スタイリッシュ歯磨き | 虚構OLエッセイ(2)
寝る前の歯磨きほど、無防備な自分を見ることないわよね。
吉岡里帆を目指して顔に盛っていた塗装が剥げて「室内はリフォームして最新ユニットバスなんですよ~」と勧められる外観ボロボロUR団地みたいな顔面が鏡に映るのであ~る。
さっきの人に「やっぱり人も外見じゃなく、内側ですよねー」と言われたら「それ褒めてねぇよな」という意味で返す無表情っぷりでもあ~る。
化粧落として仕事の疲れマックスの顔はもうね、廃墟寸前って感じ。
でもさ実際、吉岡里帆みたいな美人ってどんな歯磨きするのかしらね。
歯磨きしながら、ふと洗面台のコップにある男性が好きそうな見た目の歯ブラシが目に入り
「週末に会えるね、それまでの辛抱だねウフフ。」
みたいなスイーツなこと考えて歯ブラシ咥えているに違いないわ。
甘いもの食べた時と甘いこと考えた時は、もうね倍磨きなさい、倍。
とか言いつつね。アタシの洗面台にも2本の歯ブラシが並んでいる。
ピンクとアオ。ウフフ。
でも彼氏はいない。
うん。フェイクブラシよ。
これ一本あるだけで、彼氏がいると錯覚して朝晩ウフフを感じられる。
たった歯ブラシ1本でQOLが向上する独身アラサー女子ライフハック!
錯覚を継続させるために、なぜ彼氏がここにいないかの設定を創るのがコツよ。時に、遠距離恋愛。時に、海外出張。時に、悪の組織に殺された。みたいな。
でさ、吉岡里帆。きっと歯の磨き方もエレガントなんだろうな。
しこたま飲んだ後、自制心が薄らぎ風呂も入らないで寝ようとするも、歯だけはなんとか磨いていたら喉の方まで突っ込んじゃって「ぼぇぇ!」と嗚咽、とかしないんだろうな。
歯磨き粉が残りわずかで、力づくでひねり出しても歯磨き粉が頭だけひょっこり出て、力抜くと引っ込むもんだから、「ふんっ!」っと勢いでひり出し、ポンっとラストの一欠片が出るも、ヌルみがある洗面台の排水口付近にペトリと着地、とかしないんだろうな。
で、接地していない上半分を歯ブラシで削ぎ取ればギリギリセーフなんじゃ…、でもうまくやらないと歯磨き粉が転がって全面汚染されるんじゃ…、とかって悩んだりしないんだろうな。
そんなピンチに、ふと悪の組織に殺された彼氏の形見である歯ブラシが目に入る。
ピコン!
左手にアタシの歯ブラシ、右手に彼の歯ブラシで、トングみたいに挟めば転がらない!!
このひらめきにより、穢れた地にある歯磨き粉の上半分を削ぎ取ることに無事成功!
きっと彼が天国から力を貸してくれたのよね。
ありがとう。キラーン☆彡(空に一筋の流れ星)
試練を乗り越え秘技「歯ブラシ二刀流」を身につけたアタシは、勢いそのまま口内という悪の組織ミュータント族の秘密基地へ乗り込む。
もうねそこからは両手に拳銃で華麗にクールに敵をなぎ倒すミラ・ジョボビッチ気分。
2本の歯ブラシで左右の奥歯を一辺にゴシゴシ!
上と下も同時にグリグリ!
両手をクロスさせてシャカシャカ!
これで終わりよっ!
グチュグチュ、ペッ。
仇をとったわ。これで安心して彼もゆっくり眠れるわね。
戦いの終わったアタシは気の抜けた無防備な顔で、洗面台のコップにピンクとブルーの歯ブラシをたむけたのであった。
~The Fin~
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