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【冬の日のランチ】

当時、カップヌードルは発売されて間もない頃だったので、まだ珍しくてちょっとした特別感があったものだ。

その日は大変に寒くて、店の窓から見える外の景色は雪で真っ白だった。

ガラッ!と引き戸を開けて馴染み客のおじさんが入ってきたのだが、手にはカップヌードルを持っていた。

「今日は寒いねぇ。社長!ピアノ売れとる?楽器屋はええなぁ楽しそうで」

「まぁ、ボチボチよ。そりゃそうと、それなに?」

「ありゃっ、知らんの?カップヌードルよ。湯かけただけで食えるんよ、これが」

「ほう~」

「社長!湯、ちょうだいや」

常連さんはそういうと、カップヌードルのフタを半分剥がして、ストーブの上にあったヤカンの湯を注ぐ。

「社長、これで3分待つだけよ。冷めたらいかんからここへ乗せとこっと」といってカップヌードルをストーブの上に置いたのだった。

3分も経っただろうか

「もう、ええかな」といって常連さんがカップヌードルを持ち上げた瞬間、熱で溶けた底がストーブに張り付いてしまっていて、底が抜けてしまったのだ。

「ジュジュジュバ~!」と中身が全部ストーブにかかってしまって、ストーブは麺とスープで消化器を掛けたようになり、店は煙だらけになったのだった。

(最近カップヌードルの容器は紙質になったが、ながらくは発泡スチロールだった。)


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