演奏のうちに響くアバドの優しさ

 クラウディオ・アバドが亡くなった。私たちはこの悲しい知らせを受け取る前に、もうひとつ残念なニュースを耳にしていた。2013年、東日本大震災の被災地復興を支援する音楽祭「アーク・ノヴァ松島」が催された。アバドは賛同者のひとりだったが、体調を崩し来日できなかった。多くのファンはそのことをとても残念がった。それと同時に、地震と火山の国でもあるイタリアに生まれたアバドが、日本の災厄に心を痛め、その思いを音楽祭として示してくれたことに感謝した。
 思えばアバドは、つねに若さや弱さ、傷や繊細さに心を寄せる音楽家だった。

ここから先は

710字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?