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シュルレアリスム展(ポンピドゥーセンター)
詩人のアンドレ・ブルトンが『シュルレアリスム宣言』を発表してから100年という節目に、シュルレアリスムの都パリが満を持して開催するド級の展覧会です。日本でもシュルレアリスムと関連した企画は多く、国際様式と化した美術運動ですが、その総本山の本気が見えます。
概要
作品の豪華さはもちろんですが、導入部の演出からわくわくさせるもので、日常や現実とはここから離れますよ、というテーマパーク的な演出になっています。はっきりいえばこれは展覧会ではなく、熱狂です。
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ディディエ・オッティンガーとマリー・サレというふたりの大物によるキュレーションです。
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マグリットが1929年に撮ったシュルレアリストたちの写真が両脇に配置された暗路を通ります。ディ○ニーランドかと思う雰囲気ですが、華麗に展覧会の登場人物紹介がなされていることに気が付きます。
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この時点でもうお腹いっぱいの興奮
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全ての出発点としてブルトンの原稿が、大迫力のシュルレアリスム紹介ムービーが流れる空間に置かれていて、これらを見終えてようやく作品展示が始まるという演習。『宣言』が核にあることを象徴的に印象付けられます。
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西洋美術史の肖像画の中で屈指に優れたものだと個人的に思うもの。
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あとは全14章に区切られた各室で名品を眺めていくという流れになります。「シュルレアリスムとルイス・キャロル」「シュルレアリスムとサディズム」「シュルレアリスムと戦争」「シュルレアリスムとエロス」といった、こことここの結びつきが?というものから、定番のものまであります。
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この手の展覧会でちゃんと彼女の作品が量を持って紹介されているのはないため、驚き
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それぞれのテーマに合わせているため、年代はかなりばらつきがあります。1920年代のものの次に戦後の作品があったりと、テーマ展示ならではの困惑がありますが、作品が厳選された傑作(本などで見たことがあるものばかり)であるため、荒業の連続でも輪郭がぼやけません。
結局キュレーション云々より展示されている作品の水準かよと言われれば、おおむねそうですね。
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中盤頃でもうスタミナは残っていないので、ところどころにギミックのように仕込まれたインスタレーションが、そろそろ目障りになってきます。
展示の白眉は第二次大戦前夜の章です。
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日本語タイトルが統一されてないですが、ナチスから迫害されて逃げるマックス・エルンストの謎のモンスターの絵が極めてインパクトが強く、目にこびりつきます。笑顔もねっとりとした塗り方も気持ち悪く、天使というよりは迫り来る破滅を予感させるキメラです。
棘のある靴と重たそうな靴が、全てを踏みつぶす執拗性を醸し出している風に感じました。四方八方に皺がよりねじ切れた、肉か布地がわからないこの踊る怪物が、しかも何もない牧歌的な平原の上にいるというのも不気味で、超現実という装甲のなかにだけ許された不安や狂気があるように思います。本展のキービジュアルになる理由は分かります。圧倒的です。
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この潮流は1960年代まで続きますが、やはり第一次と二次世界大戦の戦間期の芸術だなと思います。ただ奇抜でシュールでといったところに重量のある不安が覆い被さることで、作品の内容の凝縮度が段違いのになっています。緊張感による縛りがシュルレアリスムの手法にのみ可能な表現へ昇華されていると感じました。
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人が大勢死のうが世界が破滅を迎えようがそれでも芸術は続いていきます。最近愛知県立美術館に収蔵されたことでも話題になったキャリントンの作品がピックアップされていました。今後もっと評価が高まりそうです。
シュルレアリスムは女性芸術家も活躍しているため本展でも多数取り上げられています。
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晩年は神秘主義的な作品へ
ダリ、エルンスト、マグリットの3人はやはり破格でした。数十人ものシュルレアリストたちの作品が並んでおり、大変疲れる中でも新鮮な驚きとともに視界に飛び込んでくる絵は、だいたいこの3人になります。元々知っていて馴染み深いからというだけではなく、特別だからなのかなと素朴に思う次第です。
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とにかく量が多く、流し見になるくらい体力を使います。2時間は最低でも用意したほうがいい内容でした。
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