寝付きが悪いときに書くコラム そいつどいつ・松本竹馬『怒り』
怒り
こんばんは。
そいつどいつの松本竹馬です。
今回で第2回目となりました。
このコラムは昔から寝付きの悪い僕が、眠れないときに書くコラムです。
前回は僕が眠れないときに襲ってくる恥ずかしい思い出について書きましたが、今回は怒りについて書きたいと思います。
僕はよく、その日にあったムカつく出来事を思い出して眠れなくなります。
昔、バイトをしてたときなんか特にありました。
中でも1番腹が立ってたのは芸人なら誰もが言われたことのある「芸人でしょ?なんか面白いことして。」です。
僕はこれによってみんなの前で数多も恥をかかされ、そしてその怒りにより何夜も眠れなくなりました。
まず、
「面白いことをして。」
これの返しは本当に難しい。
例えば、僕がプロのダンサーだとする。
「ダンサーでしょ?踊ってよ。」
まあ、多分まだ踊れると思う。
なぜなら、ダンスというのは素人が見ても、上手い、下手は明確に分かる。
でも、お笑いというのは、受け取り側のスタンスやそのときの状況によって、面白い、面白くないというのは大きく変わる。
あるライブではめちゃくちゃウケたネタやギャグも、他のライブではめちゃくちゃスベったりするし、そもそも絶対笑わないで見ようと思えば、漫才日本一を決めるM-1の決勝だろうが、コント日本一を決めるキングオブコントの決勝だろうが、ゼロ笑いで見ることができるのがお笑いだ。
だから、この「面白いことやって。」はとても難しい。
仮に面白いことをやったとしても、それを受け取る側に笑う気がなかったり、そいつの笑いのツボにハマらなかったら、それは面白くないになる。
また、「その場の空気に合った必ず面白いことをする。」というバカ高いハードルも越えていかないといけないのだ。僕は毎回、この攻撃を喰らうたびにムッとするし、どうやったらこの攻撃を上手く返せるか考えていた。
「お前が、面白いことできないだけだろ。」と言われたらそれまでだが、僕だって舞台に立ったことない素人よりは階段を登ってきたつもりだ。
ネタ番組にも出ているし、キングオブコントなどの賞レースも決勝に行ってる。もちろん、こんなの自慢しても意味がないし、僕の上にはもっと面白くて、もっと結果を出している芸人がたくさんいることも分かっている。
ただ、僕はその辺の「面白いことして。」とか言ってくる素人やそのツレよりは面白いと自負しているし、お笑いのことについて考えてる。
だから、そいつらにバカにされるのは我慢ならないんだ。
だから僕は昔、この「面白いことして。」について本気で対策を考えたことがある。
①間髪入れず、全力でギャグをやる。
これは芸人としては真正面からぶつかる一番カッコいい戦い方だ。
ポイントは間髪いれずというところだ。
時間をかけないことで、相手の待ち時間を減らし、ハードルもそんなに上がらなくて済む。
また、全力でやり切るというのも大事だ。
恥や照れを捨て、全力で大きい声でやれば、それだけで素人との違いを感じさせることもできる。
ただ、これは僕はできない。
僕は舞台上で元気にギャグなんかやるタイプでもないし、そもそもそんなギャグなんか持ってない。
何度か無理やりやったこともあるが、スベったときの恥ずかしさと悔しさは僕には耐えられない。
スベった後、「うわー、面白くない。」と言われたら、もうマジギレするしかなくなる。
②ちゃんと断る。
これはこちらは傷つかなくて済むが、相手に逃げたと思われて、変な空気になる。
よく「いやコントなんで相方と小道具がないと無理です。」とか「じゃあ今度ライブ見に来てくださいよ。そこで面白いことしますんで。」という返しをしていた。
これはここで戦うより、自分の土俵に持っていこうとする作戦だ。
僕はギャグなんかはろくに持っていないが、ずっとネタを作ってコントをやってきた。だから、自分が時間をかけて考えた自分たちの全力の勝負ネタをぶつければ、面白いと言わせる自信がある。仮にこれで面白くないと言われても、自分の100%の力を出して響かなかったんだから、悔いもない。
でも、これもあまり効果はなかった。
てか、そもそもそんなやつ、ライブに来ねーし。
あと、相方に「今日はオレをバカにしたヤツが来るかもしれない。だからこの前のライブで1位になったあのネタをさせてくれ。」と言ったら、「そんなヤツ構うなよ。だせーなー。」みたいな目をされた。
結局、僕はこの断るという技を1番使ってるが、自分でも逃げてるなーっていう負い目が少しある。
でも、相手に「そんなこと言って面白いことできないだけでしょ?逃げてるだけでしょ?」なんて言われたら、もちろんのごとくマジギレだ。
③モノマネや特技をする。
結局はこれが最強だ。
モノマネや、大道芸みたいな特技は、面白くなくてもすごいと思わせることができる。
ダンスが上手いと一緒だ。
しかも、モノマネに関しては十中八九面白い。
なぜなら、そのマネをされる有名人の力を借りてるからだ。
また、なにか代表的なギャグなどで一発世に出たやつも無敵だ。
おばたのお兄さんやひょっこりはんは、これから「まーきの!」や「ひょっこりはん」さえやれば、もう「面白いことやって。」に勝つことができる。
まあ、面白いから世に出たわけだが。
でも、僕はもちろん世に出たギャグもなければ、モノマネや特技も持ってない。「じゃあ作れよ」と言われるが、なかなか作れない。
向き不向きがある。
でもナメられるのは嫌だ。
昔、飲み屋でよくわからない深海魚みたいな顔したオヤジに「芸人なら、そういうのは全部できないとダメだ。オレでも会社の宴会とかのときは、何でもやってウケてるぞ!」と言われたが、マジギレさせていただいた。
④売れてる芸人のあまり知られてないギャグをパクる。
これは、COWCOWの多田さんや流れ星ちゅうえいさんのまだテレビとかじゃあまりやってなくて、知られてない面白いギャグを自分のモノの様にやるというものだ。
ウケたらオッケーだし、スベって「面白くない。」と言われたら、「いや、これ実は売れてる先輩のギャグだから。キミのセンスがないだけじゃない?」と言える。
ただ、これもあまりいい方法じゃない。
まずウケたとしても後からパクったのがバレたときに、とても恥ずかしい。
それにスベって面白くないと言われたとき、僕がいつも通り「これR-1というピン芸人の大会で優勝した多田さんのギャグですから。面白いはずなんですけどねー」としたり顔で言ってると、そいつに「いや、それは多田さんがやるから面白いのであって、キミがやっても別に面白くないんだよ。」という、ぐうの音も出ないことを言われたことがある。
僕はいつのまにか芸人のギャグをパクる大学生に成り下がっていたんだなと思って、すごい自己嫌悪に陥った。このときはさすがにマジギレしようがなかった。でも、家に帰って寝る前に腹が立ったので、そいつに文句を連ねた長文LINEをぶちかまして、ブロックした。
⑤わざとスベる。
これはもう変な空気になる前提の戦い方だ。
「面白いことをして。」と言われた瞬間、間髪入れず立ち上がり全力で腰をくねらせながら「ウンコ、ウンコー」と叫ぶ。
もちろん、相手は「は?」ってなる。
僕は「ん?やったよ?キミにはこんくらいのレベルが面白いでしょ?」と言う。
自分が傷つく前に相手をバカにするのだ。
この方法はほぼ100%ケンカになるので、あまりオススメはできない。
だけど、あまりにも相手がナメてるヤツだったり、別に気を使う必要もない相手だったら、たまにこの技を出していた。
⑥説教する
これは「面白いことやって。」と言われた瞬間、変な熱血スイッチを入れて、相手を説教するという方法だ。
そのときこちら側の理論としては、「じゃあ、あなたが医者だとして、今ここで手術してよって言われたら、手術するの?」か、「一応プロとしてお金をもらってやってるから。今ここで無料でやったら、お金を払って見に来てる人に申し訳ないだろ!」だ。
まあ、これも変な空気になる前提の戦い方だ。
もし言ってきた相手の職業が分かってれば、そこをうまく絡めて攻めるといい。
「じゃあ、キミも〇〇してよ。」と。
でもこれは一度大きなミスをしたことがある。
昔、バイト先の居酒屋の合同飲み会みたいなのがあった。
そこで他店舗で働く、変なラッパーみたいなヤツに絡まれた。
赤い帽子に赤い服に迷彩のズボンを履いた世界一嫌な格好をしたヤツだった。そのラッパーに「芸人なの?面白いことをやって。」と言われて、カウンターパンチで「え、じゃあ、ラッパーなんでしょ?ラップして下さい。」と言った。
言った瞬間、ミスったと思った。
ラップは前にも出てきたダンスと一緒だ。上手いか、下手か。お笑いとは土俵が違う。そのラッパーは「いいよ。」と言って、自己紹介ラップみたいなのを披露した。日頃ラップをしてるだけあって、そこそこ上手く、分かりやすく韻も踏んでる。
周りからパチパチと拍手が起きた。
「さあ、オレはやったぞ。次はお前の番だ。」
こうなったらしょうがない。
僕は覚悟を決めて立ち上がり言った。
「うるせえ、芸人なめるな!表出ろ!」
僕に残されてたのは、マジギレだけだった。
結論…
結局、僕はどの方法を使っても、大体マジギレのゴールに行き着いて変な空気になることが多かった。
だからこんな対策なんかを考えるより、まず自分が完全に売れるのが1番の対策なんだと思う。
自分が売れさえすればステージも上がり、こんなしょうもないことを気にしなくてもよくなるし、そもそもこんなしょうもないことを言ってくるヤツは周りにいなくなる。
それに色々書いて思ったが、やはり芸人として1番カッコいいのは①の戦い方だ。 「面白いことをして。」に真っ向から戦って、ウケる。 スベって「面白くない。」と言われても、「もっと精進しまーす。」と言って笑って受け流す。 僕はそんな戦い方をしている芸人を何人も見てきた。
とある先輩と社長なんがいる接待カラオケに行ったとき。
その先輩は、女の子に「面白いことして。」と言われて、ギャグをしてスベったときに、女の子に「つまんねーんだよ。」と言って蹴られていた。それでもその先輩は笑って受け流していたので、僕はトイレに行ったとき、先輩に「なんでキレなかったか?」聞くと、先輩は答えた。
「別にあの女を笑わすために芸人やってないからさ。アホな三歳児に面白くないと思われても、なんとも思わないし。まあ、いつか売れて見返せばいいよ。」
先輩はそう言うと、カラオケ館のセーラームーンのコスプレを着て、また盛り上げに戻った。
なんかカッコよかった。
最近の僕はバイトもしてないし、仕事といえば芸人がいる場所ばかりだから、「面白いことをやって。」と言われる回数も減った。
それでもたまにある。
そのときはなるべく①の戦い方をするようにしている。
間髪入れず、ギャグをする、1番カッコいい戦い方だ。
ただ自分のギャグはないので、そのときは同期で今舞台なんかはお休みしている、かいゆうたという芸人の「グーチョキパーで何作ろー♪何作ろー♪右手はS極で、左手はS極で、ビヨヨヨーン♪ビヨヨヨーン♪」と言いながら変な顔する世界一面白いギャグを使っている。
誰も知らない芸人の誰も知らないギャグをするという新しい戦い方だ。
このギャグの打率は5割くらいだ。かいがやればもっと面白いかもしれないが。
スベったときはなんとか笑って受け流してる。
そういう余裕もちょっとだけどできてきた。
だから、かいに舞台に戻ってきてもらって、新しいギャグを是非作ってほしい。
僕はそれを自分のモノのようにやるから。
そいつどいつINFO
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著者/ そいつどいつ・松本竹馬
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