中国脅威論というデマゴギー

先日、訪台中の麻生副総裁が「戦う覚悟を」と発言した。
軍備拡張を重ねる中国を念頭に置いた発言であるが、その背景には「中国脅威論」というものがある。
右と左では安全保障に対する考え方が180度異なる。
これは、「中国は日本の安全保障上の脅威になるのか」という問いに対する答えが180度異なるからである。
安全保障について議論する準備として、まずは「中国脅威論」について考えてみたいと思う。


安全保障のジレンマ

産経新聞によくある論調が、「台湾有事が発生し、それに乗じて尖閣諸島を中国が奪いに来る」というものである。
その場合、日本の自衛隊と在日米軍が中国軍と戦闘を繰り広げ、沖縄は戦地になることであろう。
そのため、「憲法9条改憲による自衛隊の軍備拡張と日米の連携強化を図り、抑止力で台湾有事を未然に防ぐ」ことが必要らしい。

しかし、軍拡を行うとなれば、それが周辺国との間にかえって緊張を生むことになるのではないだろうか。
「中国が攻めてくる!」→「日本も軍拡をしなければ!」というのは無知蒙昧なネトウヨにとって非常にわかりやすいロジックであるが、安全保障というのはこうも簡単にはいかないのである。

軍拡を行うことにより、周辺国との間でかえって緊張感が増す、このことを「安全保障のジレンマ」という。

中国は攻めてくるのか

そもそも、中国は日本に攻めてくるのだろうか。
結論から言えば、その可能性は限りなく低い。
なぜならば、日本と中国は経済的相互依存の関係にあるからだ。

日本経済が打撃を受ければ、中国経済も打撃を受けるし、逆も然りである。
そのため、中国にとって、自国経済に悪影響を及ぼしてまで、日本に攻め込むメリットがないのである。

新華社通信に興味深い記事があった。

日中経済の相互依存関係について、日本の専門家の見方を引用した記事である。新華社通信は中国の国営通信社であり、中国政府の事実上の公式見解である。日中の経済的相互依存関係については習近平指導部もよく理解しているであろう。

日本が中国に攻められる唯一のシナリオ

先述したように、中国が日本に侵攻する可能性は「ほぼ」ない。

しかし、中国が日本に侵攻する唯一のシナリオがある。
それは「日本が軍事大国化し、中国の安全保障上の脅威になった」場合である。
ウクライナの事例を見ればわかりやすいのではないだろうか。

ウクライナはなぜ攻められたのか

ウクライナのゼレンスキーはロシアを安全保障上の脅威だと見做し、NATO加盟を主張した。
中国を安全保障上の脅威だと見做し、軍拡を主張する右翼とどこか似ている構図である。

しかし、ロシアにとってみれば、NATOが東方に拡大し、ロシアとNATOの緩衝地帯であるウクライナまでがNATOに加盟した場合、ウクライナが安全保障上の脅威になることは言うまでもない。そのため、プーチンはウクライナのNATO加盟に強く反対し、バイデンにウクライナのNATO加盟を認めないように申し入れた。また、ゼレンスキーにNATO加盟の方針を取り下げなければ軍事行動も辞さない構えを見せた。

しかし、ゼレンスキーは「ロシアは安全保障上の脅威である」という幻想の下、NATO加盟の方針を強硬に主張し、その結果としてロシアに攻められたのである。

ロシアがウクライナに侵攻したのは、プーチンの領土的野心ではなく、NATOの東方拡大に対する警戒心であることは言うまでもない。国際的な非難とそれに伴う経済制裁によるデメリットとウクライナにNATOの核が配備されることのデメリットを考えると、前者のほうがまだマシであったのだ。

ウクライナが予めNATOに入っていれば事態は防げたのではないか、そう思う人がいるかもしれない。確かに、ウクライナが予めNATOに入っていれば、ロシアがウクライナのバックにはNATOの強大な軍事力があり、ロシアはウクライナ侵攻を思いとどまっただろう。しかし、「NATOにすでに加盟していること」と「NATOにこれから加盟すること」が全く別物であることは付言しておく。

中国侵略戦争阻止とはなにか

話を日本と中国に戻すと、日本が中国によって攻められる唯一のシナリオは「日本が軍事大国化し、中国の安全保障上の脅威になった」場合である。

思えば、日清戦争も日中戦争も、すべては日帝が始めたものだった。
仮に日本が平和憲法を捨て、自衛隊を軍隊にして、次々に軍備拡張を進めることにより、日本が過去の過ちを繰り返そうものならば、日本はあのウクライナがロシアに攻め込まれたように中国に攻め込まれてしまうかもしれない。
なぜならば、中国経済が打撃を受けるデメリットとかつてのように中国大陸が日本によって攻められることのデメリットを考えると、前者のほうがまだマシであるからだ。

中核派が中国侵略戦争阻止の闘いを繰り広げているが、日本の軍事大国化が中国との戦争を引き起こす、という解釈ならば、中国侵略戦争阻止というのも合点がいくだろう。

専守防衛こそ最強の安全保障

先述したように、「中国脅威論」の下、軍拡を行うことがかえって他国との緊張関係を生み、戦争の危険性を高めるのである。
したがって、「絶対に他国を侵略することはなく、他国からの侵略を受けた場合に備えて必要最低限の軍備を保持する」という専守防衛こそ、最強の安全保障なのである。(了)

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