クロロホルムの誤解とテフロン
おそらく、名前だけならよく知られている物質、クロロホルム。
あの、ドラマやマンガの犯罪シーンに使われるやつです。
クロロホルムを染み込ませた布で口を覆うと、気絶する。
・・・実は、そんなことは起こりません。
確かに、かつては麻酔薬として使用されていました。
しかし、大量吸入による毒性が明らかになると、クロロホルムに代わってジエチルエーテルが使用されるようになります。
ジエチルエーテルは麻酔薬として優れているのですが、発火点が低いため、
多くの電子機器を扱う最近の医療では使われなくなりました。
話が脱線しました。
クロロホルムは少し吸入したくらいでは人体への影響はほとんどありません。
瞬間的に大量吸入すれば一瞬で気絶すると思いますが、
そんなことをすれば死にます。
気絶では済まないでしょう。
実はここ数年、
ドラマやマンガにはその気絶シーンがあまり見られなくなりました。
間違いを指摘されたのかもしれませんね。
そんな(?)クロロホルムですが、
化学研究ではよく使用される溶媒の一つです。
様々な有機化合物を溶かすことが出来るので
「溶けにくいからクロホを使ってみよう」
ということがよくあります(クロホと略して呼びます)。
また、NMR(核磁気共鳴)測定という物質の分析手法に、重クロロホルムが標準的に使用されます。
クロロホルムはこんな構造をしている、無色透明の揮発性液体です。
そして、甘い芳香を放ちます(味も甘いそうです)。
僕も何度もその芳香を嗅ぎましたw
ドラマやマンガの通りなら、もう何十回と気絶してますね。
とはいえ、あまり吸入しすぎると気持ち悪くなり、血圧や心拍が低下します。
臓器にも悪影響を及ぼすことも分かっていて、酷いときは命を失います。
大量に使うときはガス吸収マスクが必要です。
実は、塩化物が一つ少ない塩化メチレン(ジクロロメタン)も似た性質を示します。
見た目もそっくりですね。そして、クロロホルムより毒性が低いです。
用途によっては、塩化メチレンや、もっと安全な溶媒に切り替えようという流れになっています。
もちろん、研究用途のように、変えの効かない優れた性質や役割も持っています。
代表的なのは、フッ素系樹脂の原料です。
フッ素系樹脂といえばテフロン。
実はテフロンはデュポン社の商品名なんです。
正式名称はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
クロロホルムから作ったテトラフルオロエチレンを重合して作ります。
(重合は文字通り、分子をたくさん繋げて合わせることです。)
耐熱性と疎水性を兼ね備えているため、フライパンなどの調理器具にコーティングされることが多いですね。テフロンコートされているものは汚れ難く、洗い易いですよね。
テフロンコートによって洗い物の手間は大幅に低減されたんです。
いつも使っていると慣れてしまいますが、コートされていないものや剥がれた調理器具(特にフライパン)を使うと、その効果がよく分かります。
さらに、絶縁性と摺動性(滑りやすい)もあるため、電気機器や化学用の機械、ベアリングやワッシャー、チューブや断熱材などにも使われています。
用途は幅広く、私たちの生活に欠かせないものとなっています。
テフロンが一般名称として浸透してしまったので、化学を仕事にしている人でもテフロンが商品名だと知らないこともあるんです。
そして、知っていてもテフロンとしか呼ばないですねw
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