『珠光の庵〜遣の巻〜』韓国語版インタビュー①
『珠光の庵 製作ノート』の特別編。韓国語版公演期間に会場にお越しいただいた、藤本瑞樹氏に、インタビューをしていただきました。
藤本さんとは、10年以上のお付き合いになります。劇団衛星を長らく見てきてくださった彼に、私たちの活動を少し、紐解いてもらえたら・・と思っています。(長くなるので分割掲載します。どうぞお楽しみください。)
劇団衛星 植村純子
※文中の公演写真は、撮影:脇田友氏です。
まもなく劇団創設25周年を迎えようとする劇団衛星が、満を持して世界に打って出る。新作『珠光の庵〜遣の巻〜』韓国語版は、韓国人の俳優3名をキャストに迎え、日本語と韓国語が入り混じる不思議な劇空間を作り上げた。京都発のお茶会演劇は、来年度いよいよ韓国で上演される予定となっている。
2004年から繰り返し上演され続けている『珠光の庵』には、一体どんなポテンシャルが秘められているのか。そして、それを上演する劇団衛星とは一体なんなのか。それらを探るべく、2月8日、『珠光の庵〜遣の巻〜』韓国語版のワールドプレミアが終了した直後のKAIKAで、作・演出の蓮行と、プロデューサーの植村純子、そして、キャストとして出演しながら制作として韓国キャストとの窓口も担う田中沙穂に話を聞いた。
インタビュー・構成・執筆:藤本瑞樹
―実は僕がKAIKAに来るのって約7年ぶり、「岩戸山のコックピット」以来なんですよ。
蓮行 へえー。
植村 そんなになるのか。
―なのでまずは、この7年間何をやられてましたか?というところから伺いたいんですが。
植村 この7年の間に、20周年を迎えてますね。20周年記念公演『超贋作 サロメ/オイディプス王 〜冒涜版〜』『プロトタイプ』をやってます。そこから2年半くらい本公演をやらない期間があって、2018年5月に新作『白くもなく、さほど巨大でもない塔を覗き込む、ガリヴァー』をやりました。その公演から田中と森谷Aもちょこっと出てます。
田中 『ガリヴァー』が私たちが劇団員になってすぐの公演ですね。
―その間にも、なんだかんだで『珠光の庵』はほぼ毎年やられてるんですよね。
植村 1年くらい空いた年もあるんですけど、年度ではギリギリ毎年度やってる、かな。
―『珠光の庵』は全都道府県で上演するという目標がある、というのを承知の上でお聞きしますが、なんでそんなに『珠光』をやるんですか?
植村 やるって言っちゃったから。やらなきゃいけないから。
蓮行 (初演をする時に)お家元と約束をしたんですよ。
植村 だから47都道府県やるまでやめられないだけです(笑)。
―きちんと約束を守っているんですね。でも日本の都道府県を制覇する前に韓国語版を作り、来年には韓国公演をしようとしている、というのはどうしてですか?
蓮行 約束が、正確には「47都道府県+海外3か所で上演する」だったんですよ。合計50できりがいいから。
植村 だからいつかは海外公演もやらなきゃいけなかったんですよ。
蓮行 お約束を守っているだけです。
植村 2014年に城崎国際アートセンターができて、その公式オープンの直前にモニターみたいな感じで1週間滞在させてもらったんです。そのときに、「国際」アートセンターで、1週間滞在製作をするんだったら何する?という話になって。それならいつかやろうと思っていた『珠光』の海外バージョンをここで試作してみるのは意味があるんじゃないか、ということになり、作ってみたんです。その翌年度末にKAIKAで英語バージョンを上演しました。その時は、英語が喋れる日本人の俳優さんに出てもらうという形だったんですが。
―今回韓国人キャストの方がやられていたのと、役割は同じですか?
植村 役割はまったく一緒です。木霊と山彦という、声の精霊の役です。
蓮行 今回は「英語版でのやり方を韓国語でやってみた」という感じです。英語版をやっていたので、我々としては演出的にこれでいけるという確信はあった。
植村 木霊と山彦をいろいろな国の言葉に変えていったらいけるんじゃないかと。
蓮行 字幕でもなく、副音声でもなく、新たな劇表現としてやっちゃうということを、英語版でできたので。英語は中学高校である程度やるので、ちょっとはわかるんだけど、僕は韓国語は全くわからないので、「全くわからない言語なのにできるのだろうか」というチャレンジはありましたが、来ていただいた韓国の俳優の方々が大変優秀だったのでできましたね。
植村 今回「韓国語ができる日本人を探す」ではなく「韓国の人を呼ぼう」となったのは、その方が財源を得やすいだろう、というような理由などもありましたが、結果的にこれが当たりだったな、と思います。韓国の俳優さんをセレクトしたのも、合同会社kitaya505の北村夫妻にコーディネートしていただいてウンミさん(※通訳を担当してくれたコーディネーター)を紹介してもらい、ウンミに俳優を探してもらうという流れでした。事前にプロフィールは見てるけど演技は生では見ていなくて。私と田中で実際に韓国に俳優さんたちに会いに行ったときにも、「これ、出演は決まりでいいんですか?オーディションとかないんですか?」と彼らの方に心配されたんですけど、私は実際に会ってみて「この人たちとならやれるな」と思えて。そういうのは人となりに対しての直感が大事で、演技のオーディションをしたところでわからないから。そして実際、思った以上によかったな、というのが今の本心です。
蓮行 いい人たちだし、俳優としても有能でしたね。創作には才能頼みのところがあるので。俺様の天才的な才能と、サポートしてくれる植村さんたちと、俳優諸君と、舞台監督から照明から全部やってくれる渡川さんというスタッフの、個々の能力に依存したやり方なので。韓国の人たちがそれに十分に応えてくれる能力を持って来てくれた。韓国の俳優はどれぐらいの粒が揃ってるんだ!?と思っちゃいますね。真面目だし気が利くし、恐るべしというか。国境を越えてくる能力がこの人たちにはあるな、と思いました。
植村 国に限らず地域間でもそうですけど、境界を超えてくる人には、超えるだけの力、みたいなものはありますよね。
蓮行 長い付き合いなので藤本さんはもうおわかりだと思いますが、劇団衛星は、少なくとも私は、よそが何をしているかというのは全然気にしていないんです。大人同士で共闘できるパートナーシップが持てる相手というのはそうたくさんいないので。だから彼らが韓国の俳優の中でも並外れた能力を持っている方々だったとすれば大変幸運だし、あれだけの人が韓国にはうじゃうじゃいるのだとすれば、それは張り合っていくのは大変だろうなとは思うけれども、我々は韓国に乗り込んでもやっていけますから、という気持ちですね。たぶんこんなことを世界的にやっているのはうちだけなので。
―海外に作品を持っていくということを考えると、パッと思いつくのは字幕をつけるということかなと思いますが、そうではなく、生身の俳優に翻訳された台詞を喋らせる、しかもネイティブの方に出演してもらうというのは、公演を観ながら「相変わらず茨の道を見つけて、そこを進もうとするなあ」と思いました。
蓮行 ちょうど数日前に平田オリザさんも書いてましたよ。「冒険者の栄光は、まだ誰も足を踏み入れていない雪原に、その第一歩をしるすところにある」って。そういうことですよ。
<続く>