【親父のプライド】
晩年の親父は禿げ頭であった。丁度、磯野波平の頭頂部に1本だけ残っている髪を、ピッ!と抜いたような頭だった。
そんな親父が散髪から帰ってきたある日のことである。妙にご機嫌斜めなのだ。
「どしたん?なんかあったん?」
「あんの野郎、坊主にしやがった❗️」
「はぁ?」
「坊主頭にしやがったんじゃ❗️」
親父の頭を見ると、後頭部の回りに残っている髪が、いつもよりは刈り込んであるようには見えるのだが、言われなければ気が付かない。
「いつもと大して変わらんけどねぇ」
「いいや、よう見てみぃ坊主にしやがった❗️」
親父の不機嫌は次の日まで尾を引いたのであった。
元々が禿げ頭のクセに、禿げ頭には禿げ頭なりのプライドがあったのだ。
そんな親父も、亡くなってからもう5年になる・・・
(イラストは、ネット画像をマーカーペンで手描きしたものです)