山火事を防ぐゲル材料と難燃剤の話
大規模な山火事では、空から難燃剤が散布されます。
しかし、風で飛ばされたり雨で流されるため、効果は長期間持続しません。
そこで、スタンフォード大学の研究者は難燃剤を含ませたゲルを散布すれば、長期間に渡って火災を防ぐことが出来るのではないかと考えました。
電柱の周囲にゲルを散布し、野焼きにさらした実験。
炎は電柱に達することなく、難燃剤の効果を確認出来た。
(https://wired.jp/2020/01/09/wildfire-gel/)
カリフォルニア州の山火事と難燃剤散布
カリフォルニア州の山火事による焼失面積は過去50年で5倍になっています。夏に草木が乾燥し、秋の強風によって大規模な山火事が起きると考えられています。
毎年秋になると発生する山火事に頭を悩ませたカリフォルニア州は、前述したゲル散布による減災を検討しています。
難燃剤入りゲルを開発した人は、最初は医療用ゲルの研究をしていたそうです。体内にHIVの抗体を含ませたゲルを投与すると、そのゲルが体内に長期間留まり、HIVに感染することを防止する技術です。
あるとき、その技術を火事の延焼防止に使えないかと兄に言われました。
「面白いことに、体内で薬を長期投与するために必要な技術と、対象となる植物に数カ月にわたって難燃剤を付着させ続けるために必要な技術は、非常によく似ています」
「安全であること、完全に無毒であること、保護しようとするものの機能を阻害しないことが求められます」
(https://wired.jp/2020/01/09/wildfire-gel/)
これがきっかけで延焼防止技術の研究開発を行い、ベンチャー企業を立ち上げたそうです。
全く関係ない分野に同じ技術を使うのは面白いですね。違う視点で物事を見る大切さが分かります。
開発されたゲルはセルロース(植物の主要成分)とコロイダルシリカ(砂とほぼ同じもの)で出来ています。シリカ粒子とセルロースが結合することでゲル化しているようです。
難燃剤にはポリリン酸アンモニウム(APP)のような水に溶けやすくハロゲンを含まないものが使用されています。
APPは植物の表面に付着して炭化層を作ります。その炭化層の効果と、燃えると水が発生することで火の延焼を防ぎます。
開発したゲルは、ハイドロシーダー(液状肥料などを撒くときに使う装置)のような一般的な装置で散布できるように工夫されているため、簡単に散布できるそうです。
植物に付着するという記述と合わせると、ゲルと言うより、流動性のあるゾル状のものと推測されます。
記事の中に火災発生原因について気になる指摘がありました。
州森林保護防火局によると、かなり多くの火災が急斜面で発生していることが確認されているという。こうした急斜面ではトラクターやトレーラーなどの大型車両が進みにくく、それらがオーバーヒートして停車することによって、車体から藪などに火が点く場合があるからだ。
カリフォルニア州の事例なので、野山の火災全てに当てはまるわけではないと思います。しかし、火災発生の原因を取り除くのが一番なので、その対策も必要ですね。
難燃剤の役割と仕組み
難燃剤はプラスチック、ゴム、木材、繊維などの高分子有機材料を難燃化するために使用されるものです。
では、難燃剤のポリリン酸アンモニウムとはどのようなものなのでしょうか?
それを理解するために、難燃剤はどのような原理で燃えるのを防いでいるのか、図を交えて説明します。
難燃剤は火を消すのではなく、火の勢いを弱め、延焼を防ぐ or 遅らせるものです。効果の高い難燃剤は結果的に消火します。
基本は、熱を除去する、燃焼源を除去する、燃えない層を作る、の3つです。その何れか、もしくは複数を組み合わせたものになります。
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