【旅客機】
孫娘のお宮参りをするために、娘夫婦が引っ越した仙台に行くことになった。移動の手段は飛行機だ。娘婿君が広島空港から仙台空港までの直通便を手配してくれたのである。
飛行機に乗るのは、沖縄に行った時以来ひさしぶりなのだが、滅多に乗らない飛行機だ。いい歳を取った今でも、遠足の前の日の小学生のように、なんだかワクワクするのである。
搭乗した機体は、例えば〈ボーイング737〉とか〈エアバスA320〉とかではなくて、あまり見掛けないチョッと小ぶりな機体だった。
それは、IBEXエアラインズという航空会社のもで、〈CRJ700〉という、カナダ・ボンバルディア社製の、短距離輸送用ターボエンジン搭載のリージョナルジェットという、そういうカテゴリーの機体だった。全席がエコノミーというリーズナブルなものである。
機内に乗り込むと天井が低くて狭い。通路の左右には2座席づつのシートがあって、最大搭乗人数が70名だということであった。今までに乗った飛行機に比べると相当に小さいのでチョッと不安になってしまうのだった。
〈おい、これ、ちゃんと飛ぶんだろうな・・〉
そんな失礼なことを考えながら僕はシートに座った。家内は2つ後ろの席で、真上にある収納ボックスにスーツケースを押し込んでから席に着いていた。夫婦で隣同士の席が取れなかったのだ。
僕のスーツケースはと言えば、サイズオーバーで機内に持ち込めなかったので、機体下にある収納庫に入れられて運ばれるようだ。
隣の窓側席には既に若い女性が座っていた。後から来た僕は「失礼します」と言って座ったのに女性は返事もしない。気まずい空気のまま仙台まで一緒なのかと思うと、チョッと気が重くなるのだった。
やがてシートベルト着用のランプが点灯し、例によって女性CAが救命具や酸素マスクの使用方法の説明をする。
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それから数分後、機体はユックリと滑走路の方へと移動し始めた。
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機体は定位置にスタンバイした。そして一呼吸置いた後、CAの「離陸致します」という機内放送を受けたその直後、エンジンが「キュ~~ン❗️」と唸り出すや身体全体に強い加速感が加わり始める。
窓の外の景色が後ろに飛んでいく。背中に感じるGがいよいよ強くなり、速度がグングンと増してきた頃、機体は機首を上げてどんどん空に登って行った。
やがて水平飛行になり、エンジンの音も静かになって、機体は実に安定した水平飛行に入ったのである。
案じるより産むが易し・・リージョナルジェットは特に揺れることもなく、1時間20数分の飛行を順調に終えて、無事に仙台空港に着陸したのであった。
初めて利用したリージョナルジェットだったが、新幹線よりも随分と格安であるし、乗ってみれば快適であった。
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2泊3日のスケジュールを予定通りにこなして帰路につくことになった。
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帰りも同じジェット機に乗ったのだが、今度は夫婦が隣同士の席になることが出来た。
エアポケットで機体がスッと下降したり、雲の中でガガガッっと揺れた時は家内が僕の腕を掴んで大いに怖がったのだが、大型ジェットだって揺れる時は揺れるのだから、リージョナルジェットだからと言って特に問題はないのだった。
そして、遠いと思っていたのに、航空便を使うと1時間数十分で繋がる仙台が急に近くなったような気がしてきて、なんだか嬉しくなる夫婦なのであった。
(三菱重工が開発したリージョナルジェット機〈MRJ〉は、外圧によって〈MSJ〉に名称変更され、機体の開発は、事実上凍結状態にある)