のばらの園(詩)
朗読用に書き下ろし 作・本山由乃
のばらの園
白々と映える
あの夢に浮かぶ
蕾は今彼方
触れもしない場所
深夜の澄み切った空気に、靴底がしんしんと冷える。
誰に聞かれるわけでもないのに、
ゆっくりと音を潰して歩く。
渡り廊下に棲む天使は、
今夜だけは目を瞑っていてくれる
木戸の向こうは楽園だった
夜霧にぼやけた薄緑
のばらが咲くのは月夜だけ
月光の歓迎は、僕だけに許される
何を願うか問う声は、
白い産毛に包まれて 小さな蕾の声かしら
何を願うか問う声に 白い産毛を撫でながら
小さな声で応えれば
星が揺れる、肯定の合図。
暗幕が下りて、幕引き
何もかもが夢
のばらの園は遠く
伸ばす指先には棘
望みは彼方に消え失せて
残されたのは僕一人。
わかっていたよ、もう逢えないことも
君の心は此処にはないと
それでも通うこの道が、僕には尊いものだった
月が割れて、朝
白やけた庭はみすぼらしく
雑草が足首をとらえ
僕は、私であった。
革靴の底は薄く減り、
スラックスは草臥れた。
あの夢に浮かぶ、蕾は今彼方、
触れられもしない場所
了
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