自分の好きなものを測る究極の単位?「BF値」を基準にアート鑑賞してみる
自分の好きなものについて、みなさんはどんなふうに説明しますか?
プロレス、茶の湯、油画、漆芸、陶芸……
今回は編集長が好きなものについて語るたび登場する「BF値」という謎の単位について聞いてみました。
BF値ってなんだ?
編集長のおしゃべりをふむふむと聞いていると「BF値」はどうやら「Beautiful Foolishness値」の略で、編集長が開発した(?)単位らしい。美しさと愚かさ? 一体何を測る単位なんだろう……?
聞くと、藝大アートプラザで2024年6月開催予定の企画展「The Art of Tea」の企画が発端だそう。企画展のコンセプトのもとになっている岡倉天心の「THE BOOK OF TEA」第一章“The Cup of Humanity(人間性の茶碗)”に、こんな一節がありました。
これを読んだとき「いまの日本のアートに必要なのはこういう感覚じゃないか」とひらめいた編集長。
岡倉が唱えているのは、ヨーロッパの価値観は「堅牢さ」や「絶対的な美」に重きがあるけれども、 日本では脆く儚い「愚かさ」に美を見出しているということ。こうした日本ならではの価値観は、ヨーロッパのさまざまな文化に、衝撃を与えました。
美しき愚かさ、この日本的というか、天心いわく東アジア的価値観はアートの概念や需要のしかたをヨーロッパからそのまま輸入している現代日本のアート界にも必要なのではないかと考えたのです。
「日本ならではのアートの見かた、私たちに適した見かたができたら、アートの存在は変わるかもしれない。その提案として『BF値』を開発しました」と編集長。
▼日本におけるアートの概念や需要のしかたについては、前回の記事でもふれています
自分の好きなものをBF値で測ってみる
「BF値」つまり、美しいかどうか愚かであるかどうかを測る単位ですが、どうやって使うのでしょう。
「まずは自分の好きなもののを見るときに、BF値を当てはめてみましょう。例えば、マルセル・デュシャンの『泉』、千利休の『桂籠花入』、まるっきり違う好きな作品を、BF値で測ってみると、両方ともBF値が高い。これまではそれぞれに好きな理由をつくって説明していたけれども、BF値を使えば統一して説明できる」と言います。
なるほど、とってもシンプル。アートってそんな単純に見てもいいのかと目から鱗です。
「現代のアートは、美術史の文脈にのってないものは評価されにくい。歴史や社会との関連性、世界を変える力があるかどうか……少しギスギスとした空気が流れている気もします。もちろんそういう作品があってよいと思うけれども、アート鑑賞の作法だけでなく価値観までおしつけられては、心から楽しめないことも。アートの文脈や社会問題から離れた、ただそこに存在する作品もあってもいいのでは? という個人的な思いもあります。だから自分だけの価値観、つまりBF値が導入できれば、本当の意味でアートを自分のものにできる気がするのです。」
編集長が最近「高BF値」を感じたもの
「例えばカトウさん。1枚の画面のなかでアニメーションの動きを表現しようとしているんだけど、実際にはそんなことはできない。愚かなことなんだけど、それを追求している行為は美しいです。」
「オクヤマ コタロウさんの光源が3つも4つもあるような絵も、F値が高くて油画としても美しくて好きですね。」
「岩田駿一さんも高いBF値を感じています。絵を素材に家中のものをつくりたいという考えは愚かだけど、できあがっているものはやはり美しいです。」
共通点は表現が目的になっていないこと
BF値が高い作品に共通しているのは、表現が目的になってないこと。あくまで彼らの表現は手段であり、それぞれFoolish値の高い目的をもっています。
「表現そのものが目的になると、自己表現に帰結したり、美術史やアートの文脈にのせることが価値の担保になるけれども、追い求める目的が表現以外にあれば、その必要がないというわけです。いわばソクラテスやプラトンのような哲学者と同じで、BF値の高い方たちは、みなさん自分が追い求めていることの手段が絵画表現になっているだけなのです」と編集長。
ここまでの話を聞いて、私は木彫りの熊を思い浮かべました。BF値にあてはめると、確かに手元にあるものはみんな美しい技術でつくりあげられたものだけど目的はありとあらゆる表情ポーズの熊をつくりあげること。だから愛おしい。「この彫り方は誰々の影響を受けていて〜」とアート的な見地で評価しなくても、単純にそのままの存在を愛でることができるような気がします。
次回は……
次回は「アートを日常に」ではなく「日常をアートに」してしまう活動について。これまた一体どんな活動なのか、気になる続きは次回のnoteで。
▼こちらのPodcastでも「BF値」について熱く語っています
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