思い出や好きな子がいることが乃木坂にいる理由、と語った彼女。
桜井玲香、卒業。
この六文字が乃木坂ファン、特に初期からのファンには、無機質な文字とは言いきれぬほどの衝撃を与える。
乃木坂のキャプテン、桜井玲香。
今の乃木坂の空気感は、彼女なしには作られなかった。
彼女が去った乃木坂、それは私たちが知っているグループとは別物になってしまうのではないのかと、寂しさ、悲しさ、変わっていくことへの恐怖。
複雑な感情が押し寄せてくる。
乃木坂46というグループの今後を考えた時に、この六文字が与える影響は悲しみにあふれたものになるだろう。
一方で、彼女個人のことを考えた時、浮かんでくるのはドキュメンタリー作中での言葉だった。
思い出や好きな子がいることが乃木坂にいる理由。(いつのまにか、ここにいる/桜井)
彼女の相棒だった若月佑美は、昨年末にグループを卒業した。
他にも、昨年から今年にかけて、生駒里奈、川村真洋、能條愛未、川後陽菜、西野七瀬、斎藤ちはる、斉藤優里、衛藤美彩と、8人の初期メンバーがグループを去った。
彼女がグループに残る理由が、一人、また一人と、彼女の元を去っていく。
7年間一緒にいた場所に、少しずつ穴が空いていく。
一緒に練習したスタジオにも、隣のポジションだったはずの披露曲にも、彼女たちはいない。何を見ても、何を披露しても、彼女たちの残像が浮かぶのに。
叫ばれる世代交代、増えていく後輩メンバー、共に駆け抜けてきた仲間の多くが、外の世界へと飛び出していく。
「思い出や好きな子がいることがグループに残る理由」と語った彼女には、あまりに酷な環境ではないだろうか。
また、ドキュメンタリーの作中で、監督は卒業のことをこんな風に表した。
本当の自分と乃木坂46の自分。かつてはぶつかりあって一つの存在だったのかもしれない。
そこから、自分の足だけで立とうとすることが卒業なのかもしれない
(いつのまにか、ここにいる)
桜井にとっての乃木坂46としての自分。それはグループのキャプテン。そして、キャプテンとしての自分を作り上げてくれたのは、紛れもない初期メンバーたちだと感じていたのではないだろうか。
そんな彼女は、乃木坂46としての自分を作ってくれた初期メンバーたちが新たな世界と旅立っていくのを見送り、乃木坂の桜井玲香としてでなく、自分だけの足で新たな世界へ飛び出していくことを、自分に許せるようになったのかもしれない。
ここ数年、卒業していくメンバーが増え
色々なフィールドで奮闘する姿を見て、
自分もそろそろ乃木坂46のその先に続く
新たな道標をつくる立場にまわるべきだと思うようになりました。
(2019/07/08 ブログ /桜井玲香)
卒業は悲しい。
そして、乃木坂46のキャプテンである彼女の代わりは、誰であっても務まらない。乃木坂の核は、代えが効かない。
そのことが、どうしようもなく悲しく、恐ろしいのだ。
しかし、最愛の仲間たちとの別れ、そして自分の足で外の舞台に立つことへの覚悟。
生駒里奈の卒業コンサートでも、若月佑美の卒業セレモニーでも、彼女は誰よりも悲痛な顔で泣いた。
今にも消え入りそうな姿だった。
それでも桜井は、彼女たちが去った後も乃木坂に残り、キャプテンとしての役割を全うしていた。
ここ一年の桜井の心の痛み、そしてそれでも乃木坂として表舞台に立っていてくれたこと、そのことに対する感謝の気持ちが、卒業の悲しみをほんの少し上回る。
玲香ちゃん、頑張ってくれてありがとう。
乃木坂46のキャプテンでいてくれてありがとう。
泣いている子の側にいたのは、いつだってあなだった。
乃木坂を乃木坂にしてくれてありがとう。