喋ってはいけない美術館
「美術館では静かにしなければいけない」
と思い込んではいないでしょうか?
実は美術館で静かにしなければいけないというルールはありません。
欧米の美術館では作品の前で一緒に来た友人と大きな声で感想を言い合ったり感動して思わず叫んだり、子どもがわーわー騒いでいたり、時には美大生が作品の前で床に座り込みスケッチすらしています。
とても活気があり子どもから老人まで実に多くの人々が思い思いに美術を楽しんでいます。
これが本来の美術館の姿です。
美術館とは全ての人々が美術作品を自由に鑑賞でき、考え、学び、知る為の公共の開かれた場所だからです。
「静かにしなければいけない」というルールは長年日本だけで築き上げられてきた間違ったローカルルールだったと言っても過言ではないのです。
ではなぜこのローカルルールが根付いてしまったのか、その背景を探ってみますと、そもそも日本には約150年前の明治時代まで「美術・芸術」という概念も言葉すらもありませんでした。そのため当然「美術館」も明治以降になってから初めて日本で生まれました。
それまでの日本人にとっての美術館的な場所と場面は、お寺にて何年かに1度行われる、収蔵された仏像や宝物が特別披露される「開帳」であったと言われています。
つまり「ありがたい物」を特別に庶民が「観せていただく」事だったのです。
おそらくそんなありがたい物を観せていただく際には、大きな声で喋ったりその姿をスケッチしようなどという事はとんだバチ当りですよね。
きっとみんな息を潜め小さな声で「おー」とか「ほー」と仏様と自身とを対話させるように、ただ黙って向かい合い静かに手を合わせて観ていたのではないでしょうか。
この流れをそのまま汲んで、同じように美術館も「ありがたい物」を特別に庶民が「観せていただける」場所、または「仏様(作品)と自身との精神を静かに対話させる場所」と考えられるようになっていったとすると、どこか納得ができます。
これも一つの日本文化だと考えることもできますが、僕が一番懸念していることは日本の美術館から子どもたちの姿が消えてしまう事です。
親御さんの気持ちになって考えてみれば、しゃべってはいけない堅苦しい退屈な場所に子どもをわざわざ連れて行こうと思うでしょうか。むしろ子どもを連れて行ってはいけない場所とすら思っている方も多いでしょう。
すると、子どもの頃から馴染みのない場所となってしまい、挙句には人生で一度も美術館に行ったことがないという人々はすでにたくさんおられるでしょう。
子どもや若者たちにとって美術館は楽しく魅力的な場所であるべきです。幼い頃から世界的な評価を受ける名作を直で観ることや、ヘンテコなものの中に潜む美しさを見つける事は、今後の世界には必ず必要な情操教育であり力となります。
現在、各地の美術館ではそろそろこのローカルルールを改善させていこうと
おしゃべりがOKな「フリートークデイ」や「子どもたちのためのワークショップ」や「子ども無料日」など様々なイベントや取り組みを行っているようです。
日本の美術館が活気のある楽しい場所へと少しずつでも変化していくことを期待しています。