
【僕達の野外料理】
小学生の頃、友達数人でよく近くの河原に遊びに行っていた。
当時の川は、護岸工事がなされていない川で、水も綺麗だったし、河原も自然のままの状態で残されていた。
だから、〈鯉・ウグイ・オイカワ・鮒・ドジョウ・メダカ・ゲンゴロウ・ミズスマシ・ヨシノボリ・ギギ・カワニナ・タニシ〉などの様々な生き物がいっぱい棲んでいた。
そんなある日のことである。いつものように友達数人と河原にやってきて、魚獲りをして遊んでいた。その日は、僕達が〈ゴンパツ〉と呼んでいた〈ヨシノボリ〉が取り分けたくさん獲れたのだった。いっぱい獲れたことだし、遊び疲れたので、〈ゴンパツ〉を全部逃がして、もう帰ろうかという声が誰かからあがった。
「もぉ帰ろうやぁ~」
「おぉ、腹減ったしのぉ~」
「おぉ、ペコペコじゃあ」
「小使無いし、なんも買えんでぇ~ワシ」
「なんか食べたいのぉ~」
皆んなは口々に空腹を訴えている。
当時は現在と違って、ふんだんにオヤツを食べられるような時代ではなかったので、子供達はいつでも腹を空かしていたのだ。
すると、1人がこんなことを言った。
「おい、ゴンパツは食えるんかの❓️」
「食えるわけないじゃろぉが」
「ほうよほうよ」
「気持ちわる❗️」
皆んなからダメ出しを喰らったのに、ソイツはメゲなかった。
「でも、父さんと海釣りに行った時〈ハゼ〉をいっぱい釣ってきてのぉ・・それがうまかったんじゃ❗️」
「ハゼェ~❓️」
「おぉ〈ハゼ〉じゃ。〈ハゼ〉より小さいけど、〈ゴンパツ〉は〈ハゼ〉にソックリじゃ❗️じゃけぇうまいはずじゃ」
「ホンマかぁ~❓️」
「〈ハゼ〉と〈ゴンパツ〉は似とるんか❓️・・」
「でも、生じゃ食えんど、どうするん❓️」
喧々諤々の議論の末、〈ゴンパツ〉を煮て食おうということになった。網がないので焼くことが出来ないのだ。
早速、皆んなで手分けして〈空缶〉や〈木屑〉を拾ってくると、〈空缶〉を綺麗に洗って川の水を入れ、河原の石を積み上げて作った竈の上にそれを置いた。河原ではよく〈焚き火〉をして遊んでいたので、誰かがマッチを持っているのだ。当時は子供達だけでも自由に〈焚き火〉が出来たのだ。
やがて沸騰してきた湯の中に、生きたままの〈ゴンパツ〉をぶち込む。腸なんか取らないで、丸々生きたヤツを熱湯の中に入れるのだ。少年は時に残酷である。
程なくして〈ゴンパツ〉が茹で上がった。
「おい、誰か先に食えぇや・・」
「お前が言いだしたんじゃけぇ、お前が食えよ」
「そうじゃそうじゃ」
多勢に無勢である。言いだしっぺのK君は引き下がれなくなってしまった。
意を決した彼は、拾ってきた棒切れを箸替わりにして1匹の〈茹でゴンパツ〉を摘まみ、2・3度フーフーしたのだが・・・中々食べない。
そして暫く見詰めたあと、いっきにパクッと口の中に放り込んだ。
「・・・・・・・・」
モグモグしている。
「どうじゃ❓️うまいんか❓️」
「おい、なんとか言え~っ❗️」
皆んなが固唾を飲んで見詰めている中、やっとのことでK君が口を開いた。
「・・・うまい❗️」
その一言を聞いた皆んなは、我も我もと〈ゴンパツ〉を食べ始めたのである。
「おぉ~~うまいでぇこれ」
「骨に気ぃつけよ❗️」
「うまいうまい❗️」
〈ゴンパツ〉は本当に美味かったのである。最初は厭な顔をして敬遠していた金持ちん家のN君も、ついに釣られて食べてしまっていた。
昭和の時代の、懐かしいエピソードである。
・・・・・・・
(ヨシノボリは、アジアの熱帯・温帯の淡水から汽水域に広く分布するハゼの1グループである。「ヨシノボリ」という呼び名は特定の種類を指さず、ハゼ亜目ハゼ科ヨシノボリ属 に分類される魚の総称として用いられる。 Wikipediaより引用)