物質の精製の難しさ、大切さ
化学合成を行った後は、精製して不純物を取り除き、目的の物質を取り出す必要があります。
特に有機化合物(炭素を含む物質)の合成は、精製こそがメインと言っても過言ではないかもしれません。
効率良く高純度の物質を取り出すことが求められます。
合成も重要ですが、その後の精製は有機合成化学者の腕の見せ所です。
有機化合物の合成に使った触媒や反応の開始剤、副生成物(目的物質ではないもの)を除去します。
一番簡単なのは、ろ紙でろ過するだけの結晶化です。
目的物の溶けている反応溶液をろ過し、冷やします。これで結晶化することもあります。
大抵は、そこに目的物の溶け難い溶媒を少しずつ加えて混ぜると、目的物の結晶が析出します。
反応が終わった直後は、泥のような状態のことが多いんですが、結晶化させると嘘のように綺麗になります。
どんなものかというと、酢酸ナトリウムの針状結晶のようなものです。
有機化合物の結晶は、分子が様々な作用で凝集し、規則正しく配列した状態のものです。
結晶化するということは、不純物を含まない純粋な物質のかたまりが出来たということです。
つまり、結晶化が精製のゴールなんです。
しかし、前述したシンプルな方法で結晶化するとは限りません。
そのときは、以前ご紹介したカラムクロマトグラフィーを使います。
このカラムクロマトグラフィーも、有機化学者の腕の見せ所です。
クロマトグラフィーの巧拙で、その人の実力が一発で分かってしまいますw
適切な溶媒、カラムの長さ、カラムに詰める物質(シリカゲルなどの担体)の選択、目的物の見極め etc.
このように、カラムクロマトグラフィーには様々な要素があり、一筋縄ではいきません。
でも、これで綺麗に目的物だけを分離できると、最高の達成感を味わえます。
気分は天才化学者ですw
有機合成において、目的物の結晶を得ることは重要なことです。
先日ご紹介した真島利行は、漆からウルシオールの結晶を得たことが最も喜ばしいことの一つだったと回想していますが、実際に有機合成で精製を行うと、その気持ちがよく分かります。
有機化合物の純度が1%違うだけで、見た目や結晶化のし易さが大きく変わります。
例えば、純度98%もあるのに、なかなか結晶化しないことがあります。
そこで、クロマトグラフィーなどで更に精製し、純度99%にすると簡単に結晶化するようになります。
しかも、98%のときは溶媒にすぐ溶けていたのに、今度はなかなか溶けません。
見た目も、99%にすると結晶の形がはっきりし、キラキラと輝いています。
僅かな不純物が目的物を溶媒に溶けやすくし、結晶化を邪魔しているんですね。
こんな風に、たったの1%で大きく変わります。
なので、出来る限り精製して高純度を目指します。
僕は99.999%を達成したことがありますw
こういうのをファイブナインといいます。
*このときの純度は、液体クロマトグラフィーで分析した結果です。
もちろん、精製自体が困難なものや、90%程度で十分なものも中にはあります。
必ずしも高純度を目指す必要があるわけではないんです。
物質を精製して高純度を達成するには、膨大な手間暇を要することが多く、そんなことを毎回やるのは非現実的です。
精製がものすごく大変だけど、高純度にする必要がある。
そんなときは、合成方法や使用する試薬の見直しが一番です。
実は、試薬に含まれる不純物が原因だったりします。
反応に使う試薬を精製すると、簡単に純度98%以上の目的物が得られた。
そんなこともあります(^^;)
日本の試薬メーカーは高品質のものが多いですが、海外から購入する試薬は気を付けた方が良いです。
特に中国製ですね。
石や葉っぱが入っていたことがありますw
むしろ、何をやったら試薬ビンにそんなものが入るのか、メーカーに聞きたいです。
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