ゲーム音楽をイロイロに彩る「アレンジの変化」 ー Splatoon, NieR, etc...
突然ですが、
Splatoonの音楽は最高にイカしてる!!
Splatoonとかいうゲーム、ゲームとビジュアルと音楽と全てが神なんだけど、中でもとにかく音楽がいい。ゲーム音楽って普通「ゲーム体験と合わさって心に残る」というものだけど、Splatoonに関してはもう正直ゲームと切り離して1つの音楽作品と見ても大好き、なんだこのアウトローでキャッチーで攻めてるサウンドは。
「Splattack!」大好き。ABXYもピコピコが好き。「シオカラ節」は最高だろ。「マリタイム・メモリー」も捨てられない……2はまず「Inkoming!」が神でしょ。その後に来た「Don't Slip」は衝撃的だった。そして何よりテンタクルズのフェスの曲が最強なんだよ。わかるか?いやわかって。俺はもうこれ以上の語彙力はないんだ。
でもそれだけじゃない。任天堂が作っているんだからSplatoonだって音楽の「インタラクティブな仕掛け」が沢山詰まっている。それなら俺はVertical Remixingがどうのとかクオンタイズがどうの、みたいな専門用語を使って語彙力たっぷりに話せる!(※用語はその都度解説します)ということで、
今回はSplatoonで使われている音楽演出を皮切りに、他のゲームでも使われている音楽の「アレンジの変化」について語っていこう。
ちなみにこれは「ゲームと音楽の関係性」という連載。前回の記事↓
1.Splatoon2のBGMアレンジ変化
早速だけど、Splatoon2のショップでのBGM変化を見てみよう。
ブキ屋、アタマ屋、フク屋、クツ屋でそれぞれBGMがそのお店のフンイキに合わせたアレンジに変化している。その間、BGMのテンポや展開、メロディなどは途切れずに続いている。Splatoon1でも同じような演出があった。
頻繁に切り替える画面なので、まったく別の曲にしてしまうと切り替えるたびにイントロから入って耳障りになってしまう。でも、変化が何もないとお店のフンイキが出ない。同じ曲のアレンジ違いをつなげることで、何度切り替わっても違和感がなく、かつフンイキに合わせた演出ができているというわけだ。
縦の遷移 / Vertical Remixing
複数の「同じテンポ」「同じ展開」「同じループの長さ」のレイヤーを流しておき、状況に応じて音量をON/OFFすることでシームレスに変化させる手法。これは前回のnoteで紹介した、「アレンジの変化」だ。
このように縦に並んだ複数のレイヤーを切り替えることから、
縦の遷移(Vertical Remixing)とも呼ばれる。
作曲者が同じ展開で同じ長さのアレンジさえ作れれば、プログラマーとしては同時に再生を呼んであとは音量設定を状況に応じて変えれば良いので簡単に実装できる。
そのため、非常に多くのゲームでこのBGMのアレンジ変化が使われている。
例えば、
2.NieR RepliCant / Gestalt
NieRはアレンジの変化を随所で活かし、それを物語にも意味のある形で組み込んでいる好例だ。
双子のデポル・ポポルは、街のBGMに上乗せする形で彼女たちのテーマ曲となるウタを歌っており、彼女たちの位置に近づくにつれてウタが聞こえてくるようになっている。
ここでは、屋内へ入った時に同時にギターが消えて別の楽器を使ったアレンジに変化している事にも注目したい。
音楽的に自然な形で「デポル・ポポルが歌っていること」「デポル・ポポルのテーマとなるメロディ」が心に刻まれる。このゲームを終盤までプレイすると、意味があったと感じる事ができるはずだ。
ダンジョン内部では探索中に敵と出会った時に楽器が追加される形でアレンジが変化しており、探索と戦闘をシームレスに繋いでいる。
これも、NieRという世界観で大切なメロディや雰囲気を壊さずに戦闘状態をプレイヤーに正しく伝える機能を果たしている。
もちろん、最新作のNieR: Automataにおいても、縦の遷移は多く使われている。それについてはこっちにまとめたのでチェックしてほしい。
3.スーパーマリオワールド
アレンジ変化の有名な例としては、やっぱりヨッシーに乗った時の変化。
スターを取った時みたいに大きな変化ではなく、少しレイヤーを足すだけの変化にすることで、スムーズかつヨッシーらしいかわいい変化がついている。
ここまでで、アレンジの変化にはなんとなく
「それぞれ別の完成されたアレンジを切り替える」パターンと
「完成された曲からボーカルやパーカッションなどのパートを抜き差しする」パターンがある、ことが見えてきた。
アレンジ全体を変化させるのは作曲のコストがかかるけど変化としては大きくわかりやすいものになる。
パートの抜き差しは使い方によって「このパートは◯◯のキャラを表している」などの意味付けが可能という利点がある。
4.ファイナルファンタジーXIII-2
ここでは先程のNieRと同じように、敵にエンカウントした時にBGMがドラムトラックの入った激しいものに切り替わる演出が使われている。
FF13-2の変化では切り替わりの瞬間にちょっとした工夫がされていて、音楽が単なるフェードではなく拍に同期して切り替わっており、同時にインパクト音が鳴るようになっているので、クロスフェードや単なるON/OFFとは違って、変化した瞬間が気持ちよく、はっきりと演出されている。
5.Florence
最近話題になったスマートフォンゲーム「Florence」、女の子の成長とチェロ弾きの男性との恋愛を短いプレイ時間で丁寧に描きあげた傑作だ。
このゲームでも、いたる所でキャラクターや物語に結び付けられた音量変化が用いられている。
切り替えがON/OFFの2値ではなく、段階的に音量を上げて変化していくようになっているため、より音楽とゲーム(キャラクター)の結びつきを強く感じることができる。
30分くらいで終わるので、是非体験してみてほしい。このゲームにおけるその他のBGM演出が気になった方はこちらを。
6.ファイアーエムブレム覚醒
FE覚醒の戦闘に入る時の音楽変化、マジで良いんですよ。このゲームで初めてインタラクティブミュージックに気がついて好きになった、という人も多いみたい。それもそのはず。だって、この変化は、今までのアレンジ変化とは大きく違う所があってね……長くなりそうなので、連載の中でまた取り扱う予定。
追記:書きました!↓
7.海外の事例
日本のゲームを多く取り上げてしまったけど(個人的に和ゲーばかりやるので)、シームレスな音楽演出は海外のゲームの方が進んでいる。
いわゆる「ハリウッド的」な演出を追求している彼らは、やはり音楽の作り方からして根本的に違っていて、印象に残るメロディはメインテーマ1個くらいしか無いものの、他のBGMはシーンにちゃんと合わせてシームレスに盛り上げたり(単なるフェードアウトじゃなくて)終わらせたり、等を丁寧に行っている。
以下のYoutubeビデオでは、海外のインタラクティブミュージックに詳しい方が(この方はAdaptive Musicと呼んでいるが)様々な事例を紹介している。
Uncharted: Drake's Fortune
Uncharted 2: Among Thieves
Mirror's Edge Catalyst
Beyond: Two Souls
Prince of Persia
Assasin's Creed Syndicate
Life is Strange
などなど、気になるタイトルがあれば是非見て欲しい。
(前半は技術的な説明で、後半にゲーム事例があります)
8.Splatoon2の「常識破り」のレイヤー重ね
さて。最後にSplatoon2の「ハイカラスクエア」でのBGM変化を見て欲しい。
それぞれのお店の近くでは別々のBGMが流れており、それがレイヤーのように重なってハイカラスクエア全体のサウンドを生み出している。方法としては、今までご紹介してきた「縦の遷移」と同じものだ。
しかしどうだろうか。これが「1つの音楽のアレンジ」かと言うと…?
1つずつのお店から流れるBGMは、テンポも違う、展開も違う、まったく違う曲だ。これだけだと、リアルの街と同じでそれが合わさった時には雑音のようになってしまう。しかし、ハイカラスクエアのBGMはどこを歩いていても不快な組み合わせになることが無い。なぜか?
それは、各BGMの拍の長さが整数比率になっているから、だ。
ロビーから流れているバスドラムのビートを基準として、
ロブのお店のBGMはそれと3:4の比率で、ロビーBGMの1拍がロブのお店のBGMの16分音符3個分のシンコペーションに重なるようになっている。これに合わせるようにロブのお店の曲自体にもシンコペーションが入っていて、途中でそれぞれの曲の4分音符とシンコペーションが重なっているのが面白い。
イカッチャの前のBGMはロブのお店と同じ比率。
その他は基本的にロビーBGMと1:1、つまり同じテンポで鳴っている。
クマサン商会の前も同じテンポだ。
つまり、完全に同じ展開ではないけど、ビートになんとなく合うように作られていて、ズレていっても何小節か後でツジツマが合うようになっているのだ。
縦の遷移をするには同じ構成でBGMを作らなくてはいけない、というのが今までの常識だったが、Splatoonは「違うテンポ、拍子のBGMを整数比率でツジツマを合わせる」という新しい考え方を持ち出して常識を打ち破った。
そしてもう一つ、ヒーローモードのエリア移動時も、このアレンジの変化が使われているのだが……
これも一度聴くと普通のレイヤー重ねかな…?と思えるのだが、
2つ目のエリアでは、16分音符3個分のシンコペーションのリズムが重なる。
3つ目の「ロウト配送センター」で重なってるドラムは意味がわからなくて、最初「16分音符3つ分を4で割ったリズムを重ねているのかな…?」と思ったんだけど数えようとすると微妙にズレて行って、なんとか解析した結果がこちら
4*(17.5/24)=2.916666...だから、まぁだいたいドラムの16部音符4つ(=1拍)でその下で鳴ってる曲の16部音符3つ分に近くなる計算だけど本当に気持ち悪いですね(褒めています)。
Splatoonは前作のミステリーファイルの曲といい今作のシャケのBGMといい、さりげなく凄い変拍子をぶっこんできている(いいぞもっとやれ)。
その他にもSplatoonには様々なBGM変化が使われているので、気になった方は是非こちらのブログもご覧あれ(さっきのNieR: Automataの記事を書いたのと同じ友人のブログです)。
ゲームでしか味わえない「アレンジの変化」
このように、調和のとれたBGMがゲームの状況やプレイヤーの操作にしたがって変化する、という体験はサントラを聴くだけでは味わえないものだ。
もちろん、サウンドトラックの中にも、例えばSplatoon2なんかはアレンジ違いの各バージョンを1ループずつ繋いで入れていたりするので、「あの曲好きだったのにどこにあるんだろう…?」という時は、曲の後半にシークしてみると見つかるかもしれない。
ゲームによってはそういった「バージョン違い」はサントラに収録されていないこともある。。サントラももっと進化して、ボタンを押したらサントラ上でもそういった変化が楽しめるようになると、また違った楽しみ方ができるんだけどなぁ(一部、そういった機能のついたサウンドテストを実装しているゲームもあります)。
今回はそんな、イロイロな音楽のアレンジとゲームの関係性、でした。
おまけ
私です
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