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傘を窄めて(第37回村上鬼城賞出品作)/押見げばげば


御降のにほふ茶会となりにけり
剪定の空はおほきく暮れゆけり
さへづりや絵筆立てたるスウプ缶
オルガンのペダルの遊びあたたかし
春の日や百科事典の「ン」のページ
映写機の落とすわが影六月来
梅雨の蝶四人で運ぶ車椅子
コンパスの傾ぎて回る白夜かな
時の日のカッターの刃を切り折りぬ
少年にうみべのにほひラムネ玉
交番の麦茶は薄し海の駅
花茣蓙の蹠は息をしてをりぬ
折鶴へすこやかな息夏つばき
仕立て屋に風のにほひや夏夕べ
ゆく夏やポストの底の不在票
はつ秋や雲のかたちの貝釦
ほほづきの色づきて喪の明けにけり
かなかなや母はさくりと酢飯切る
月を待つ子に湯上がりのにほひかな
声帯はとびらのかたち小鳥来る
夕月や埴輪に心ありぬべし
耳打ちの母に朱欒のにほひかな
おだやかに曲がる柩車よ秋の雲
火恋し傘を窄めてすれ違ふ
秋の雪問診票に小さき嘘
結願の千のきざはし花八ツ手
茶の花や明日の母に選ぶ服
悴むや絵本の国は遠かりき
図鑑より出られぬけもの山眠る
シーソーの影もシーソー日脚伸ぶ



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