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ChatGPTでベトナム語の作文練習をする
3ヶ月ぶりのnoteです。久しぶりに書いた今回のネタは「言語学な人々 Advent Calendar 2024」の19日目の記事でもあります。
厄年って本当にあるのね…
前回の記事は今年9月に書いたのですが、それから3ヶ月間、ずっと体調不良で苦しんでおりました。コロナ前から持病として咳喘息を抱えており良い状態と悪い状態を繰り返していたのですが、前回の記事で紹介したハノイの古本屋から帰った頃から悪化の一途をたどってしまい、授業などの日常的な業務をこなすのも難しくなってしまいました。
1年のうち3ヶ月間(つまり1/4)を体調不良で過ごす状態では、日常生活のルーティーンも滞りますし研究にも全く集中できません。よくよく考えてみると今年は40代の後厄の歳ですので、身体の状態が変わっていく節目として厄年を軽視すべきではなかったのかもしれません。
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管理している中華会館の華僑の方に中国式の参拝方法を詳しく教えてもらいました!
起きてから寝るまで(それどころか、寝てる最中も)咳が出続けると、中国語であれベトナム語であれ「とにかく声を出して勉強するのが基本」となるタイプの語学はひたすら苦痛になります。これまで9年間、ずっと続けていたベトナム語の学習も自然と億劫になってきますし、担当している中国語の授業でも大きな声で音読練習ができなくなってしまいました。
このまま体調が不安定な状態が続くと語学自体が嫌になってしまうかもしれない…と少し焦りが出てきましたので、「声を出さない新しいスタイルの語学練習」を実験的に模索してみることにしました。
ChatGPTと一緒にベトナム語の作文をしてみよう!
声を出さない語学練習として思いついたのは「作文」です。ただ、自分の語学知識だけに頼ったベトナム語文章をダラダラ書いていても、自然な表現が書けているのか、どこが間違っているのかがさっぱり分かりません。そうは言っても体調はなかなか上向かず、ネイティブの人に会って添削してもらう体力も気力も残っていませんでした。
ほんなら、最近流行りのChatGPTを使ってベトナム語作文の添削を試してみよう、ということで日常生活で見たり感じたりした出来事をとにかく深く考えずに作文した上でChatGPTに添削してもらい、出力結果をそのままX(旧Twitter)に貼り付ける実験を始めてみました。
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AIへの指示はシンプルに「以下のベトナム語を添削してください」だけにしてみました。
Gần đây, tôi rất thích các phụ kiện thời trang họa tiết Kobe Tartan. Kobe Tartan thể hiện đặc trưng của thành phố Kobe: màu chàm là hải cảng, màu xanh là núi Rokko, màu đỏ là tháp Port, v.v. Cà vạt của tôi cũng có họa tiết này! pic.twitter.com/rfJRktoQtn
— YT (@GENGOLANGUAGE) December 13, 2024
ChatGPTの実力や添削の傾向性を知るために、私が作った元の文と添削結果の文は全て記録しました。今回の記事ではChatGPTによる添削の長所や傾向性を整理してみましょう。
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ChatGPTによるベトナム語添削の傾向性
1. 適切な語彙を推測して見つけ出す能力は高い。
まず気づいたのは、私がよく知らなかった語彙を見つけ出す能力はすごく高いと思いました。
例えば、以下の部分では神戸タータンという「色柄」について、私は"có mẫu màu Kobe Tartan"「神戸タータンという色型を持つ」と少し不自然な表現だったのですが、ChatGPTは"họa tiết Kobe Tartan"「神戸タータンのモチーフ」と自然な表現を提案してくれました。
私)tôi rất thích mua những phụ kiện thời trang có mẫu màu Kobe Tartan
GPT) tôi rất thích các phụ kiện thời trang họa tiết Kobe Tartan
「私は神戸タータンの柄がついたファッション小物が好きです」
他にも、「自力では舌足らずになりがちな表現」を綺麗に修正してくれる能力はかなり高いです。
私)Nếu thành công công trình này, tôi sẽ không đến Trung Quốc trong 5 năm.
GPT) Nếu công trình này thành công, có thể tôi sẽ không cần đến Trung Quốc trong vòng 5 năm tới.
「もしこのプロジェクトが成功したら、これからの5年間は中国に行く必要がないでしょう」
私)Tôi đã nhận được giấy phép lái xe trứơc 10 năm…
GPT) Tôi đã nhận được bằng lái xe cách đây 10 năm…
「私は10年前に運転免許証を取りましたが…」
2. 複数を含意する量化詞では"những"よりも"các"を強く好む傾向がありそう
複数を含意する「量化詞」的な語彙としてベトナム語には "những" と "các" があります。今回の記事ではお互いの違いについて細かい文法解説は省略しますが、ChatGPTは圧倒的に"các"を好む傾向性があるような気がしました。
私) Tuy nhiên tôi ít tiếc không thẻ đi đến những thắng cảnh ở ngoại thành với gia đình tôi.
GPT) Tuy nhiên, tôi hơi tiếc vì không thể đi đến các thắng cảnh ở ngoại thành cùng gia đình.
「しかし、家族で郊外の景勝地(複数)に行けないことが少し残念です」
私) Tôi luôn nghe những Podcast của tiếng Việt bằng Spotify để luyện tập nghe tiếng Việt.
GPT) Tôi luôn nghe các podcast tiếng Việt để luyện kỹ năng nghe.
「私はリスニング力を鍛えるために(Spotifyで)ベトナム語のポッドキャスト(複数)を聞いています。」
この傾向性の是非を議論するには「"những"と"các"の使い分け」という難しい文法解説が必要になりますので、また今度にしましょう。ただ、自分では"những"が適切だと思う箇所でも"các"が出力される可能性が高いことは、事前に頭に入れておくといいでしょう。
3. 文末の語気詞は苦手!!
ベトナム語の会話の中に豊富に現れる文末の語気詞(または文末詞)を入れることは、ChatGPTはとにかく苦手です。原因としては、 ChatGPTが参照しているベトナム語のデータは活字になった書き言葉が圧倒的に多いのでしょう。また、語気詞自体が聞き手との関係性やコンテクスト、話し手の意図やニュアンスによって決まるものですので、コンテクストや意味を深く理解することなく文章を出力するChatGPTにはハードルが高すぎるのかもしれません。
結論としては、「自分では言えそうで言えない語彙やイディオム」を覚えたり、書き言葉などの「硬い」ベトナム語を練習するにはChatGPTは良いアシスタントになると思います。
一方で、会話のニュアンスを自然にするための語気詞など話し言葉に特有の表現は、今のところネイティブとの対面会話を通して学ぶしかないようです。
こんな感じで長所も短所もありそうですが、気軽に声を出すことができない今の私にとっては、ニーズを十分に満たす語学練習ができているので引き続きChatGPTと作文を書いていくつもりです。
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