【11月号】空気階段・水川かたまり/コラム
「メガネ」
眼鏡のネジが緩んでいたので直してもらおうと眼鏡屋に持って行った。
「直す際に万が一壊れてしまった場合は交換できませんのでご了承ください」と言って店員のお姉さんはレジの奥に下がった。30秒ほどで戻ってきて「すみません。壊れてしまいました」と言ってへし折れた眼鏡を見せられた。
初対面の人に初めて「うっそ?」と言ってしまった。もちろん、壊れた場合を了承していたとはいえ、まず壊れないだろうと踏んでいたし、壊れた報告をするにも30秒は早すぎる。新しい眼鏡を買わせるために裏で破壊したのか?しかし店員のお姉さんはマスターカードのCMのときの桜井幸子にほんのり似ていた。マスターカードのCMときの桜井幸子にほんのり似ている人がそんなことをするわけがない。仕方がないので渋々新しい眼鏡を購入した。
思い返すとつくづく眼鏡運のない人生だ。
奮発して3万円の眼鏡を買ったら6時間でなくしたり、芸歴8年で一度も面白い感じに眼鏡がズレたことがないし、意中の女性に告白したら「あなたの言ってることはメガネ過ぎるから付き合えない」と言われ到底納得できないフラれ方をしたこともある。
「だったらウダウダ言ってねえでさっさとその眼鏡捨ててコンタクトつけるかレーシック手術しろやカス!死ね!」
という過激派のあなた。ふざけんな! そんな強く言う必要ないだろ! お前が死ね!
「じゃあメガネの利点言ってみろボケ!メガネの利点言ったあと即死しろ!」
眼鏡の最大の利点は、すぐにかけたり外したりできるところだ!
「は?」
当たり前だが、眼鏡をかければよく見える。よく見えた方がいいに決まっているし、人は皆クッキリハッキリ見るために眼鏡をかけている。
しかし、クッキリハッキリ見たくないときはないだろうか?逆にモッサリファッサリ視界をぼやけさせたいときはないだろうか?
僕は一昨年まで舞台に出るとき、眼鏡を外していた。お客さんの顔がぼやけて緊張しないからだ。会社で重要なプレゼンを任されたとき、ゼミで研究発表するとき、あなたも眼鏡を外せば平常心で臨めてきっとうまくいくハズ。
さらに、紫式部が枕草子で言うように日本人は古くからボンヤリとしたものに価値を感じる生き物だ。美しい情景に出くわしたとき、眼鏡を外して、湖に映る逆さ富士や満開の桜をぼやけた視界で愉しむのが日本人として正しいあり方なのだ。
少しズレるがスケベな面で言えば、知人のハイスペックヤリチンが「オレがサッと眼鏡を外す仕草で80パーセントは濡れる」という言葉を残している。ハイスペックの言葉なのでこの確率は当てにならないが、あなたの眼鏡をサッと外す仕草で濡れたり勃ったりする人間がどこかにいるかもしれない。そんな2人が恋に落ちてさ、子供が生まれてさ、その子供が眼鏡をサッと外してさ、誰かと恋に落ちてさ、そうやってこの星はまわっていくんじゃん?
過激派「メガネ云々の前にキモいから死ね!」