げばげば

俳句集団いつき組 21年星の俳句探検隊 2021年から俳句をはじめました。

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俳句集団いつき組 21年星の俳句探検隊 2021年から俳句をはじめました。

最近の記事

箱仕舞ふ(第3回鈴木六林男賞出品作品)

木製のタイムマシンよきんろばい いそぎんちやく前世のぼくとすれ違ふ 黒板は深海のいろ遅ざくら 風信子マークシートにCつづく 定期券入れの避妊具リラの雨 ヘルペスに熱ありひとつばたご降る 嗚呼通信速度制限ねぢりばな くちなしの情死情死と雨こぼす 姫沙羅の灯りて異類婚姻譚 花ユッカ鸚哥の墓となる凹み けだものになりかけてゐるやまついも 空つぽのカプセルぐすりカンナ佇つ マッチングアプリ檸檬のひとと逢ふ にんげんに幾万の穴梅もどき 嫉心のかたちに石榴裂けにけり 今世とは味無きガ

    • 同時に句集を読む会①芝不器男『不器男句集』

      俳壇に彗星のごとく現れて26歳の若さで亡くなった俳人、芝不器男。論語「君子不器」(君子ハ器ナラズ=人間は一つの器にとどまらないで、全人的完成をめざすべきであるの意)という名のごとくひとつのカタチに収まらない熱情の俳人であるように思う。 「おれはこれがおれの道だと思ふ。愚鈍者の聚合せる俳壇なんといふものにまぜつかへされてたまるものか。この句を落す選者の不明を顧みる勿れ。おれがおれの信ずる通りにすゝめばいい」(「偶感」より) おれの道を貫きたいという不器男にとって26年は長か

      • からつぽの鳥籠(第14回百年俳句賞出品作)/押見げばげば

        まどかなる橋は鳥の名初山河 福水や木仏に木のたなごころ 人の日の人のこひしきひと日かな うすらひは音叉のやうに鳴り初めぬ 杣人の手に早春のにほひかな 忘れ物市より蝶の飛び立ちぬ 猫の子やビッグイシューを売る足に 雲梯はペンキ塗りたて燕来る 囀のたとへば試し書くるるる 石鹸玉コピペばかりのひと日かな 雛の日や喘息薬のうすピンク 春昼やクレーンに吊る洗濯機 あたたかや一円玉に葉は八つ 受験期や吊革はみな同じ向き 春の雷コンビニのドア開くたび 亀鳴くや返してすぐに借りる図書 羊には

        • 傘を窄めて(第37回村上鬼城賞出品作)/押見げばげば

          御降のにほふ茶会となりにけり 剪定の空はおほきく暮れゆけり さへづりや絵筆立てたるスウプ缶 オルガンのペダルの遊びあたたかし 春の日や百科事典の「ン」のページ 映写機の落とすわが影六月来 梅雨の蝶四人で運ぶ車椅子 コンパスの傾ぎて回る白夜かな 時の日のカッターの刃を切り折りぬ 少年にうみべのにほひラムネ玉 交番の麦茶は薄し海の駅 花茣蓙の蹠は息をしてをりぬ 折鶴へすこやかな息夏つばき 仕立て屋に風のにほひや夏夕べ ゆく夏やポストの底の不在票 はつ秋や雲のかたちの貝釦 ほほづき

          げばげば俳句鑑賞日記その30

          無花果や空の全き青痛し木ぼこやしき『伊月庵通信2023秋号秀作』 二年休学して、三回生で大学に復帰したが、そこからすぐに就職活動が始まった。同級の仲間はちょうど卒業してしまったので、ひとりぼっちの就活だった。 就活はかなり大変な思いをした。なにしろ広場恐怖がまだ色濃い時期である。グループ面接やワークショップなどもかなりハードルが高い。電車に乗って東京など遠くの会場に行くわけにもいかない。 映画配給会社に興味はあった。エントリーから面接まで良いところまで行ったが、営業など

          げばげば俳句鑑賞日記その30

          げばげば俳句鑑賞日記その29

          子猫洗ふ尻尾の雫絞りつつ対中いずみ『句集 水瓶』(ふらんす堂) 「マクドのダブルチーズバーガーが食べたい」 奥さんが初めての手術を終えた日だった。「すぐ持っていくわな」車のダッシュボードに載せたマクドのスマイルマークの袋の写真を撮ってLINEを返した。 奥さんは視野が欠けていく病気。目薬で進行を抑えつつ来たが、手術で進行を止めないかと言われて決心をしたようだった。 「着物着るときは眼鏡したくないねんなあ」手術をするとコンタクトレンズをつけられないので、そこも気にしてい

          げばげば俳句鑑賞日記その29

          げばげば俳句鑑賞日記その28

          露の夜や星を結べば鳥けもの鷹羽狩行『句集 山河』(ふらんす堂) 大学時代ピザ屋のデリバリーでバイトをしていた。バイクが好きなこともあるし、ひとつの場所にずっと居なくても配達に行けばひとりの時間であるというのは、広場恐怖の名残があるわたしにはありがたいバイトだった。 神戸のピザデリバリーはスリリングだった。富裕層からアパートからいろんな部屋へ行くので、人間観察には事欠かなかった。 また、〇〇組の本部に定期的にデリバリーがあった。わたしも何度も行ったことがある。初めてのとき

          げばげば俳句鑑賞日記その28

          げばげば俳句鑑賞日記その27

          痛くありませんか溶けゆく春の雪箱森裕美『句集 鳥と刺繍』(箱森俳句店) コロナ禍ではよく講師の代講があった。誰かがダウンしたら休日の講師が代わりに授業に行く。普段教えていない教室、生徒というだけで勝手がちがい、結構緊張感がある。 先日代講に言って問題を解いていたら、早く解き終わった男子生徒が何かもじもじしているので、「お手洗いか?いつでもいきや」と言うと、生徒が「この問題終わったら先生のことを質問するタイムくれませんか?はじめて来た先生にはいつも質問タイムもらうんです」と

          げばげば俳句鑑賞日記その27

          げばげば俳句鑑賞日記その26

          青年に父は残花の如きもの来地宇須 『NHK俳句 24年3月特選』 先日、父が架空請求詐欺にあった。ネットサーフィン中に大音量、画面に表示された電話番号に掛けてしてしまったらしい。今から遠隔で修復するからお金を入れてほしいとプリペイドカードを何度か買い、十万円をこえるくらいで我に返ったそうだ。 母から夜中に電話があり、何事か!と飛び上がったら、そういう事情だと母が困惑していたので、「それは詐欺だよ、消費者センターには相談しておこう」と話した。 電話を切っていろいろ考えたが

          げばげば俳句鑑賞日記その26

          げばげば俳句鑑賞日記その25

          来客のポインセチアに触れて去る松本てふこ『句集 汗の果実』(邑書林) マイホームを建てたのは六年ほど前。 奥さんの実家から2分のところに土地が空いたので、とんとんと話が進んだ。土地と建物は別で、建物は設計からやってくれるハウスメーカーを探すことにした。 予算内で考えて最初に見つかったメーカー。地元でも道々に原色の看板が目立つ。安さが売りの新進のメーカーだった。ここなら予算内に楽勝で入る。 嬉々として奥さんと話を聞きに行った。オシャレな店構えだ。店の各所に観葉植物がこれ

          げばげば俳句鑑賞日記その25

          げばげば俳句鑑賞日記その24

          帰り花鶴折るうちに折り殺す赤尾兜子『句集 歳華集』(角川書店) 同期入社に大切な同僚がいた。私より三つ下だが、人間らしくもあり、思慮深い尊敬できる同期だ。 入社したてのころは、よく仕事終わりにどちらかの校舎に行き、授業を見せ合った。切磋琢磨というのもあるが、一緒にいるのが楽しかった。 上司から管理職の合格のときに高級寿司に連れていってもらったときのことも印象的だ。わたしはバイオリズムが合わないと食欲が激減して何も食べたくなくなることもあるのだが、上司がトイレに行っている

          げばげば俳句鑑賞日記その24

          げばげば俳句鑑賞日記その23

          子のまなこ青くぬれたる蟻地獄橋本小たか『句集 鋏』(青磁社) 大学を休学して二年。神戸北野のアパレル路面店でショップ店員をやりながら、映画監督を目指してあくせくしていた。 脚本は一本書くのに最低一ヶ月は要する。そこから劇団の役者にこの役で映像に出てほしいとお願いしに行く。お互いの上演でチラシ告知ができるので、ウィンウィンなところもあり、たくさんの方に出演してもらった。 当時の同世代や少し上の世代は才能のかたまりだった。大阪芸大には、今や日本映画を牽引する山下敦弘監督や大

          げばげば俳句鑑賞日記その23

          げばげば俳句鑑賞日記その22

          小鳥またくぐるこの世のほかの門田中裕明 『句集 櫻姫譚』(ふらんす堂) 散歩コースに消防署がある。ゆるゆると畦道を歩いていると、つんざく音が鳴り、署内に入電がアナウンスされるのが聞こえる。その音にはいつもザワザワさせられる。どこかで火事か、はたまた誰かが倒れたのか。 消防署の裏を歩くと、精悍な青年が懸垂をしたりダッシュをしたり訓練をしているのが見える。 数年前、生徒を送り出して夜の塾の駐輪場にいると、一台の消防車が停まった。何事か?と思うと、助手席の青年が「先生!」と呼

          げばげば俳句鑑賞日記その22

          げばげば俳句鑑賞日記その21

          立春の風に嘴ありにけり小林貴子 『句集 黄金分割』(朔出版) 父は昔ながらのひとで、不器用ながら亭主関白だった。母は大阪のオバチャン気質ではあるが、父より三歩下がり父を立てた。 わたしが母に何かお願いごとをしても、「お父さんに聞いてみなさい」と必ず言われたし、父が、自分の方が台所に近いのに母に「お茶ちょうだい」と言うのも、わたしには腑に落ちない世界で気に入らなかった。 母は小さいときに猫を亡くしてから動物を飼わないようになっていたが、あるきっかけから文鳥を飼い始めた。名

          げばげば俳句鑑賞日記その21

          げばげば俳句鑑賞日記その20

          セーターなんか着てロックやめたんか七瀬ゆきこ 『俳句ポスト365 23年11月秀作』 大学時代、バンドマンとしてメジャーデビューを目指している友人がいた。オルタナティブロック系の曲を書く詩人でありベースボーカルという、なかなか難しいことをやっていた。 わたしは当時映画監督を目指していたので、よく書いたものを見せ合っていた。彼の作品が彼らしくて好きだったが、自分をこう魅せたいという狙いが見え隠れしているのが気になっていた。 彼は破滅型で、夜中に電話がかかってきては、恋人の

          げばげば俳句鑑賞日記その20

          げばげば俳句鑑賞日記その19

          守り神は恐竜メダル帰国少年伊丹公子『句集 山珊瑚』(春陽堂書店) 人間は準備型とライブ型に分かれるように思う。 仕事がら保護者を前に1時間トークする会を開催することも多い。 保護者には受験が初めての方もいれば、兄弟が何人も受験を済ませている場合もある。入試制度や仕組みの説明もしたいが、ベテラン保護者はそれでは飽き飽きする。 ベテラン保護者はだいたい一番前の席に陣取るが関心のない話のときは資料を見始める。ここで勝負だ。ベテラン保護者が1時間のうち、どれだけわたしの顔を見て

          げばげば俳句鑑賞日記その19