「ファイアーエムブレム覚醒」 プレイヤーの感情とリンクする音楽
「ゲームと音楽の関係性」を紐解くこの連載。前回のnote↓
では、「ファイアーエムブレム覚醒」で使われているアレンジの変化についてちょっとだけ触れました。
それがこちら。
フィールドから戦闘に入るところで、「アレンジの変化」が使われています。
この変化がまぁ、
たまらない。
わけですよ。
フィールドで指揮をしている時の、
心地よい風が吹き抜けるようなアンサンブルサウンド。
そこからいざ戦闘に入った時の、
勇ましい打楽器と低音が加わったフルオーケストラサウンド。
その2つのアレンジが切り替わることで見事な手応えが感じられます。
記憶に残る変化
前回の記事では、
……と書き残しました。大きく違う所とは何なのか?
先に言っておくと、技術的な所ではありません。ただのアレンジの変化です。パーカッションを追加したレイヤーを流して変化させているだけです。
でも、ファイアーエムブレム覚醒でのアレンジ変化は多くのプレイヤーの心に残っていました。
というのも、初回のゼルダの記事で「インタラクティブミュージック」というワードが広まった際に、多くの方が引き合いに出されていたゲームとして
「時のオカリナ」「風のタクト」「スーパーマリオワールド」「PSO2」「NiGHTS」「Rez」などと並んで「ファイアーエムブレム覚醒」を挙げていた方が多かったのです。
私も、実はファイアーエムブレムシリーズは覚醒で初めて触ったのですが、
音楽変化を含め、効果音、アニメーション、画面遷移などすべてが心地よく作られていることに心底感動しました。
たしかに、他のタイトルと比べたら、何か歴史的に初めての演出を行ったとか突出して凝ったことを行っているわけでは、ない。ないんですが、こう、、
なぜいいのか。
同じように、フィールドとバトルの音楽をシームレスに変化させているゲームは無数にあります。
前回紹介したNieR RepliCant/GestaltやFF13-2もそうですし、Assasin's CreedやFalloutといったシリーズは早くからこういった演出を使っています。
これらに共通するのは「シームレスなフィールドでのエンカウントバトル」で、世界のゲームがもっとシームレスに!オープンに!と進化してきた過程で「音楽ももっとシームレスに!」という流れから生まれてきました。
しかし、
FE覚醒の戦闘は、「シームレス」でしょうか?
音楽はシームレスに切り替わっています。
でも、背景は鳥瞰図からキャラクターに焦点を当てた視点にダイナミックに切り替わります。
キャラクターはドット絵だったものが、3Dモデルに切り替わって気合の入ったアニメーションで剣を抜きます。
ゲームシステム的にも、ファイアーエムブレムにおいて「戦闘に入る」ことは「戦略を鑑みて行動を選択し、あとは天に祈るのみ」という決意の瞬間です。
そして何より、戦闘に入るのは
プレイヤーのトリガー
が起点となります。
どれを取ってみても、ファイアーエムブレム覚醒にとって、
「フィールド→戦闘」への切り替わりは、
変化が一点に集まる瞬間
となっているのです。
シームレスなフィールドで敵と出会う時の音楽変化は、敵接近を自然に知らせる効果的な手段です。しかし、ファイアーエムブレム覚醒ではプレイヤー自身は何が起こるかもう知っていて、その「これから戦うぞ」という感情の変化を強化する目的で使われています。
数々の視覚的な演出。
そしてゲームシステム上でも最も緊張が高まる瞬間。
そのすべてが注ぎ込まれた瞬間に音楽が変化する。
このように、
プレイヤーの感情とリンクする音楽演出
ができているからこそ、ファイアーエムブレム覚醒の音楽は心に残るのではないでしょうか。
ボス戦の感情&BGMトリガー
実は、ファイアーエムブレム覚醒でもう一つ、無視できないBGM変化の例があります。それがボス戦での会話シーンからの変化です。
(ネタバレ注意)ファイアーエムブレム覚醒 ボス戦BGM変化(こちらから引用)
会話中はアンビエントなBGMで、最後に「ここでお前を倒す!」のセリフをOKして攻撃シーンに入る時に壮大なBGMに変化します。
この……ボタンを押した瞬間の……「いくぜえええええ」って感情の変化を見事に表現した楽曲とトリガーがたまりません。
これもまさに、「感情とリンクした音楽演出」ではないでしょうか。
「再生するだけ」でも大事な変化。
このボス戦での演出は技術的には至極簡単です。先にアンビエントの曲を流しておき、プレイヤーがボタンを押したら次の曲を流して前の曲をフェードアウトさせるだけです。
しかし、単純な変化であっても、それが無い時とは雲泥の差があります。
例えばこれが「最初から1つのボス曲を流すだけ」だったらどうでしょうか。
会話シーンと戦闘シーン、どちらでも使えるようにするために、楽曲はもう少しテンションを下げないといけないかもしれません。
何より、会話を終えて本当に戦闘シーンに移る時のカタルシスがBGM変化なしにはまるで違ったものになってしまうでしょう。
しかし、そこから一歩こだわったのが凄い。
「会話シーンは緊張感を演出するために違うBGMを用意しましょう」
「次のBGMにシームレスに繋げるためアンビエントでテンポが無いものにしましょう」
「繋ぎの部分にサスペンデッドシンバルのクレッシェンドを入れて、音楽的に繋がるようにしましょう」
技術的には単純なこの演出の中にも、曲の発注から作曲までの間にこれだけの工夫が詰め込まれています。
「Bayonetta2」でのクライマックスアクショントリガー
Bayonetta2もBGM変化に非常に凝っていて、様々な仕掛けがあるのですが、中でも一番目立つのはやはり「クライマックスアクション」の瞬間でしょう。
ここも、プレイヤーが「X&Aボタン同時押し」をするだけで、言ってしまえば強引に、まったく別の曲にガツっと切り替えています。
ここまで来るともはや「インタラクティブミュージックと言えるのか?」「音楽的に繋がっていないのでは?」と思われるかもしれません。
でも……
気持ちいいじゃん!!
この曲はイントロが最高に気持ちいい。解放された!って感じです。
そりゃあ「このボタンを押したら緊張から解放されて、ベヨネッタの召喚獣でボッコボコにするだけ」なんてボタン、押した瞬間にBGMが変わっても「何それ?」とか思いませんよね?そんな事は押す前からわかってる。
シームレス VS 切り替え
これがもし、シームレスフィールドのエンカウントでガツッと別の音楽が変わったりしたら、「今の何?」って驚いて没入が途切れたりします。ゲームでの音楽演出はそのほとんどが「前の曲をフェードアウト、次の曲を再生」というガツッと切り替えです。
街に入った時、戦闘に入った時、イベントに入った時。ゲームによってそれは、環境が自然に引き起こすこともあるし、プレイヤーが能動的に起こすこともあります。ゲーム側が起こす変化はシームレスなBGM遷移によって没入感が途切れないようにできますが、プレイヤーが起こす変化は大きくBGMを変えることもあります。
音楽を「どんな仕組みで鳴らすか」だけではなく、「誰がトリガーするのか」も考えてゲームの音楽演出は作られているということですね。
ゲームでしか味わえない「音楽のトリガー」
というわけで、
ゲーム音楽は、
初回で紹介したゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのフィールド曲のように
「気づかれない、飽きさせないための変化」
も凄いけど、
今回紹介したファイアーエムブレム覚醒の戦闘曲のような
「気づいてもいい、気持ちよさを増幅させるための変化」
も良いよね!という回でした。
まだまだ奥が深い「ゲームと音楽の関係性」、連載続きます。
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