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地方の飲食店にコスパを求めないでください

 SNSでこんな投稿を見るとイラっとしまう。
 「○○円でこんなに豪華なランチ!!」

 何種類もの新鮮な魚が乗った海鮮丼。
 海の幸、山の幸がこれでもかというくらい並んだ旅館の料理。
 ドカ盛りの定食メニュー。
 画像付きで紹介されるのは、どれも都会ではなく地方の店だ。

 地方の飲食店では、安い価格でおいしい上にボリュームたっぷりの料理を食べることができる。そうアピールする投稿には無数の「いいね!」が付けられている。しかし私は嫌悪感を抱く。

 それはなぜか。
 地方の飲食店は安くておいしいことが当たり前、そう思われてしまうことに強い抵抗があるからだ。

 確かに地方では地元の新鮮な食材が安く手に入る等により、コストを抑えられる部分もあるだろう。しかし、ネットと流通が発達した現代において、食材の調達コストが都会と地方で大きく異なるとは思えない。むしろ大規模チェーンを展開する都会の店舗は、より効率的に食材を調達できるはずだ。

 地方の飲食店が安くおいしい料理を提供できる理由は何かと考えれば、食材以外でコストの圧縮をしているからに他ならない。それは利益の圧縮であり、人件費の圧縮である。

 安くおいしく盛りがよいとして投稿された店を見てみると、地方の昔ながらの店舗であり、家族経営のお店や旅館だったりする。
 それらのお店では昔から値段も変えずに、一般のお客さんにに満足してもらえるような料理を提供し続けている。従業員が多いわけでもなく、店舗拡大もしていない。何十年もフライパンを振り続けている高齢の店主が体調を崩せば、店を畳まざるを得ないようなお店もある。

 このような地方の昔ながらの飲食店では、いわばライフワークとして、採算度外視で店舗を経営している場合も多い。そういう店舗を地方のスタンダードのように考えて、客が料理の画像と価格をSNSで紹介するのはいかがなものか。
 田舎では安くておいしい飲食店が当たり前。
 そのような誤ったイメージを植え付けはしないか。

 価格ではなく、おいしさや独自性をセールスポイントにするのならばよい。おいしさや独自性は地方ならではの特殊性で勝負できるからだ。しかし、全国共通の指標である価格を出した瞬間、多くの地方のお店の首を絞めることに繋がる。

 今後、昔ながらの家族経営の店舗は間違いなく減少していく。
 新しいオーナーが開く飲食店は古い店舗のような経営ではやってはいけない。コスト的に優位を誇る大規模チェーン店との競争で勝つためには、地方独自の価値を適正な価格で提供し利益を上げていく必要がある。価格の安さで勝負したら、大企業に地方の飲食店がかなうわけがない。その店でしか出せない独自性をアピールし、それには相応の価値があると伝えていく必要がある。

 だから、地方の飲食店にコスパを求めないでほしい。
 多少、割高であったとしても、そこでしか食べられない味や食材に見合った対価を支払ってほしい。
 地方でコスパを求めること自体が、地方を否定する行為なのだと感じてほしいなあと思うのです。

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