
ゲームセンター研究(産業史・店舗空間・プレイヤー文化、法規制)に関連する先行研究、参考文献リスト
文責:川﨑寧生
(一応リサーチマップのURLおいとこう)
主に自分が博論で活用した、或いは現状の研究で活用している、ゲームセンターに少しでも関わりそうな参考文献です。誰かの参考になれば幸いぐらいです。
あくまで自分が探索できた分、自分が活用できそうな分をリスト化しているので、入っていないものもあります。ご容赦ください。
あと、「開発史」や「ゲーム開発」に関わる資料は紹介していません。そこはご注意を。あくまで「産業全体の歴史」や「店舗空間関連」、「プレイヤー文化」、「法規制」などについての資料が主体です。中には開発史に関わる資料もありますが、それを想定して提示はしていないのでご容赦願えるとありがたいです。
説明については「基本的な情報」、「学術的に利用する際の要点」、「個人的な感想」などが入っております。感想周りについてはあくまで個人の感想なのでご容赦いただけるとありがたいです。
3つの区分けを行ったうえで、年代順に紹介していきます。
後日通販での商品URLなども追加していくかもです。
3に関しては同人誌などが最近かなり増加しておりますが、総数が本当に多くて把握しきれないことや、入手難易度の問題などを中心に、書誌情報を全て探索することが難しいので、一端外しております。
基本的には出版社によって商業流通されている書籍が主体です。申し訳ありませんが、ご了承ください。
────────────────────────────────────────
1.ゲームセンターを対象とした研究
守津早苗・多田道太郎・田吹日出碩・奥野卓司・常見耕平・井上章一・川浦康至,1979「資料報告 インベーダーの流行」『現代風俗‘79』現代風俗研究会,26-43.
内容:『インベーダー』流行を、流行直後に調査報告したもの。最初期の研究でありながら、テレビとビデオゲームの受容の差異などを中心に、現代に繋がる知見を提供している。同時に吉祥寺と四条河原町のゲームセンター事情をフィールド調査してくれており、資料としての価値も高い。
Loftus, Geoffrey R. and Loftus, Elizabeth F., 1983, “The Arcade Subculture” in: MIND AT PLAY THE PSYCHOLOGY OF VIDEO GAMES, New York: Basic Books Inc, 83-111. (西本武彦訳,1985,「サブカルチャーとしてのゲームセンター」『ビデオゲームの心理学 子どもの才能を伸ばすその秘密』コンパニオン出版,107-144.博士研究では邦訳版を主に参照.)
内容:1980年初頭のゲームアーケードのあり方について分析した章。この章ではGame Arcadeを1960年代のファーストフード・ドライブインにつながる「十代の若者が寄り合う場所としての役割」を持つ場所と定義し、集まる若者たちについて聞き取り調査や先行研究を用いて分析している。初期のゲームセンター研究、またプレイヤー文化の研究としても重要。
中沢新一,1988,「ゲームフリークはバグと戯れる」『雪片曲線論』中央公論社,174-197(初出:1984,『現代思想』青土社,12(6),190-203).
内容:この界隈では恐らく最も有名な学術的論稿である、日本における最初期のピンボールやアーケードビデオゲームについての内容分析、及び『ゼビウス』のゲーム内容とプレイヤーコミュニティ文化に関する分析。
どうしても古典という感覚は否めないものの、今でも非常に重要な分析であり、とりわけプレイヤーコミュニティの分析や「攻略」文化に関する分析については、現在の状況下でも参照・検討出来る内容は多い。中川大地(後述)のようなフォロワー、或いは批判的に検討している研究も少なからずあるため、そちらを参考にする際にも重要となると思われる。
中矢賢司・柏原士郎・吉村英祐・横田隆司・阪田弘一,1994,「ゲームセンターにおける群集の分布状況とその時間的変動について」『日本建築学会近畿支部研究報告集』34,589-592.
内容:建築学の観点からゲームセンターのレイアウトの防災上の現状と課題について分析したもの。遊具の安全性を含め、ゲームセンターを建築学の観点から調査分析したものはほかにも一部存在している。
杵淵智行・村瀬孝,1995,「ゲームセンター等営業をめぐる諸問題について」『警察学論集』立花書房,93-103.
内容:1990年代におけるゲーセン関連の警察側から見た調査論文。警察側の所見を見る、という意味では見ておいて損はない論文。
中村真,1996, 「ゲームセンターで遊ぶ少年の生活と意識に関する研究(1)-「テレビ」と「テレビゲーム」の影響を中心に」『日本性格心理学会大会発表論文集』3,25.
内容:ゲームセンターで遊ぶ少年たちについての意識について聞き取り調査を用いて分析したもの。実質ビデオゲームの影響を中心に書いている上に、不良とかその辺の話も絡まないので、家庭用ゲームでやっても良かったのでは…?と思う研究。
中藤保則,1997,「我が国におけるアミューズメント産業の成立と発展 : 軒先商売からゲームセンターそして都市のなかの遊園地へ」『信州短期大学研究紀要』9(1),66-76.
内容:『遊園地の文化史』のような形の歴史の整理を、アミューズメント産業全体を軽くまとめる形でおこなった研究ノート。無料でかつインターネットを介して読める業界人が学術的にまとめた初期の文献資料として素直に有用…だったのだが、今探しても本文が見つからない。どうやら佐久大学に名称変更される際にリポジトリが更新され、2000年代以前?のリポジトリが消失した模様。
Huhtamo, Erkki, 2005, "Slots of Fun, Slots of Trouble: An Archaeology of Arcade Gaming," in: Joost Raessens and Jeffrey Goldstein eds., Handbook of Computer Game Studies. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press, 3-21.(太田純貴訳,2015,「愉快なスロット、困ったスロット――アーケードゲームの考古学」『メディア考古学』NTT出版,107-146)
内容:これまで「断絶した、全く新しい娯楽文化」として考えられてきたGame Arcadeについて、それまでの「見世物」や「娯楽機器」関連の施設を含めた、社会背景との連続性について分析・考察を試みた論文。本リスト執筆者(川﨑)の博士研究があの形となるきっかけの一つであり、ゲームセンター・Game Arcade研究としてきちんとした社会背景について分析を試みた初めての分析だと思われる、重要な論文。
Eickhorst, Eric, 2006, Game Centers : A Historical and Cultural Analysis of Japan Video Amusement Establishments. University of Kansas.M.A. Thesis.
内容:江戸時代からの娯楽文化や、明治以降の機械娯楽産業を含めた形で、欧米の目線から日本のゲームセンターの特殊性について分析したもの。自分の研究の先達とも言える。結論としてはオタク文化への寛容さなど、サブカル文化との接続を主体にしているため、どちらかというと日本自体の「特殊な文化」とその許容に着目している。
比較としての欧米におけるアニメ・ゲームを触れる大人に対する日本以上の冷たい目線の存在(結果外でゲーム遊びする大人という存在が作れなかったのでは)など興味深い指摘・考察も多い。
加藤裕康,2005,「ゲームセンターにおけるコミュニケーション空間の生成」『マス・コミュニケーション研究』67(0),日本マス・コミュニケーション学会,106-122.
――,2011,『ゲームセンター文化論メディア社会のコミュニケーション』新泉社.
――,2014,「第八章 オンライン時代のゲームセンター」河島茂生編『デジタルの際』聖学院大学出版会,267-305.
――,2017,「第四章 ゲーム実況イベント-ゲームセンターにおける実況の成立を手がかりに-」飯田豊・立石祥子編『現代メディア・イベント論 パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』勁草書房,109-151.
――,2019,「第3章 ゲームセンター考現学――ゲームセンターにおける高齢者増加の言説をめぐって」松井広志・井口貴紀・大石真澄・秦美香子編『多元化するゲーム文化と社会 ゲーム文化、そしてゲーム研究の現在形』合同会社ニューゲームズオーダー, 67-89.
内容:加藤裕康によるゲームセンター関連の一連の議論。初期のものはコミュニケーション空間を中心に分析し、後期のものはそれだけではなく、ゲームセンターのあり方や、それまで主に語られてきた「高齢者が参入してきたゲームセンター」という言説への批判的検討など、様々な分析を行っている。
全体として、所謂ビデオゲームにはあまり関わっておらず、場所・空間・プレイヤー文化の議論が中心ではある。しかし、いずれもゲームセンター研究としては基本の書籍・論文といえる。というかゲームセンター研究に興味があるなら様々な形で参考になるので取り敢えず読んでおいたほうが良い。
Kocurek, Carly, A., 2015, Coin-Operated Americans: Rebooting Boyhood At The Video Game Arcade, Minnesota: University of Minnesota Press.
内容:北米におけるビデオゲームプレイヤーの男性文化化、という流れの原点を見るために、アーケードゲームやゲームセンター文化を分析する、という研究書。
ジェンダー論からの分析ではあるものの、内容は欧米のゲームセンター文化がどのように形成されたのかをしっかりと研究した書籍となっている。英語文献であるが、読んで損はないもの。特に規制関連の章(4章)はあまり外でも研究がないので重要。
Alan Mades, 2019, The American Arcade Sanitization Crusade and the Amusement Arcade Action Group. In Kristine Jorgensen, Faltin Karlsen (eds), Transgression in Games and Play, The MIT Press, No, 4722-5097(Kindle版を参照).
――, 2022, Arcade Britannia: A Social History of the British Amusement Arcade, The MIT Press.
内容:前者は北米と英国における、公共の場におけるビデオゲームの逸脱的な行為(Transgressive play)は、異なる歴史的・社会的文化によって、同じ言語圏でありながら異なるありようが現れることを分析した論文。後者は英国のAmusement Arcade文化について、歴史的に整理を行った文献。いずれも、イギリスのゲームセンター文化を知る際には非常に重要な文献。
Pelletier-Gagnon, Jérémie, 2019, “Players, Cabinets, and the Space In-Between : Case Studies of Non-Ludic Negotiation of Video Game Cabinet Spaces in Japanese Game Centers.” REPLAYING JAPAN, 1, 29–39.
Pelletier-Gagnon, Jérémie, 2024, Space and Play in Japanese Videogame Arcades, Routledge.
内容:前者は「辻商店」を対象として、ゲームセンターにおける「遊び」以外のコミュニケーションのあり方について分析したもの。海外研究者が日本のゲームセンター空間について分析した事例としてかなり良いもの。
後者は2019年の論文を含めた、ジェレミーさんの博士論文を書籍化したもの。まだちゃんと読み切れていないのでしっかり読みたい。
Dongwon Jo, 2020, "Bursting Circuit Boards": Infrastructures and Technical Practices of Copying in Early Korean Video Game Industry, Gamestudies, 20(2), https://gamestudies.org/2002/articles/jo, (邦訳,「第十七章 バースト・サーキットボード ――草創期の韓国ビデオゲーム産業における模倣のインフラストラクチャーと技術的な実践」, 楊駿驍,鄧剣,松本健太郎ら編, 2024, 『日中韓のゲーム文化論 なぜ、いま〈東アジア・ゲーム批評〉なのか』新曜社, pp.338-362)
内容:韓国のビデオゲーム産業における技術・流通史の草創期における、コピー品製作の重要性について分析された論文。韓国においていかなる形でゲーム産業が発展したのか、そしてその中での模倣技術の位置づけを示す論文として重要。
いわゆる「海賊版」というものは日本のゲーム産業側から見れば問題のある存在、かつ議論かもしれません。しかし、日本でも当然のように初期には行われそれもまた産業の発展に寄与したこと、また各国の文化的にこれらの事業が重要な位置を示したことを中心に、個人的には研究の必要性は明確にあると思っています。そういった意味でも重要な論文。
ボトス・ブノワ, 2023, 「クレーンゲームのメディア論:―近現代のアーケードゲームにおける「間メディア性」の事例研究―」,大学院文学研究科 博士論文, https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/records/2000969.
内容:ゲームセンターにおけるクレーンゲームについて、その変遷とメディア(媒介的存在)としてのありようについて、調査分析を試みた博士論文。クレーンゲームについて、歴史的変遷を含めて学術的な研究を試みた論文はこれ以外なく、非常に重要な論文。書籍化を期待したい。
川﨑寧生,2020, 「日本の「ゲームセンター」史-娯楽施設が社会に根付く過程を中心に-」,立命館大学,博士論文.
――,2022, 『日本の「ゲームセンター」史 娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ』,福村出版.(https://www.fukumura.co.jp/book/b602105.html)
内容:本リスト著者の博士論文と書籍。内容についてはブログ記事(https://vandalizer.hatenablog.jp/entry/2019/04/18/041508)を参照。ネットでは『デジタルゲーム研究』の論文はJstageで、博論は立命館リポジトリで読める。残りについては自分に連絡してもらえれば対応しますが、書籍に全部まとまっているのでそちらを読んでもらった方が早いかなとは。
2.ビデオゲーム史や関連の研究の中でゲームセンター史について記述した研究
Juul, Jesper, 2005, half-real Video Games between Real Rules and Fictional Worlds, Cambridge, Massachusetts: The MIT Press. (松永伸司訳,2016,『ハーフリアル: 虚実のあいだのビデオゲーム』ニューゲームズオーダー.)
内容:ビデオゲームに関するゲームデザイン論について、特に「ゲームのルール」と「古典的ゲームデザイン」、そして「ゲームの虚構性」に着目して分析・考察を試みた初期の研究として重要な文献。
アーケードゲームは「古典的ゲームデザイン」として「目標が設定され、最適化を主な目的としたもの」として主に書かれている。それ以外も含め、全体としてゲーム研究に関わる、或いは興味があるなら読んで損はない。
Wolf, Mark J. P., ed., 2007, The Video Game Explosion: A History from PONG to PlayStation and Beyond. Westport, Connecticut: Greenwood Press, 2007.
内容:主に技術史を焦点に当てたゲームとそれにある程度関係する事象についての歴史をまとめた学術書。マニア的には「『Phoenix: The History of the Videogame Industry』より物足りない」という意見らしいが、学術書として、かつゲームだけではない社会との関係を含めた形で整っているのはこちらなので(参考文献として使いたい側としては)一長一短。博論ではこちらをメインに利用した。
Wolf, Mark J. P., 2012, "Arcade", Mark J. P. Wolf ed., Encyclopedia of Video Games: The Culture, Technology, and Art of Gaming Vol01. Westport, Connecticut: Greenwood Press, 34-37.
内容:名前の通り、ビデオゲーム関係の用語を学術的に参照しやすくするための辞典みたいなもの。わかりやすく定義などもまとめているため、非常に使いやすい。本リスト著者の博論ではこのWolfの定義した「Game Arcade(ゲームセンター)」の定義をもとにしてゲームセンターを定義している。
Wolf, Mark J. P., ed., 2015, Video Games Around the World, Cambridge, Massachusetts: The MIT Press.
内容:世界各国のビデオゲーム産業史を大まかな形で整理した書籍。本当に世界各国の歴史を俯瞰しているため、おそらくは我々がこれから知りたい情報も地味に載っている可能性が高い。
博論では主に日米の項目を参照したが、日本の項目もゲームセンターがまだ残っていることや、ICカードを利用したゲーム環境など、割と最近の事例も書いていたりする。ただ、それでも当然不足分は多い。なんせ10Pで大まかなものを説明する形なので致し方ないところ。あくまで参考としてまず読んでみて、ここで引かれている参考文献を漁る形になりそうではある。
Harper, Todd, 2013, The Culture of Digital Fighting Games: Performance and Practice, London: Routledge.
内容:欧米を中心とした対戦格闘ゲーム文化について分析したもの。Game Arcadeからの影響についても書かれている。
上村雅之・細井浩一・中村彰憲,2013,『ファミコンとその時代』NTT出版.
内容:立命館におけるゲーム研究の第一人者たちによるファミコン前後の歴史の整理・分析・考察。ファミコンの開発過程やそれ以降の状況、またファミコン周辺の経済史、文化史にも触れて分析しており、その中には当然ゲームセンターも含まれている。ゲームセンター関係なく、ファミコン関連の歴史を知りたいのであればまず読むべきである基本といえる書籍。
木島由晶,2014,「格闘ゲームのオタク・コミュニティ 彼らは何を「競って」いるのか」宮台真司監修、辻泉・岡部大介・伊藤瑞子編『オタク的想像力のリミット』筑摩書房, 405-441.
内容:中野TRFを主な対象として、対戦格闘ゲームのコミュニティがどのように形成されているのかについて分析している。結構「店による」部分が大きいところもあるので悩ましいが、格ゲーそのもののプレイ文化全般や、格ゲーコミュニティについて焦点を当て、日本語で分析した初の事例ということで重要。
小山友介,2016,『日本デジタルゲーム産業史』人文書院(増補改訂版(2020)あり).
内容:名前の通り、日本ゲーム産業史を経済史の観点から俯瞰・分析した書籍。アーケードについても章立てて整理している。全体をざっくりと俯瞰するにも、単純に参考文献として参照するにも良い文献。第2版ではスマホゲームの隆盛も含めて、2020年頃に至る流れまで整理されている。最近英語版も出たので、国内のゲーム産業史に関する学術的書籍としては、最も読まれている書籍だと思われる。
中川大地,2016,『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』早川書房.
内容:社会思想史の観点からゲーム史全体を俯瞰したもの。一部のまとめ方などの点についてちょっと気になる点はあるものの、社会背景を踏まえた上でゲーム史全体をまともな形で学術的にここまで一気に俯瞰・分析・考察した日本語の書籍は中々ないので十二分に功績がある書籍。ゲームセンター史についても一部記載されている。
中村彰憲,2018,『中国ゲーム産業史』KADOKAWA Game Linkage.
内容:中国のゲーム産業について、20年近く追いかけた成果を調査分析・考察としてまとめたもの。単純に中国ゲーム産業のことをまとめて読んで参照する文献がないのでその意味で重要。ゲームセンター産業についても節があり、2003年のゲーム機輸出入禁令までをまとめている。
一橋大学イノベーションセンター,『RESEARCH LIBRARY』一橋大学.http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/index?cid%5b%5d=6&lid%5b%5d=51&lid%5b%5d=52&q=%2318-&s=di&ppc=20,最終確認日:2020/03/13.
鴫原盛之・生稲史彦・福田一史・清水洋,2019,「高井一美インタビュー:アーケードゲームのオペレーション、 およびレンタル業務などについての証言」一橋大学イノベーション研究センター,http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/admin/ja/pdfs/show/2369,最終確認日:2020/03/12.
内容:一橋大学における、業界において様々な影響を与えた人物たちにライフヒストリー形式でインタビュー調査を行った中の一つ。高井一美はゲームセンターでのオールドビデオゲームプレイヤーなら一度は関わってもおかしくない「高井商会」の社長であり、様々な形で業界にも影響を与えている。彼のルーツも含めゲームセンター史について重要な知見を得られるかと思われる。
他には石井ぜんじなどもインタビューを受けている。ゲーメスト関連の情報をインタビュー調査形式で見る事ができるのは中々難しいため、その点でも貴重(最近ではゲーメストチャンネルなど動画も生まれていますが、文字情報として、或いは学術機関として行われているものは中々)。
インタビューしている方もゲーセン関連は鴫原盛之(元メストライター、ゲームセンター店長。現在はゲームセンター系の記事を書きながら、DiGRA JAPANのゲームメディアSIGにてライターの教育、振興、学術に関する活動をしている)なのでしっかりした質問内容となっている点も良いところ。
永井良和,2015,『定本 風俗営業取締り: 風営法と性・ダンス・カジノを規制するこの国のありかた』河出書房.
内容:風俗営業(を中心とした社会統制)の変遷を調査分析、その上で社会において風俗営業の社会統制がおこなわれる要因と背景を考察したもの。これまで社交ダンスの歴史を既に分析・考察してきた方が社会史の観点から江戸時代から続く日本の社会統制史について精緻に整理した上で分析・考察しているのでその点でも読む価値は高い。
ゲームセンターについては少しだけ書かれているのみだが、いわゆる「ゲーセン側」でない人たちからの調査分析・考察という意味でも重要。
吉田寛,2018,「ギャンブルに賭けられるものは何か―ゲーム研究からの考察」日本記号学会編『賭博の記号論—賭ける・読む・考える』新曜社,79-96.
内容:「ビデオゲームはギャンブルなのか」、「ビデオゲームがギャンブルと異なる点はなにか」、という疑問について、そもそものゲーム(デジタル・非デジタル含む)の定義や文化的・社会的観点からの比較分析を通じ、最終的に「ギャンブルとビデオゲームの差異はそう大きくはないこと」、その上で「ビデオゲームも何かしら無形のもの(誇りや様々なもの)を賭けている」のではないか、ということを考察している。
賭博とゲームの関係を再考する際におおいに参考になると思われるだけでなく、Juulの定義などを踏まえて、ビデオゲームのゲームの種類についての定義なども紹介、分析の焦点にあてており、そういったゲームのあり方について考えるときにも良い論稿。ゲームセンターとの関わりは、賭博とゲームとの関係性そのものが風営法を絡めてゲーセンと関わるのでその辺。
吉田寛,2019,「コラム ゲーム研究をめぐる困難」松井広志・井口貴紀・大石真澄・秦美香子編『多元化するゲーム文化と社会』ニューゲームズオーダー,343-346.
内容:吉田先生がゲーム研究を行う際に現在起きている問題を軽くまとめたコラム。軽くとはいいながらも結構クリティカルな指摘を行っており、とりわけ「自分史」を前提として考えがちである点については、ゲーム研究・特にゲームプレイヤー文化研究において様々なあり方との比較が必要であることを考えさせられる。掲載されている本自体もゲームを人文学に関わる様々な視点・分野から調査分析しており、そういう意味でもおすすめ。
吉田寛, 2023, 『デジタルゲーム研究』 , 東京大学出版会
内容:前述の論を含めた、吉田先生の16年近いデジタルゲーム研究に関する論をまとめたもの。デジタルゲーム全般、eスポーツのような社会的事象も含め分析対象となっている。ゲーム研究をこれから行いたいという人にもおすすめ。
3.業界人やジャーナリストによるゲームセンターについての歴史叙述
中藤保則,1984,『遊園地の文化史』自由現代社.(当時は『月刊アミューズメント産業』編集であったのでこちらに記載)
内容:遊園地の歴史について、大量の文献資料とインタビュー調査によって整理した書籍。当時を生きた人たちがギリギリ生きていた時期に聞き取りを出来たという非常に貴重な書籍で、遠藤嘉一のように、屋上遊園地、ひいてはゲームセンター業界の立ち上げに関わった人も1章をもうけている。
鈴木久司,1989,「ゲームセンターはハイテク・エンタテイメントを目指す」『日本機械学會誌』92(851),943-946.
内容:セガの主要人物の一人である鈴木久司(鈴木祐の上司。彼らの企画に最終的にGOを出したのは彼)自身によるセガの歴史と今後の展望を書いたエッセイ。
田尻智,2002,『パックランドでつかまえて-テレビゲームの青春物語』エンターブレイン(初版: JICC出版局,1990).
内容:田尻の個人的記憶を主体としたゲームセンターの回顧録。当時のゲームプレイのあり方の一端を(読み物として劇的な書き方をしているが)示している。エンターブレイン版では中沢のゼビウスの論稿も掲載。
株式会社タイトー社史編集委員会,1993,『遊びづくり四十年のあゆみ』タイトー.
内容:タイトーの社史。それ以上でもそれ以下でもないが、タイトーがどのように歩んできたのか、という事項はそれだけでゲームセンター史全体に関わるものであるため、出来れば手に取っておきたい本。…なのだが、市場でもまーほぼほぼ絶滅しているため難しい所。国会図書館にもないので今収集するのはかなり厳しい。
相田洋・大墻敦,1997,『NHKスペシャル「新・電子立国」第4巻-ビデオゲーム巨富の攻防』日本放送出版協会.
内容:1997年までのビデオゲーム開発や流行の経緯について取材を中心に整理した本。ゲームセンターに関連するものでは『インベーダー』の西角知宏やカプコンの辻本憲三、アタリのノーラン・ブッシュネルなどへのインタビューが主なものといえる。西角については後に独自のインタビュー本(後述)が生まれたが、それでもこの文献しか載っていない情報もちらほらある(逆に言えば相互の確認が必要でもある)。
真鍋勝紀,1998,『これからますます四次元ゲーム産業が面白い』かんき出版.
内容:メダルゲーム産業の創始者ともいえる真鍋の自伝とも言える書籍。単純にメダルゲーム誕生、流行の経緯を見るだけでなく、当時のゲーム産業のあり方を(株)シグマ社長の真鍋がどのように見ていたのか、ということを考える上でも貴重な書籍。
Kent, Steven L, 2001, The Ultimate History of Video Games: The Story behind the Craze That Touched Our Lives and Changed the World, Roseville, CA: Prima Publishing.
内容:欧米+日本のビデオゲーム史について、インタビュー調査を中心にして大まかにかきあげた初の文献。欧米についてはしっかりまとめられているものの、日本のことについては怪しい部分も結構ある。ただ欧米について書かれてる内容、及び「初めてのゲーム史の体系的な整理」という功績自体が重要な文献なので、軽く読むのはありかと。
岩谷徹, 2005, 『パックマンのゲーム学入門』, エンターブレイン.(もう今では大学人だが本書の立ち位置的にはこちら)
内容:自身の開発経験を含めた、ゲーム開発に関わる講義本。ゲームセンター史としては当時の自身の経験が書かれている。
赤木真澄,2005,『それは「ポン」からはじまった』アミューズメント通信社.
内容:後述する『ゲームマシン』の編集長であった赤木真澄が、『ゲームマシン』の休刊を契機として、ゲームセンター企業・アーケードビデオゲーム・ゲームの法的規制と著作権関連について整理した本。
非常に精緻に、かつ「参考文献として使えるように」整理しており、ゲームセンター史に関する参考文献という枠組みでは取り敢えず挙がる作品。ただし、これ以降の書籍もそうだが、基本的に業界人による回顧録は基本ゲームセンター産業を擁護する立場なので、注意してみる必要がある。特に赤木は法的規制については「憲法違反である」というレベルまで敵視して見ている点には注意。あとメダルゲームも「賭博に近いもの」としてあまり良くみていないのか、ほぼ言及がない点も注意。
――,2006,『アーケードTVゲームリスト国内・海外編(1971-2005)』アミューズメント通信社.
内容:赤木が「究極ビデオゲームリスト」を参考にしつつ、『ゲームマシン』のデータを入れ込んでいったもの。取り敢えずゲームタイトルとか企業とか発売日に関しては「これを参照にしました」でまず問題ないはず。
鴫原盛之,『ゲーム職人 第一章』マイクロマガジン社,2007.
内容:ゲーム関係者へのインタビューを、主に『ゲーメスト』のライターや、ゲーセン店長などとして、業界人として若い頃から関わってきた鴫原がおこなっていったもの。ゲームセンター関係者へのインタビューもあり。
鴫原盛之,2010,「アーケードゲーム業界の歴史と現況」デジタルゲームの教科書制作委員会『デジタルゲームの教科書』ソフトバンククリエイティブ,267-288.
内容:ゲームセンターに関連する基本情報を整理した章。この本自体も2010年時点のゲーム関連の状況を把握するのに役立つ。自分は主に専門用語の参考として利用した(とりわけ「汎用型筐体」の説明をしているのはありがたい) 。
Donovan, Tristan, 2010, Replay: The History of Video Games.Yellow Ant Media Ltd.
内容:欧米・日本についてのビデオゲーム史を様々な文献資料やインタビューによって整理したもの。かなり細かく、かつ米国以外の欧州の各国についての情報も載っているため、確認して損はない。ゲームセンターについても色々と載っており、アタリショック時のゲームセンターについての話も一部記載されている。
さやわか,2012,『僕たちのゲーム史』星海社.
内容:芸術史・や哲学・社会との関係性を少し含める形でゲーム史を整理した文献。ゲームセンターは章を設けており、主に対戦・家庭用との比較などを通じ、「ゲームセンターは衰退しつつあるものの、そもそも残っている事自体が他国と比べても貴重なのではないか」と恐らく初めて提言した文献。
岸昭仁,2015,『日本懐かし10円ゲーム大全』辰巳出版.
内容:名前の通り10円ゲームについてまとめたカタログ的な書籍。後半に現在も残っている駄菓子屋や10円ゲームの修理業者・リース業者へのインタビューを行っている。基本的には当事者の一次資料なので、文献資料として活用。
石井ぜんじ,2017,『ゲームセンタークロニクル』スタンダーズ.
内容:石井ぜんじが自らの『ゲーメスト』編集長であった経験を含める形でゲームセンター、及びアーケードゲーム史について記述した回顧録。同じく当事者による一次資料であるため、他の資料と併用して文献資料として活用。
Gorges, Florent,2018,『スペースインベーダーを創った男 西角友宏に聞く』徳間書店.
内容:『スペースインベーダー』(タイトー,1978)開発者である西角友宏へのライフヒストリー形式の詳細なインタビュー本。諸事情で絶版になってしまったが有用なので可能であれば読んでみてほしい。フロレントは他にも様々なインタビュー本を出しており、どれも良い出来なので出来れば読みたいところ(ただしモノによっては仏語版しかない場合も。画像の著作権の問題がね…。)
アミューズメント通信社,2019,「ゲームマシンアーカイブ」,アミューズメント通信社,https://onitama.tv/gamemachine/archive.html,最終確認日:2020/03/17.
内容:赤木が編集長をしていた『ゲームマシン』をおにたまさんが中心となって電子アーカイブ資料として残したもの。2001年まで全て載せているので、取り敢えず気になるニュースがあればこれを確認してみるのも良いかも。他にも『AM産業』が国会図書館で1986~2001年まで電子アーカイブされているため、業界雑誌のデータが見たい場合はこれらを参考にしよう。
ゲーム文化保存研究所, 2023, 『ALL ABOUT DATA EAST データイーストのすべて』 電波新聞社.
内容:データイーストの歴史について、特に産業面の変化と、重役を中心とした経営面、開発スタッフの技術面の全体の変遷について、ライフヒストリー形式でインタビューを行い、編纂された書籍。
当時を知る人へのインタビュー書籍としては一級品であり、特に「開発史」ではなく、「ゲームセンター産業全体の歴史」での、データイーストの企業としての関わりについて社長自身が当時について一意見を発信している点は研究者としては非常にありがたい。
「ALL Aboutらしくない、攻略本でない」という点から評価を低くとっている方もおり、そこは正直仕方ないが、個人的には刊行してくだすってありがとう…となる本。
4.その他、ゲームセンターに関わる文章や書籍
「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」『e-gov 法令検索』, https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000122, 最終確認日: 2024/12/05.
内容:日本でゲームセンターの全国的な法規制を適用している法律。このほか、地域的には各種「風営法施行条例」が主にその役割の詳細を担う。当然ながらゲームセンター史に多大な影響を与えているので重要。
「Jugendschutzgesetz」Schulrecht für Schleswig-Holstein,https://schulrecht-sh.de/archiv/texte/j/jugendschutzgesetz_1985.htm,最終確認日:2020/04/07.
内容:ドイツの1985年当時の青少年保護法がまとめられたサイト。アーケードゲームの規制についても当時新たに制定されたものが書かれており、非常に厳しい様が伺える。
Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz,「Jugendschutzgesetz (JuSchG)」Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz,http://www.gesetze-iminternet.de/juschg/BJNR273000002.html,最終確認日:2020/03/14.
内容:現在のドイツの青少年保護法の法文。ゲームセンター(というかビデオゲームもだが)についてもこれで規制されており、基本的にアーケードゲームは子供向けの場所で動かすには低年齢層向けにした上で専用の教育プログラムに配慮した作品のみが動かせる…みたいな感じのことが書いている。
すがやみつる,1978~1983,『ゲームセンターあらし』小学館.
内容:言わずとしれたゲーム系漫画の金字塔。初期はゲームセンターを題材に、後半は架空のゲームになる。初期の状況は業界の状況も提示しており、当時の世相を(娯楽として楽しませるということが前提となり、その時点でバイアスはかかるものの)ある程度現している。
中野区立中野昭和小学校,1979.6.15,「家庭における児童の指導について」.
――,1979.6.20,「生活指導 No.14」.
中野区小・中学校,1979.6.15,「インベーダーゲームに関する児童・生徒の実態」.
内容:いずれもインベーダー流行当時に小学校でアンケート調査を行いプレイ傾向の実態を調査したもの。主に使用したお金や行く頻度についての調査。中野区の教育委員会に原本が残されている。
脇田はる,1990,『駄菓子屋日記』新日本出版社.
内容:ゲーム機を導入した駄菓子屋の店長である脇田による日記をまとめたもの。当時の駄菓子屋ゲームコーナーのあり方の一端を詳らかに、かつ娯楽としてのバイアスを絡めずに見ることができる非常に貴重な書籍。この頃の駄菓子屋ゲームコーナーの状況を文章として読みたいのならば読んで損はない。
新声社,1991,『月刊ゲーメスト増刊 ザ・ベストゲーム 史上最強のビデオゲーム本!!』新声社.
内容:初期アーケードゲームの攻略をまとめた本。ゲームセンター史関連において重要なのは、商業誌において早い段階で「アーケードゲーム・ゲームセンターの歴史」を1記事として2~3Pでまとめていること。
産業調査部,1993,「アミューズメント産業の現状と展望」『日本債券信用銀行調査時報』日本債券信用銀行調査部,32-71.
内容:ゲームセンター産業についてのマーケティングリサーチ。正直内容はそこまで…なのだが、他の資料や現在の『警察白書』にもない、1990年代の「ゲーム機が導入された喫茶店」の店舗数などの情報が掲載されており、その点で資料として重要性が高い。
エンターブレイン,2003,『ファミ通DVDビデオ STREET FIGHTER SAGA 格闘武眞傳』,エンターブレイン.
内容:『ストリートファイター』シリーズのインタビューDVD。結構ここ初出の情報も多いので参考資料としては見といて損なし。キャンセル周りの話もそうだし、海外で売れていた話や、『2nd』で一旦方向性を完成させて『3rd』は別方向に作り上げた話などもある。
日本アミューズメント産業協会,『アミューズメント産業界の実態調査』,日本アミューズメント産業協会.
――,「アミューズメントマシンの軌跡」日本アミューズメント産業協会,http://jamma.or.jp/history/,最終確認日:2020/03/14.
内容:前者は産業協会が1996年より継続しているゲームセンター業界の統計資料。まずはこれを読もう。これ以前に関しては『レジャー白書』などが参考になる。
後者はゲームセンター業界の主要なゲーム機を、JAMMAの観点から紹介したサイト。『ピカデリーサーカス』などメダルゲームやプライズゲームなども網羅しており、地味に資料性が高い。ただ、「第一次クレーンゲームブーム」などはどこでまとめられたのか気になる。ブノワさんの論文とかに書いてるかな…。
「第101回国会衆議院地方行政委員会議事録」第17号・第18号・第19号・第20号・第21号,国会会議録検索システム,https://kokkai.ndl.go.jp/#/,最終確認日:2019/06/15.
内容:これらの国会内の委員会において、ゲームセンターの風営法第八号(現第五号)への適用に関する議論が様々な形で執り行われた。上記については赤木(2005)がかなりゲームセンターよりの意見として分析しているのと、本リスト著者が博論第3章で別途分析しているので、興味のある方は読んでもらえると幸い。
以上、他継続追加予定。