パリ・オペラ座の日々1993~1994:12 月17日 パリ・オペラ座「くるみ割り人形」①
12月17日
今日は調子が上向き。12月21日分のチケット購入のために並ぶ。朝9時にオペラ座着だったのに116番目というすごい競争率。今までこんなことは無かったので、パリの人々にとってノエルは特別なんだなぁと実感。お昼くらいまでかかって、ようやくチケットをゲットした。
その後Gラファイエットで、今後高級レストランに行く時のためのちょっと気取った洋服をあれこれ物色。Morganでちょっと購入。そこからエチエンヌ・マルソーまで歩き、agataとagnis bを見る。クリスマスムード&セールに煽られてどんどん買い物してしまった。
一度家に戻ってFIAPへ。今日はパーティーだけ。みんなで食べ物を持ち寄ってわいわいおしゃべり。パティシエ修行中のカズさんが、プチフール(petits fours 小さな窯…ってことで、一口サイズのケーキのことをこう呼ぶ)をどっさり焼いて持ってきてくれた。すごく美味しかった。
夜はオペラ座で「くるみ割り人形」の初日。現代バレエ振付家としては最高峰の一人、ジョン・ノイマイヤーのバージョン。モーラン、デュポン、ルグリ、プラテールが出演で超豪華版。でも旧来の振付との差に目が行ってしまい、大感動という感じではなかった。クリスマスのウキウキした劇場のムードはとても素敵だった。
オペラ座チケット 120F
チョコ 112F
ポム・ド・パン 54F
カフェ 12F
agnis b 900F
Morgan 720F
紙コップ 10F
カフェ 10F
カフェ 18F
水 10F
昨日が授業の最終日だったんですけど、この日はパーティーだけでみんなで集まろうということになって、先生を囲んでみんなで盛り上がりました。
生徒のひとりにパティシエ修行をしている人がいて、みんなのためにプチ・フールを大量に持参してくれました。
一口大に仕立てたケーキがずらりと並んだものをプチ・フールと言います。バイキングなんかでもよくありますね。こんなのをつまみながら、みんなでワイワイ盛り上がりました。
さて、いよいよ年の瀬の風物詩「くるみ割り人形」の初日です。
クリスマスだから奮発して60Fの席!…って言っても1200円ですからね。立ち見とはいえ、信じられないような価格です。
「くるみ割り人形」については説明不要でしょう。定番中のド定番ですが、寒い季節の街中を劇場まで出向き、あのイントロが流れだす瞬間っていつも新鮮な感動があります。
(当時、日本でも話題になっていたミテキ・クドーさん。この時は主人公マリーとして登場の日もありました。そしてマリーの姉ルイーズをミテキさんの母ノエラ・ポントワが踊るという大サービスキャスト)
パリのオペラ座では、パトリック・デュポンの前に芸術監督だったルドルフ・ヌレエフ振付の「くるみ割り人形」が定番化していました。これはプティ・パの振付・物語性を基本的に踏襲しつつ、とても洗練された仕上がりでした。
でも1993年末の「くるみ割り人形」は、現代のバレエ振付家として最高峰のひとりであるジョン・ノイマイヤーによる改訂版でした。ノイマイヤー版ではストーリー面でも大きな読み替えが行われており、プティ・パの舞台とはずいぶん趣が異なります。
古典的な「くるみ割り人形」は、クリスマスの夜に少女クララが魔術師的な老人ドロッセルマイヤーからプレゼントされたくるみ割り人形と共に、夢の世界を旅するようなストーリーです。
でもノイマイヤー版のそれは、もう少し現実的な世界観に置き換えられています。ドロッセルマイヤー(これはバレエ振付家マリウス・プティ・パを象徴する存在)からトゥシューズをプレゼントされた12歳の少女マリーは、クラッシック・バレエの舞踏の世界へと足を踏み入れ、バレリーナとしての成長を体験するようなストーリーになっています。
(デュポンとプラテール。公式パンフレットから)
もちろん音楽の流れはほとんど同じですし、一幕がパーティー会場(ただしクリスマスパーティーではなく、誕生会)、二幕目が幻想的な場面での様々な踊りのバリエーション+大きなパド・ドゥという全体の構成は維持されていますから、それほど大きな違和感はありません。
ただボリショイの古典版を何度もLDで観て親しんでいた自分にとっては、少し違和感が残る夜でした。これは6月のマッツ・エック版のジゼルを観た時にも感じたことですが、評価が確立した古典作品をあれこれいじる意味というのがよく理解できなかったんです。ポップス音楽でもリミックスとか、大胆なカバーバージョンが話題になったりしますが、20代の自分には、そういった再構成、再構築で生み出される新しい世界観の楽しみというのが、ちょっとピンと来ないような感じでした。
でもこのノイマイヤー版の「くるみ割り人形」は、2回目、3回目と回を重ねるごとにどんどん感動が高まっていって、結局は大感動…一回目で理解できないオレってなんて間抜けなんだろう…ということになりました(笑)
検索していて、この論文を見つけて参考にさせていただきました。早稲田大学の方かな?ノイマイヤーの舞台についてとても詳しく論じています。こんな風に舞踏を研究対象に出来るのは幸せですね~。