パターナルに配慮した昔話『すもももももももも太郎』
はじめに
パターナルとは。
「相手の気持ちを考えずに、自分勝手に良かれと思って、自分の考えを押しつけること」
はじまり、はじまり。
むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが暮らしておりました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川の向こうから、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃…いや、スモモ?
なんにせよ、ももっぽい何かが流れてきました。
おばあさんはたいそう驚きましたが、慌てて桃…いや、スモモ?
なんにせよ、ももっぽい何かを川から引き揚げると、家に待って帰って、おじいさんの帰りを待つことにしました。
おじいさんは帰ってくるなり、大きな桃…いや、スモモ?
なんにせよ、ももっぽい何かを見て腰を抜かすほど驚きました。
でも実際は腰を抜かさなかったので、早速その大きな桃…いや、スモモ?
なんにせよ、ももっぽい何かを鉈で叩き割り、2人で食べることにします。
しかし、大きな桃…いや、スモモ?
なんにせよ、ももっぽい何かが割れると、中から赤ん坊が出てきたのです。
おばあさんは言いました。
「あらまぁ、これは可愛い赤ちゃん。 おじいさん、大きな桃…いや、スモモ? なんにせよ、ももっぽい何かから、赤ちゃんが出てきましたよ」
「おお、これはこれは。 まさか大きな桃…いや、スモモ? なんにせよ、ももっぽい何かから赤ちゃんが出てくるなんて。 よーし、この子は桃から生まれた桃太郎と名付けよう」
「それはとってもパターナルな考え方ですよ、おじいさん。 桃かスモモかわからない内から決めつけては、この赤ちゃんが可哀想です」
「うーん、そうだなぁ。 じゃあすもももももももも太郎と名付けようか」
「あら、素敵ですね。 よちよち赤ちゃん。 今日からあなたはすもももももももも太郎ですよ」
こうして二人のもとに迎えられたすもももももももも太郎は、とても大切に育てられ、やがて立派な青年に成長します。
その頃、都では鬼が暴れ、人々を苦しめていました。
強くなれる理由を知ったすもももももももも太郎は、おじいさんとおばあさんに鬼を倒すという強い決意を告げて、旅に出ることにします。
「すもももももももも太郎。 旅に行くなら、この団子をお持ちなさい」
「ありがとう、おばあさん。 これは?」
「きび団子ですよ。 お腹が空いたら食べなさいね」
「ありがとうございます。 それでは、行って参ります」
「すもももももももも太郎や」
「はい、なんでしょうおじいさん」
「この刀を持っていきなさい。 では、気をつけて行くんじゃぞ」
「はい、ありがとうございます。 では、お二人もどうかお元気で」
「ああ、すもももももももも太郎、どうか無事に帰ってくださいね」
「すもももももももも太郎、頑張るんじゃぞ」
こうして、すもももももももも太郎の旅が始まりました。
すもももももももも太郎が道を歩いていると、どこからともなく犬が現れて、きび団子を羨ましそうに見つめてきました。
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん。 お腰につけたきび団子、ひとつ私にくださいな」
「あげましょう、あげましょう。 これから鬼の征伐に、ついてくるならあげましょう」
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん。 それってとってもパターナルじゃありませんか?」
「そうかもしれない。 じゃあ、見返りはいらないけど、あげましょう」
こうしてすもももももももも太郎は犬にきび団子を施して、一人で先に進みました。
すもももももももも太郎が林を歩いていると、どこからともなく猿が現れて、きび団子を羨ましそうに見つめてきました。
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん。 お腰につけたきび団子、ひとつ私にくださいな」
「あげましょう、あげましょう。 ひとつだけなら、あげましょう」
「行きましょう、行きましょう。 お礼に鬼の征伐に、何処へなりとも行きましょう」
「それってとってもパターナルじゃないですか? 私は見返りが欲しくてきび団子をあげた訳じゃありませんよ」
「わかりました、ごめんなさい」
こうしてすもももももももも太郎は、猿にきび団子を施して、一人で先に進みました。
道中、減ったきび団子をまじまじと見つめたすもももももももも太郎は、少し後悔しながら山に入ります。
すもももももももも太郎が山を歩いていると、どこからともなく雉が現れて、きび団子を羨ましそうに見つめてきました。
そこで何かを察したすもももももももも太郎は、慌てて自分から話しかけます。
「雉さん、雉さん、ちょっといいですか」
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん」
「いえ、あなたの話の前に、私に話をさせてください。 まず、出会ったばかりの私に、突然きび団子を要求しないでください。 それはとってもパターナルです」
「では、私は行きます」
「いえ、あげないとは言っていないんです。 実はこのきび団子は、鬼退治の道中、私がお腹を空かせて困らないようにと、おじいさんとおばあさんが持たせてくれたものなんです」
「そうですか。 では、ひとついただけたら、お礼にその鬼退治に着いていきましょう」
「いえ、迂闊にそんな事を言って、後で説明不足だ、パターナルだと言われてはかないません。 鬼退治は命がけです。 本当に、きび団子ひとつのために、それをしてくれますか?」
「それは嫌かもしれません」
「でしょうね。 でも困っているようなので、きび団子はひとつあげます」
「ありがとう、ありがとう。 すもももももももも太郎さん、ありがとう」
こうしてすもももももももも太郎は、雉にきび団子を施して、一人で先に進みました。
すもももももももも太郎はやっぱり後悔しながらも、一人ぼっちで船を借りて、鬼ヶ島を目指します。
お腹がすきましたが、船を漕ぐのを代わってくれる仲間はおらず、残りのきび団子も少ないので、すもももももももも太郎は困ってしまいました。
ひとりぼっちの船旅が続くと、すもももももももも太郎の気持ちはだんだんと暗くなってしまいます。
「人々のために旅に出たのに、誰かが助けてくれるどころか、色んな動物にただただきび団子を持っていかれて、辛く厳しい状況になってしまった。 そもそもこの旅自体が、私のパターナルだったんだ。 もう帰りたい」
すもももももももも太郎がひどく落ち込んでいると、どこからともなく自分の事を呼ぶ声がしました。
声のするほうを見てみると、空では雉が翼をはためかせ、その後ろを、猿の漕ぐ船に乗った犬が続いています。
犬は言いました。
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん。 あれから少し考えたのですが、私の態度もとってもパターナルだった気がします。 きび団子のお礼に、できる限り、鬼退治のお手伝いをしようかと思います。 途中で逃げても許してくださいね」
猿も言います。
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん。 あれから少し考えたのですが、あなたの態度もとってもパターナルだった気がします。 やっぱり私は、きび団子のお礼に、鬼退治のお手伝いをさせて欲しいです。 あなたの優しさに、どうしてもお礼がしたいのです」
雉も言います。
「すもももももももも太郎さん、すもももももももも太郎さん。 あれから少し考えたのですが、いくら釣り合わないからと言って、なんのお礼もさせてくれないのは、とってもパターナルだと思います。 お礼の方法を悩んでいたところ、あなたを追う2人を見つけたので、一緒に鬼退治のお手伝いをさせて欲しいです。 4人で行けば、きっと命がけでもなくなる筈でしょう」
桃太郎は嬉しくて、思わず涙を浮かべていました。
「これこそ対話、これこそ脱パターナル。 ありがとう、ありがとう。 これから鬼の征伐に、みんなで一緒に行きましょう」
こうして互いの意見を交換し、しっかりと考えのすり合わせをした種族も考えも違う4人は、やがて鬼ヶ島へと到着しました。
雉が空から鬼達の様子を伺うと、どうやら略奪したお宝やご馳走に囲まれて、賑やかな宴を開いているようでした。
犬が言います。
「よし、私が飛び込んで、鬼達に噛みついて回りましょう」
猿が言います。
「では、私がそれに続いて、鬼達を引っ掻いて回りましょう」
雉が言いかけますが、すもももももももも太郎が慌てて遮ります。
「待ってください、それはとってもパターナルです」
雉も言います。
「私も同じことを考えていました。 少し鬼ヶ島を見て回ったのですが、この島には畑や家畜が見当たりません。 もしかしたら、食べるものに困って略奪を繰り返しているのかもしれません」
「なるほど。 それでは、まず彼らと対話を試みて、事情を聞いてみましょう」
すもももももももも太郎はたった一人で鬼達の宴に飛び込むと、大きな声でこう言いました。
「やあやあやあ。 私の名前はすもももももももも太郎。 パターナルを避ける為、こんな名前になっているくらい、パターナルを嫌う男」
鬼達は驚いて、口々にこう返します。
「なんだお前は」
「何をしにきた」
「ここは鬼ヶ島だぞ、人間の来るところじゃない」
すもももももももも太郎は、少しムッとして、言葉を返しました。
「なんだお前はじゃあないですよ。 今名乗ったのですから、あなたも名乗ってください」
「あいや、これは失礼。 私達は鬼です」
「あらためまして、宴の最中に突然失礼しました。 私はすもももももももも太郎です。 あなた達は、何故都で暴れて、略奪をしたのでしょうか?」
「食べるものが無いからです。 財宝は綺麗で、ついでに持っていこうと思い立ったので、一緒に貰ってきてしまいました」
「それはとってもパターナルですね。 いけません、返しに行きましょう」
「それだと、私たち鬼は食べるものが無くなって、すぐに餓え死にしてしまいます」
「わかっています、わかっています。 ですから、奪ったものを返して、しっかりと謝ったら、おじいさんとおばあさんに事情を説明して、私と共に暮らしましょう」
「私たち鬼は恐ろしい見た目なので、人間とは一緒に暮らせません」
「それはとってもパターナルですね。 人間は色々な生き物と暮らしています。 鬼だってきっと大丈夫でしょう」
すもももももももも太郎がそう言うと、犬、猿、雉も宴に飛び込んできました。
「彼らは私の仲間ですが、人間ではありません。 だから大丈夫です」
「けれど、私たち鬼は人間を傷つけ、色々な物を奪ってしまいました。 許してもらえないかもしれません」
「それはとってもパターナルですね。 なら、どうせ持って帰るまでに腐ってしまう食べものは、ここで私も貰いましょう。 これで私もあなた達の仲間です。 私があなた達と一緒に謝れば、きっと話を聞いてもらえると思います」
こうして、都に持って帰ることが難しい食べ物でささやかな宴が続き、鬼達を仲間に迎えたすもももももももも太郎一行は、都に財宝を持って行きました。
そのあとも一悶着あったものの、みんながパターナルに配慮したおかげで、全て丸く収まりました。
その後、鬼達はおじいさんとおばあさん、それからすもももももももも太郎と一緒に、山で芝刈をしたり、川で洗濯をしたりして、のんびり暮らしましたとさ。
パターナルに配慮した昔話『すもももももももも太郎』
めでたしめでたし。
あとがき
すもももももももも太郎という響きがどうしても書きたくて、ササッと書き上げてしまいました。
何故すもももももももも太郎なのか?と考えた時に、私自身、ちょうどパターナルのことで頭がいっぱいだったので、せっかくなら読んだ人が何かを考えるきっかけになればと思い、パターナルを絡ませることにしました。
声に出して読むと、少し違う面白さがあるかもしれません。
実際に読んでみるまでいまいち面白さがわからなかったのですが、妻は名付けの経緯で小さく吹き出していました。
気が向いたら試してみてください。
ちなみにスキがいくつかついて気分が乗ったら、別の昔話でも書いてみたいと考えています。
コメントで気軽にリクエストなどいただけたら、参考にさせていただくかもしれません。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。