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11月某日 原稿合宿2024in城崎 番外編

 やってきました一人旅フェーズ。ということで、ここからは個人的に天橋立に行った記録が主になっている。旅の終わりはいつも寂しい。けれど、今いる家も好きなので、いつの間にか寂しさはなくなっている。帰る家があるからこそ、旅は楽しいものなのかもしれない。

3日目

目覚めとごはん

 この日はぐっすり眠ったものの、またもや5時半に起きた。夜明けの写真を撮ったり、交通情報を確認したり、ごろごろしたりしているうちにみんなが起きてくる。腕時計が止まってしまって悲しい気持ちになっていた。この日は一人行動が多いというのに……。温泉に入りにいったきさいさんを見送り、一足先に荷造りをする。

 朝食はお茶漬けをいただく。三つ葉としそひじきの佃煮がおいしい。白米がもりもり進む。今日は移動するので控えめに。

お土産購入タイム

 チェックアウト手続きをしてもらっている間、旅館のお土産コーナーをぶらり。私は朝食に出ていた、しその実きくらげの佃煮がきっとあるだろうと目星をつけていたのだ。案の定、あった。「朝食の佃煮はこちら」と丁寧にPOPまでついている。せっかくだからと隣にあったしその実茎わかめの佃煮と、手のひらサイズのわらび餅を買った。この佃煮は夫にも好評で、しばらくの間ご飯のお供として大活躍したのだった。

 温泉街では、何軒かお店を巡り、それぞれ好きなものを手に入れた。確か、ドリップコーヒー(夫用)とうさぎの入浴剤(まだ使っていない)、志賀直哉の『城の崎にて』、むぎわら細工の絵はがき、かにせんべいを買った。本を買ったときにおまけでもらった栞がとてもかわいかった。


ミニ『城の崎にて』と栞

温泉とお別れ

 駅前には飲める温泉が湧いており、一口ずついただいた。しょっぱくて、ナトリウムを感じる味だったのを覚えている。歌のポストも気になったが、いそいそと離脱。私にとっての原稿合宿第二幕、天橋立に向かうためである。

 皆さんとお別れして一人電車に乗り込む。城崎温泉駅を出たあと、雨が降り出したのが印象的だった。

旅路

 豊岡駅で下車した私はさっそく切符を買いに行った。天橋立までは京都丹後鉄道で行くのだ。発車まで時間があったので昼食にオムそばを食べた。コミティアで食べて以来のそれはずっしりと具だくさんでおいしかった。


オムそば 中に焼きそばが入っている


 初めての京都丹後鉄道はワンマン列車。路面電車のようなスタイル、といったらわかりやすいだろうか。


豊岡駅発 京都丹後鉄道

 昔乗ったことを思い出して懐かしい気持ちになった。これに乗って山の中を走って行くのだ。窓が大きく、乗客が少なかったため、存分に車窓を楽しめた。田畑、森、所々にある人家。山には霧がかかっている。打ち捨てられた倉庫、トタン屋根の待合所、水の上を渡る舟。時折雨粒が窓を打ちつけ、10分もすると止んでいる。風景がめまぐるしく変わり、運ばれている、という感覚がする。この時間が一番好きだ。

 ヨルシカの『夏草が邪魔をする』を聞きながら電車に揺られて2時間弱、天橋立駅に到着する。

天橋立散策

 限られた滞在時間を有効に使うため、順路は事前に考えていた。一番遠くの天橋立神社から智恩寺を回って帰ってくる、という段取りだ。まずはひたすら松浜を歩き、神社に向かう。途中、水着姿の人々とすれ違ったり、自転車が通り過ぎたり。5メートル以上はありそうな松の木の下を、多くの人が行き交っていた。与謝野晶子夫婦の歌碑や与謝蕪村の俳句碑など寄り道しつつ辿り着いた天橋立神社には人がほとんどいなかった。こぢんまりとした社だからだろうか。見よう見まねでお参りし、真水が出るという「磯清水」の井戸を見た。和泉式部もここに来て歌を詠んだらしい。


磯清水の看板


磯清水の井戸


 神社にお参りしている人は一人で来ている人が多かったように思う。私のあとにいたお兄さんは、このあと駅でも見かけて少し嬉しくなった。一人旅をしている人を勝手に仲間のように思ってしまうのは私だけだろうか。


天橋立神社

 帰りの参道は砂浜から離れていたからか、人っ子一人いなかった。点在する灯籠にはウサギのような動物と鹿のような動物が描かれている。岸辺と海の境は本当に数センチしかなくて、おっかなびっくりのぞく。向かいにロープウェイが見えた。 行きにも渡った廻旋橋、帰り道では実際に船を通していた。モーターで動いているのだろうが、橋が回転する様は面白かった。


天橋立神社 参道入り口


廻旋橋が回っている様子


 智恩寺は人、人、人でごった返していた。文殊菩薩が本尊で、起源はイザナギとイザナミの時代に拠るらしい。ここでは龍のお守りを授与してもらった。境内にある地蔵菩薩は、帰りの松浜で見かけて不思議に思っていたものと同じものだった。自主的伏線回収である。国の重要文化財に指定されている多宝塔……の縁側でくつろいでいる猫を見た。人間が入れない場所をちゃんとわかっている。賢い猫だ。


多宝塔


縁側でくつろぐ猫


 帰りにお土産として丹後ちりめんポストカードを手に入れる。小雨が降っていたとはいえ、歩き疲れていた私は近くのカフェに吸い込まれるように入った。ハニレモカカオ入り柚子ソーダが汗だくの身体にほどよく染みる。元商家のような開けた天井近くには、籐で編まれた二輪車が飾ってあった。懐かしさと新しさが混在している。京都らしい空間だった。


ハニレモカカオ入り柚子ソーダ


 京都ではあるのだけれど、少し湿った空気と波立つ日本海が山陰地方を思わせる。荒々しくてうら寂しい日本海は、瀬戸内海の次に好きな海だ。

帰路につく

 長い旅も終盤。天橋立から京都までは特急に乗る。行きと違い、うとうとしている間もなくあっという間に到着した。京都駅には数十分滞在した。駅弁を買ったりなんだりしていたら出発の時間が来てしまった。

 この、帰りに食べた京華弁当がすこぶるおいしかった。白ごまの生麩、だし巻き玉子、肉じゃがに茄子の煮付け、じゃこふりかけ。完璧すぎる。


京華弁当


 低く見下ろす月を眺めながら、東京までの道のりを過ごした。長い旅、そして一日が終わる。

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