築材などに使われています(熱すると酸化アルミニウムと水が生成するため)。また、樹脂に混ぜて人造大理石にするときにも使われます。直接目にすることは殆どありませんが、広範囲に使われている物質です。
水酸化アルミニウムの粉末(NIPRO医薬品情報 http://med.nipro.co.jp/ph_product_detail?id=a0A10000015H3ISEA0)
水酸化アルミニウムの水溶液は、アルカリ性条件でゲル化するという特徴があります(弱アルカリでもゲル化します)。
先日、それに関連した興味深い記事を見つけました。
深海でゲルに覆われているエビが居るというのです。
「カイコウオオソコエビ」という名前です。
カイコウオオソコエビ(https://nazology.net/archives/37312)
このエビ、マリアナ海溝の最深部「チャレンジャー海淵」という、水深1万メートルの過酷な場所に生息しているそうです。
水深1万メートルでは、1000気圧(1平方センチ当たり1トン)の水圧がかかり、水温も2℃、光は届かず、真っ暗闇です。
そして、カイコウオオソコエビは、水酸化アルミニウムのゲルに包まれているんです。驚きですね。
ゲルによって水圧などから身を守っているようです。
水酸化アルミニウムは、三つの水分子がくっついた水和物の状態を取っていて、その水和物同士が脱水によって繋がります。
このように水酸基同士を介してネットワークを作り、ゲル化します。
ゲルの要素となるアルミニウムは、海底の堆積物から取っているようです。エビの体内にあるグルコン酸が、堆積物からアルミニウムイオンを取り込んでいます。
グルコン酸はキレート効果を持っています。キレートとは、「カニのはさみ」という意味のギリシャ語から派生した化学用語です。
図のようにして金属イオンを捕捉します。
ニュースの元となった論文を読むと、カイコウオオソコエビの生息している付近の海水はpH8と弱アルカリ性のため、外骨格の水酸化アルミニウムは瞬時にゲル化し、外骨格を覆うようです。
しかし、水酸化アルミニウムのゲルがどうやって外骨格に結合しているのか、そのゲルはずっと安定な状態なのかは不明で、更なる調査が必要とのことです。
深海は現在でも謎が多く、ようやく見つけた生物も、生態を調べるのは容易ではありません。
深海生物のニュースは驚きと謎に満ちていて、本当に面白いです。