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歌じゃなくて古文の『水鏡』です
▲ 画像|和装本の『水鏡』(国立国会図書館ウェブサイトより)
「四鏡」の一つ『水鏡』について、作品が扱う年代、その特徴を紹介します。
▶▶▶▶▶ 2022/06/18 更新
Google 先生に「水鏡(みずかがみ)」と聞きますと、まず出てくるのは歌の YouTube の動画です。なるほど。ということは、「水鏡」と聞いて、
・シングル曲のタイトル
・歴史物語のタイトル
のどちらを思い浮かべるか、というのも世代チェックに使えるのだな。
それはさておき。
「古文をじっくり読みたい」と思って、私が最初に選んだのは『水鏡』でした。歌の「水鏡」を思い浮かべる人が多いはずの昨今ですので、僭越ながら『水鏡』ってどんなお話? というのを。
大今水増(だいこんみずまし)の「みず」
『大鏡』から始まる、名前に「~鏡」と付く歴史物語 4 つをまとめて「四鏡」といい、それを成立した順に並べて「大今水増」なんていう具合に覚える、その『水鏡』。
成立順は大今水増ですが、扱われている内容の順だと「水大今増」(みずだいこんまし)です。
『水鏡』 1 神武天皇 → 54 仁明天皇
『大鏡』55 文徳天皇 → 68 後一条天皇・前半
『今鏡』68 後一条天皇・後半 → 80 高倉天皇
『増鏡』82 後鳥羽天皇 → 96 後醍醐天皇
▶ 気の毒なことに、壇ノ浦の戦いで入水して亡くなる、第 81 代安徳天皇だけが、今鏡と増鏡の間の空白期間にあたり、四鏡には正式に収録されていません。(『増鏡』の冒頭、後鳥羽天皇の章で少し言及されてはいます。)
「歴史物語」で日本の歴史を始めから読もうとするなら、『水鏡』から、となるわけです。
最もマイナーらしい『水鏡』
「四鏡」全部だと、第 1 代から第 96 代の天皇までの時代、つまり伝説の時代から建武の新政までの歴史が読めることになります。
歴史「物語」なので、それを「日本史の教科書に載せてもおかしくない信憑性のある話」と見てはいけない部分も多いです。しかし、そうした虚構性も含めて、おもしろい昔話として、古文の中では比較的読みやすい文章ではあります。
だからこそ、『大鏡』の道長の話などは教科書によく載っているし、『今鏡』や『増鏡』からの出題も、受験問題で見かけることがありました。
しかし、家庭教師として高校国語を担当していたころの約 10 年間、いろんな大学の過去問を解いてきた中では、『水鏡』からの出題は見たことがありませんでした。
ほぼ記紀とかぶってしまう『水鏡』
『水鏡』が扱う初代天皇からの歴史のうち、『古事記』が第 33 代の推古天皇までを(最後の方はほぼ系譜のみですが)、『日本書紀』が第 41 代の持統天皇までを扱っているため、『水鏡』は、内容の半分以上が「記紀」とかぶってしまっています。
加えて、この作品だけが「四鏡」の中ではオリジナルではなく、先行する『扶桑略記(ふそうりゃくき)』という、仏教の歴史を記した本のダイジェスト版だということです。
こうした、オリジナリティの低さが、『水鏡』がマイナーである一因とは言えそうです。
『水鏡』の存在意義
内容にオリジナル性が無いとはいえ、比較的読みやすい文献で日本の歴史をざっと読んでみたいと思ったとき、「四鏡」というセットに組み込まれている『水鏡』には、やはり存在意義があると思います。
●「記紀」が扱わない、第 42 代文武天皇から第 54 代仁明天皇までの出来事が記されている。(「記紀」以降を、あくまでも歴史書で読むとなると、『水鏡』収録分の天皇の事績を読むのに、『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』の始めまで、と 3 つの書物にも渡ることになります。もちろん、これらの本も漢文で書かれています。)
●『扶桑略記』は完全に現存していないため、『水鏡』に収録されたことで、読める状態になっている箇所もある。
● 内容としては「記紀」とかぶっている時代についても、原文を参照しようとすると、記紀は漢文(純粋な漢文でもない)なので、とても読みづらい。古文で書かれている『水鏡』の方が、読みやすい。
特に、3 点目が専門家ではない人間にとっては、有難いです。記紀の読みにくさは、青空文庫に『古事記』の全文を書き下してくださっているものがあるので、見て頂くとわかると思います。
この古文でも漢文でもない感じは、内容の把握以前に、読むことができない! 「こんなふうにフリガナ振りますか」と思う部分のオンパレード。
これに比べれば、『水鏡』は教科書に載っているのと、ほぼ違わない古文で、「読む」ことができます。
▲ 左の目次・巻号のところから『水鏡』を選ぶと閲覧できます。
読める状態の本が公開されててよかった!
ただ、やはりマイナーなだけあって、全文訳が手軽に入手できないという難点はあります。
「四鏡」のうち、『水鏡』以外の 3 作品は、文庫版での現代語訳が出版されています。『水鏡』も岩波文庫で出てはいますが、訳が付いていない原文のみのものです。―2020年6月時点での情報です。
(それでも、PCの電源を入れなくても内容が確認できるのはありがたいですが。)
こういうときは、国立国会図書館ウェブサイトが役立つことが多いです。『水鏡』に関しては、上記のものも含め、読める活字になっていて、かつ、注も付いているものがいくつかありました。
(タイトル画像に使ったような本もありましたが、さすがにこれでは読めません ^^; )
マイナーな『水鏡』ですが、活字になっている本があるなら、そう捨てたものでもないでしょう。
上記の『日本文学大系 : 校註. 第12巻』には、「四鏡」が全部収録されていて、無料で読めます(著作権切れの大正 15 年の本ではありますが)。すばらしい時代です。
▶▶▶▶▶【蛇足】
ちなみに、タイトル画像で傍線を引いた箇所は、第 11 代垂仁(すいにん)天皇の章で、皇后の兄が皇后に天皇暗殺をもちかける場面です。
「御門をうしなひ奉り給へ」とて、剣をとりて后に奉り給ひつ。
と書いてあることが、活字にしてくれている本のおかげでわかります。
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