身近で便利な高分子、ポリ酢酸ビニルとPVA
(*前半無料:前後半の2部構成です)
液状のりやガム、塗料に使われている樹脂、ポリ酢酸ビニル。
木工用ボンドやアラビックヤマト、ガムベース、フェイスパックと、身近なものに応用されています。
酢酸ビニル樹脂(=ポリ酢酸ビニル)は、以下の図のように酢酸ビニルをたくさん結合させて作った高分子です。酢酸ビニル樹脂は略して酢ビと呼ぶことが多いです。
そして、ポリ酢酸ビニルの酢酸基を、けん化という反応で水酸基に変えたのがポリビニルアルコール(PVA)です。
図の[ ]は、[ ]内の構造がn個結合しているという意味の、高分子で使用される表記方法です。
PVAは洗濯のりや液晶ディスプレイ用のフィルムなどに使われている水溶性高分子です。
ポリ酢酸ビニルは水に溶けませんが、水酸基を持つPVAは親水性なので水に溶けます。
ポリビニルアルコールは、下図のように酢酸基がある程度残っています。
酢酸基がどれだけ残っているかで性質は大きく変わります(水溶性や成膜性など)。液状糊のアラビックヤマトに使われているPVAは、酢酸基が2~3割程度残っているものと推測されます(少し酢酸のにおいがしますね)。
酢酸ビニルはその名の通り、原料に酢酸が使われるため、酢の匂いがします。木工用ボンドの独特の香り(?)はポリ酢酸ビニルによるものなんですね。
また、ガムベースに使われていることから分かるように、ポリ酢酸ビニルは口に入れても問題ありません。そして、体温付近(30℃)に軟化点を持っているため、口に入れると柔らかくなります。
ガムベースに最適な性質を持っているんですね(ガムベースには他の高分子も使われるため、ポリ酢酸ビニルとは限りません)。
ポリビニルアルコール
ポリ酢酸ビニルをけん化して作るポリビニルアルコール(PVA)は、分子鎖が規則正しく揃う結晶性を持つため、強いフィルムや繊維を作ることが出来ます。
実際に、フィルムとして液晶テレビや包装材料など、様々なものに使われています。PVAを不溶化した繊維のビニロンも、包装材そして漁網や衣服などに使われます。
PVAは洗濯糊や接着剤としての用途もあります。洗濯糊と言えばスライムですねw
ホウ砂水溶液と混ぜてゲル化する様子は楽しいです。
前述したように、親水性なので水に溶けます。
実は、高分子の多くは水に溶けません。水溶性の高分子は特殊なんですね。
加工するときに有機溶剤を使わないため、扱い易く、低コストです(水は安全で安価)。
PVAはシュードモナス菌という菌が分解します。シュードモナス菌は様々な場所に生息し、多くの種類が存在します。有機化合物を分解しますが、すべての種がPVAを分解するわけではありません。そのため、その辺の土の上に廃棄しても分解される可能性は低いので注意して下さい。
工場などでは、シュウドモナス菌を入れた曝気槽(ばっきそう)にPVA水溶液を流し込み、分解させた後にろ過して排水します。
もちろん、排水する前に検査を行い、pHなどが排水基準を満たしているか確認します。
エチレン-酢酸ビニル樹脂
酢酸ビニルとエチレンを組み合わせたエチレン-酢酸ビニル(Ethylene-vinyl acetate=EVA)も、ポリ酢酸ビニル同様、幅広く使われている樹脂です。
エチレンと組み合わせたことでゴムのような柔軟性を持っています。紫外線への耐性もあり、ゴムの代わりとして使われます。
発砲したEVAは、軽量で安価なビーチサンダルや靴、ゴム状シートや玩具などに使われています。ゴム製品と思って原材料を確認してみると、EVAと表記されていることがよくあります。
EVAのサンダル(Wikipedia)
EVAのエマルジョン(Wikipedia)
他に、ホットメルト接着剤としても広く使われています。
熱をかけて溶かし、冷やして固めます。身近なものだと、グルーガンや裾上げテープがありますね。本の背表紙の接着にも使われます。
ちなみに、熱で柔らかくなる高分子は熱可塑性高分子(プラスチック)と呼ばれます。
こんな感じで、ポリ酢酸ビニルとPVAは色んな使われ方をしています。
PVAはゲル研究者にとって馴染み深い高分子で、単純な構造なのに奥の深い材料です。
後半では、ポリ酢酸ビニルとPVAの歴史や、どんな企業が生産しているのか、PVA繊維と繊維産業などに触れます。
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