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【尾の身】

若い頃、一人で居酒屋に行った時のことである。

壁に〈尾の身〉と書かれたメニュー札が掛かっているのが目に留まったので、それを注文したのだった。

〈尾の身〉ってなんなんだろう❓️

大将に訊いてみればいいのに、知ったかぶりをして黙って注文したので、どんなものが出てくるのか分からなかった。

やがて出てきた〈尾の身〉と称するものは、霜降り牛肉の刺身のようなものであった。

これが〈尾の身〉かぁ・・いつか食べたことがある〈馬刺〉にも似てるなぁ・・

〈馬刺〉みたいなので、〈馬刺〉を食べる要領で食べてみた・・・

〈・・・美味い❗️ へぇ~〈尾の身〉ってこんなに美味いのか❗️〉

生まれて初めて食べた〈尾の身〉に仰天した僕なのであった。

それから〈瓶ビール〉と〈もつ煮込み〉を追加注文したりして、暫くの間その居酒屋で呑んだ。

小1時間も経っただろうか、そろそろ出ようかと思い、会計をお願いした。

ところが、僕の予想を遥かに越えた料金を請求されたのだ。なんと手持ちの金でギリギリ間に合ったから良かったようなものの、大いに肝を冷やした瞬間であった。後から思えば〈尾の身〉にだけ値段が書かれていなかったし・・

後から知ったのだが、〈尾の身〉というのは、鯨の尾から背中にあたる、脂の乗った部位で、希少価値がある超高級品だということだった。

居酒屋の大将が、若造が生意気に〈尾の身〉なんか注文しやがって、なんて思ったに違いない。

若かりし頃の情けない経験談である。


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