平成5年 酢酸の思い出
このままではいかん あたり焼き
地方在住のネックは写真展がなかなか観られないこと。
最短でも大阪まで行かなければならない。
が、しかし。
割と近くにあるものだ。某有名企業のコレクションで、アンセル・アダムズのオリジナルプリントを観る機会があった。
大判プリントのねっとり感。美しいハーフトーン。
学生時代、初めて見た8×10の密着焼きを思い出す。
このままではいかん。
翌日、私物の小型現像タンクとリールを暗室に持ち込んだ。
師匠の許可はもらってないが、初心に帰るのに許可はいらんだろう。
深タンクからファインドールを500cc汲み出し、冬は湯煎。夏は氷で冷やし20℃を保つ。停止液で進行を止める。水洗促進剤を使いドライウェルで処理。後はドライヤーで乾くのを待つ。
あたり焼きはすべて小型タンクで現像するようにした。勝手に。
小型タンクの良いところは蓋をすれば灯りをつけたまま作業できること。
現像中に伝票を書いたりDP袋にフィルムを入れたりできる。
結果、深タンクで無茶な現像するよりも、きれいなネガが以前よりも短時間で出来た。
「いくら残業をしても俸給は同じ」
安定したネガからは安定したプリントが焼けるが、プリントのクオリティが上がったとしても俸給は上がらないし、デザイナーも気付かない。
暗室は閉鎖的な文化
私は師匠の暗室で、初めて深タンクをみて驚いた。どうやって現像するのだろうと。
ある日、師匠が珍しく暗室作業をしていた。
私の小型タンクを見て驚いた。どうやって現像するのだろうと。
暗室作業とはそういうものである。今まで自分が習っていた環境がすべて。
現像タンク、現像液、印画紙。引き伸ばし機の種類やレイアウト。シンクやバットの位置等。
驚くのは当然なのである。