20周年特別インタビュー(6)岡嶋秀昭×田中遊×ファックジャパン
6月某日 木屋町のBARにて
「間口は広いよね。間口は広いけど、間口広いから入れてしまって何か違うって気付く」
前文
岡嶋秀昭さん(※1)と田中遊さん(※2)は、俳優における僕の育ての親であります。今回のインタビュー企画もお忙しい中、快く引き受けていただきました、ありがとうございました。感謝しております。
10年以上前の事です。当時お二人が住んでいらした、岡嶋さんの出町柳のアパートか田中さんの北白川のマンションに、昭和49年生まれの俳優さんたち、通称フォーティナイナーズの面々が集まって、夜な夜な飲み会が開かれておりました。ぼくも何度かお邪魔させてもらった事があります。楽しい飲み会だったのです。
そんな当時の雰囲気でお話したくて、もうお二人共家庭を持っていらっしゃるのでご自宅ではなく、木屋町のBARに来てもらって、呑みながらのインタビューを行いました。そしたら木屋町のBARで流れていたジャズがうるさくて、聞き取りにメチャクチャ苦労しましたが、でもそのジャズがめちゃロマンチックな曲だったので、文字起こししながら、ムードが盛り上がって何度もグッと来ました。
結果、プラスマイナスでプラスになりました。ありがとうございました。
プラマイプラス発言は、岡嶋さんの発言からの引用です。それはインタビューの後半に出てきます。
それではよろしくお願いします。
インタビュー開始
FJ:(携帯を出して、ボイスレコーダーのアプリを起動させる)
岡嶋:他の人にも色々聞きに行ってんの?
FJ:僕はあごうさんに一度インタビューを行っております(※3)
岡嶋:あ、何回も行くんや。
FJ:はい、そうですね。
田中:めんどくさいところは束でいくんやな。
岡嶋:ハッハッハッ。
FJ:ハッハッハッ・・・いやいや。
田中:でも束やんな、これ(笑)。
FJ:そんなことないんですけど・・・あの、束でやるのはこのお二人だけです(笑)。
FJ:初めて衛星に関わったのは、・・岡嶋さんは旗上げ公演から?
岡嶋:はい。その前に、佐々木企画(※4)っていう劇団、・・劇団ていうか龍谷大学の先輩がやってる集団があって、そこに蓮行さんも客演でいて。そこで共演して知り合って、次出ないかっていう話になって。それが衛星の前身の・・。
FJ:潔癖青年文化団ですね?
岡嶋:いや、如意プロデュース。
FJ:えええ!如意プロデュースの公演があったんですか?
岡嶋:自主企画。
FJ:衛星の前に如意プロデュースがあったんですね。(※植村注:「如意プロデュース」は現在、劇団衛星の運営会社ですが、劇団旗揚げ前に、任意団体の制作集団として活動を始めていました。)
田中:そういや今、正直者の会.lab(※5)に劇団ケッペキ(※6)の子がいてんねんけど。
FJ:はい。
田中:今年の新入団員が100人超えたって。
岡嶋・FJ:ええ!
FJ:ここにきて、演劇ブーム?
岡嶋:なんでや?
田中:もう、わからない(笑)。
FJ:え、なんで、何かの影響?
岡嶋:あ、『幕が上がる』(※7)?
FJ:『幕が上がる』ですか・・・?
田中:いやそれで、そのケッペキの子が言っててんけど。先輩からきいた話ではケッペキって、昔は「総合芸術集団潔癖青年文化団」っていう名前で・・。
FJ:はい、学生時代に蓮行さんがつくったんですよね。
田中:潔癖青年文化団って左翼の団体やったらしいですって。
岡嶋・FJ:ハッハッハッ。
田中:そういう学生運動みたいなところからきてるらしいですって言ってて。
岡嶋・FJ:ハッハッハ!
FJ:まぁまぁでも、間違ってはいないのかなー?(※間違っています。)それで、如意プロデュース(の公演)の時は植村さんもいてて・・?
岡嶋:いましたね。
FJ:蓮行さんが作・演出で。
岡嶋:そうですね。そこに、まりもさんっていう人もいて、その人にもらった電子レンジをまだ使っております。
FJ:ハッハッハ!二十年以上。
岡嶋:それがキッカケですね。『福音の廻廊(※8)』という作品でした。
FJ:ああ!
岡嶋:それに、うちの奥さんも出てました。
FJ:へー!衛星では最初から、もう口立て(で作品創って)やったんですか?
岡嶋:そうやね。佐々木企画の人が完全につかこうへいに影響受けてて、それ一緒に出てたから。そっから(影響受けたん)ちゃうかな。
FJ:ああ!
岡嶋:まぁでも、ちょっとちゃうけどね。口立てした台詞を植村さんが書きとってるから。(※植村注:劇団衛星の稽古場では、蓮行が口立てした台詞を植村がパソコンで入力し、台本に仕上がります。)
FJ:そうですね。
岡嶋:植村さん、ト書きが面白いよね。「なんとなくそんな感じになっている」とか(笑)。
FJ:ハッハッハッ。ト書きはもう、植村さんの聖域ですからね。
FJ:田中さんが最初に衛星に出たのって何ですか?
田中:最初って何になんのかな・・。『(宇宙巡査部長)ガリバン(※9)』かな?
岡嶋:うーん、かな?・・『(赤べこカマトト)早急便(※10)』ちゃうかな?
田中:いや、違うと思うけど。
岡嶋:どっちかやと思うな。
FJ:その時はもう、正直者の会やってたんですか?
田中:や・・ってたかな、やってた。
FJ:衛星で思い出に残ってる公演とかありますか?
田中:『避難訓練』かな。
FJ:あー。『千年王国の避難訓練』の初演(※11)、その時はもう劇団員やったんですか?
田中:『避難訓練』の時はまだ劇団員じゃなくて・・。えっと、『避難訓練』の時に入ってん。
FJ:へー。
田中:そうそう。その公演の時に、俺に演出させろって(蓮行に)言って。演出させてくれたら入団するわって言って。演出させてもらってん。
FJ:え、『千年王国の避難訓練』の初演って、田中さんが演出してるんですか?
田中:いやでも、最終的なOKとか判断は蓮行がするよって言ってて。
FJ:あーなるほど。
田中:わかった、でも稽古場は俺につけさせろってなって。
FJ:はー。すごい。確かに田中さんが衛星にいてはった頃は、段取りとか、田中さんにつけていただいてました。
FJ:岡嶋さんは、思い出に残ってる公演ってありますか?
岡嶋:えー・・
FJ:・・・
岡嶋:・・・
FJ:・・・
岡嶋:・・・
FJ:・・・
岡嶋:・・・いっぱいあるな。
FJ:あー!そっちの悩みでしたか。
岡嶋:扇町ミュージックスクエアっていう劇場に初めて出させてもらった時かな(※12)。扇町アクトトライアルっていう、若手の登竜門的な演劇祭に出た。
FJ:はい。
岡嶋:初めて大阪の人に(劇団衛星の作品を)観てもらったから。その時ね、すごい料金設定について話し合った覚えがある。大阪でやるから1500円ぐらいかなって言ってたんやけど、勝負しようって言って、800円にした。これはビビりよるぞって乗りこんだら、(同じく京都から参加した劇団である)夏目組が500円やってん。
FJ:ハッハッハッ。
岡嶋:お金のことは、やっぱりね、当時からすごい話してた。
FJ:そうなんですね。
岡嶋:その、最初の、如意プロデュース自主企画の時からギャラは出てたしね。
FJ:へー。ぼくは『どんぐり森のうたたねの木』で初めて衛星の稽古場を見学して、なんかみんな怒ってて怖かったんを覚えてます。
岡嶋:いっつも雰囲気は悪かったよね(笑)。
FJ:通し稽古の時に、袖にスタンバイしてる想定で5分後に開演しますってことになって、その時誰かが喋ってたから、「本番5分前に袖でその音量で喋んのかっ」て怒られてて。怖いなーって。
岡嶋:そう考えると、古い劇団やね。
FJ:ハッハッハ。たしかにニューウェイヴな香りはあんまりしないですね。
FJ:劇団衛星の俳優についてはどう思いますか?
岡嶋:いきなり?
FJ:劇団員の演技観て、衛星っぽいなーと思ったりします?
田中:衛星っぽさっていうのが・・何やろうな、ようわからんようになってるけど・・。あんまり型にはまらないというか。お芝居とかにおいては、とりわけメソッドとか、そういうのにこだわらないっていうのが、逆に衛星っぽさかもしれんなーとは思うけど。そういうのは、蓮行さんの懐の広さやとは思うけどね。
FJ:懐広いんですか、蓮行さんは。
田中:どうなんやろ。間口は広いよね。間口は広いけど、間口広いから入れてしまってから何か違うって気付く・・。
FJ:ハッハッハ。
岡嶋:や、なんか確かにその・・衛星のメソッドはこれだっていうのはわかりにくいけど・・。なんか、でも・・なんかやらかしてやろうっていうのは持ってるような気がしてる。
FJ:ああ。
岡嶋:頼もしいというか。うまく演じるとかじゃなくて・・何か変わってるよね。
FJ:そうですか。
岡嶋:黒木さんとかもう、今は違うかもしれんけど、何か・・。
FJ:・・・
岡嶋:・・・。(何かを含むように)他の女優さんとは違うというか。
FJ:そうですね。
そして会話はいつものように・・・
田中:お前、ほんでどうやねんな。
岡嶋:ほんま、それだけは心配やねん。結婚とか。
FJ:いやそうですねー・・。
田中:いやお前、こないだも延々説教したやん。誰か誘ったか、飯に?
FJ:あ、いやでも、僕も1年に1回は、そういう事になる時があるんですよ。
田中:おー。
FJ:1年に1回は言い過ぎました。3年に1回ぐらいでした。
田中:だいぶ言い過ぎたな。
FJ:そういう事になるんです。去年もありかけたんですけど・・何か・・なくなってしまいましたね。
田中:よし、次行こう。行かなあかんで。とにかく誰かと飯行け。
FJ:そうですね・・そうなんです。いや僕、こないだ思ったんですけど・・。付き合うっていうのは置いておいてね。
田中:うんうん。
FJ:とにかくもう・・僕はヤリチンになろうと思ってるんです。だからもう気になってる女性には、それ目的で接していこうと思ってるんです。
岡嶋:ハッハッハ。
田中:うんうん。
FJ:僕、性欲はあるんです。でも他人にあんまり興味がないから、それを今までちょっと嘘ついてきたから、うまくいかんかったんかなと思ってて。
田中:うん。
FJ:だからそこら辺を正直になって、それを目的にして接していこうと思ってるんです。
田中:うん、いやもう、何でもええねん。とにかく幸せになれ。
岡嶋:ハッハッハ。ちょっと待って。言うてる内容はちょっとゲスになってるけど、あのタイニイアリスの時と何ら変わってへん(※13)。
田中・FJ:ハッハッハ。
岡嶋:構図がもう変わってへん。(田中さんに)言われて、(FJが)答えて、俺笑ってるみたいな。
FJ:そうですね。
田中:家族は、でも面白いで。(※田中さんも岡嶋さんも妻子がいらっしゃいます。)
FJ:うーーん・・。
田中:ほんまに。面白いで。しんどいけど素敵なもんやなーと思う。
FJ:岡嶋さんもやっぱり、家族、すごいですか。
岡嶋:うん。子供ができたらやっぱり変わるね。自分の時間的なものはなくなるけど、でも・・プラマイプラスみたいな。
FJ:プラマイプラス!
田中:お前はほんま変われへんな。
FJ:ほんま変わらないんです。
田中:なんでそんな臆病なんやろね。
FJ:いやあの・・。(と、言ってボイスレコーダーのアプリを切る)
岡嶋:あ、切った(笑)。ええの?
FJ:もうええんです、実はね・・。
そして、この後、とても公に出来ない生々しい会話が果てしなく続いていくのでありました。申し訳ありません。
【註釈】
※1:岡嶋秀昭
舞台俳優。1974年生まれ、東大阪市出身。龍谷大学「劇団未踏座」を経て、1995年、劇団衛星の旗揚げに参加。以降、ほぼ全ての作品に出演し、2005年退団まで、劇団衛星の主力俳優として活躍。退団後も、様々な舞台、テレビドラマ、CM等に出演。また、「京都役者落語の会」の一員として、落語にも取り組んでいる。
※2:田中遊
2000年〜2003年、劇団衛星所属。俳優・演出家として活動。
1997年より「正直者の会」を設立し、劇作・演出・出演を務める。多人数のお芝居から田中遊の一人パフォーマンスまで。俳優、演出として外部参加も多数。2013年頃から「京都俳優ラップの会」結成。
2012年 第14回関西現代演劇俳優賞受賞/2014年 第21回OMS戯曲賞佳作受賞
2015年度〜 アトリエ劇研アソシエート・アーティスト
◎正直者の会→http://www.syoujikimono.net
※3:あごうさんに一度インタビューを行っております
こちらをご参照くださいませ
→https://note.mu/gekidaneisei/n/nb60e892a0600
※4:佐々木企画
以下、東山青少年活動センター「分岐点」(2011年09月18日更新)より一部引用
蓮行「(前略)中京青年の家で公演をされていた僧侶、佐伯修史氏の劇団「佐々木企画」に誘っていただき、出演した。2時間半絶叫を続ける作品で、僕は生まれて初めて のキスシーンまでやらされたのだが、この時の4人のキャストの中でもっとも苛烈な役を任されたのが、今衛星で看板を張る岡嶋秀昭である。彼の演技はすごかった。そして、平生の会話はまったく弾まなかった。二人とも性格が暗かったのである。だが、才能ある人と出会えた「運」こそ、最も重要なのだろう(後略)」
※5:正直者の会.lab
以下、正直者の会.labのHP内「What is .lab?」より一部引用
〜 京都で演劇の活動をする集団です。いわゆる「劇団」よりは少しゆったりとしたスピード、スタンスで活動しています。メンバーは社会人、学生とさまざまです が、それぞれが「自分たちのペースで」「持ち寄れる」範囲で、この集団とそして演劇に関わって行けるような、そして言わずもがな「良い作品」を継続して 作って行けるような、そういう場所であろうと思っています。〜
※6:劇団ケッペキ
京都大学公認の演劇サークル。
※7:『幕が上がる』
2012年に出版された平田オリザさんの小説で、それを原作とした映画が2015年に上映された。ももいろクローバーZの5人が主演。
※8:『福音の廻廊』
劇団衛星設立前、如意プロデュース(現在の衛星の運営会社)のプロデュース公演として上演した作品。1997年9月に劇団衛星で再演した。内容は、打倒!鴻上尚史なテイストで作り始めた、らしい。
※9:『宇宙巡査部長ガリバン』
1996年9月、京大文学部中庭にて上演。
出演:岡嶋秀昭 大畑えり 田中遊 新妻ケンジ チャック・O・ディーン 湯川知行 蓮行 他
大学の中庭で勝手に行なった為、教授に怒られながらも敢行した野外公演。当時としては珍しい、バンドによる生演奏、映像なども取り入れた公演だった。初めて、情報誌「演劇ぶっく」に取り上げられた。
※10:『赤べこカマトト早急便』
1997年5月、京大西部講堂にて上演。
出演:岡嶋秀昭 チャック・O・ディーン 駒田大輔 田中遊 湯川知行 蓮行 他日替わりゲスト
蓮行の宅急便バイトの実経験から出来上がった「サイバーバイオレンス宅配コメディ」。9月に続いて生バンドが音響を担当し、終演後ミニライブも開催した。
※11:『千年王国の避難訓練』
2000年5月、扇町ミュージアムスクエア(大阪)とアートコンプレックス1928(京都)にて初演。
出演:岡嶋秀昭 チャック・O・ディーン 駒田大輔 岡本タダシ 田中遊 蓮行 宮都謹次(売込隊ビーム)
それぞれの都市でそれぞれのお客さんを集める"全国制覇"への第一歩として実施した、大阪・京都の2都連続興行。好評につき、最終日に追加公演も行った。
※12 扇町ミュージックスクエアっていう劇場に初めて出させてもらった時かな
1998年12月、『脳天気番長出馬する』 扇町アクトトライアル'98参加公演
出演:岡嶋秀昭 チャック・O・ディーン 大木賢二 奥田ワレタ 湯川知行 友井田亮 黒木陽子 蓮行
「デフレスパイラルは衛星が斬る!」をキャッチコピーに、大阪へ殴り込みをかけた記念すべき公演。衛星の一つの転機とも言える、絶賛を浴びた公演である。
※13 あのタイニイアリスの時と何ら変わってへん
以下、ファックジャパンのブログ「ファックジャパンが行く」(2014年3月3日更新)より引用
ぼくが劇団衛星に入ってまだ1年ぐらいの事。
だからもう12、3年前の話です。
劇団衛星のとある公演の東京公演千秋楽前日の夜。
その日劇場に泊まる組だった岡嶋さんと田中さんと僕は3人でお酒を飲んでいました。
お芝居の話をしたり、
「ロックがボケで、ロールがツッコミなんちゃうやろうか」
と岡嶋さんが熱く語りながら、夜も酔いもドンドン深まっていきます。
それから僕の好きな人の話になりました。
当時ぼくはこの東京公演でスモークマシーンを担当してくれているとあるスタッフさんに恋をしていたのです。
なぜそんな話の流れになったのか皆目見当がつきませんが、
気がついたらその人への想いをこめて歌うことになっていました。
もちろんアカペラで。
なぜ自分は一切の抵抗を示さなかったのか振り返るだに疑問です。
曲はブルーハーツのラブレターでした。
読んでもらえるだろうか
手紙を書こう
あなたに あなたに
あなたに ラブレター
新しいステレオを
注文したよ
ボクの所へ あそびにおいで
ああ… ラブレター 百分の一でも
ああ… ラブレター 信じて欲しい
と、ここまで歌って、
あろうことかぼくは『信じて欲しい』のところで感極まって泣き出してしまったのです。
驚いて爆笑する岡嶋さんと田中さん。
ほかの誰にも言えない 本当の事
あなたよ あなたよ しあわせになれ
あなたよ あなたよ しあわせになれ
忘れられない夜というやつではないでしょうか。
劇団衛星の活動継続と公演の実現に向けて、みなさんのサポートを、ありがたく受け取っております。応援ありがとうございます。