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那須の未来を守るために。環境教育を通じて、次世代にバトンをつなぐ挑戦
「次世代へつなぐバトン」―このテーマを、私はずっと大切にしてきました。
那須の先人たちは、土地改良やエネルギー開発を通じて、自然豊かな風景と、そこに暮らす人々の安心な生活を守ってきました。私は再生可能エネルギーの開発によって、この「自然と人々の暮らしを守る使命」をより確かなものとし、次の世代へと受け継いでいきたいと考えています。
*再生可能エネルギー:太陽光や風力、地熱、水力、バイオマスなど、自然界にあるエネルギー
そして、そのバトンを受け取る若者を育てることも私たちの大切な使命だと考えています。
地方では、若い担い手不足という問題があります。私たちが活動している栃木県那須エリアも例外ではありません。那須をこれから先も守りながら、未来を考えてくれる人を育てること。それが何より大切です。
そのためには、まず地域の子どもたちに、那須のことや地域が抱える課題を知ってもらい、考えるきっかけを作ることが求められます。
そこで今回は「那須野ヶ原みらい電力」および「NPO法人1000年の森を育てるみんなの会」が学校などで行っている講演やワークショップについて、子どもたちに何を伝え、どのようにバトンをつなげようとしているのか、紹介したいと思います。
地域の魅力やポテンシャルを伝える「出前授業」
「那須野ヶ原みらい電力(以下、みらい電力)」は、2022年に設立された電力会社です。この会社は、那須塩原市内の小中学校で「出前授業」を主催しています。実施を担っているのは、『NPO法人1000年の森を育てるみんなの会』(以下、1000森)です。
地域の子どもたちに、那須の魅力や未来の可能性、そして環境問題について知ってもらう。そんな目的で始めてから約4年が経ちました。
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授業の内容は那須の歴史や、環境問題についてを中心としています。これまでに三島中学校や高林中学校などで出前授業を開催させていただきました。
例えば2023年には、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にも毎年参加されている環境ジャーナリストの佐藤由美さんと、那須野ヶ原土地改良区連合の星野恵美子さんをお招きし、第1部では、世界の環境問題やその動向についてお話いただき、第2部では、那須の地域が昔から自分たちで食料や米、電力をまかなってきた歴史についてお話いただきました。
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話を聞いた後には、作文を通して思ったことを言語化してもらう機会を設けています。これは感じたことを言語化することで、地域や環境問題を自分ごととして捉え、考えるきっかけになってほしいからです。
この出前授業は、はじめは中学校のみを対象に行っていましたが、私の中学時代の恩師の協力もあり、今では小学校にも活動の場が広がっています。なかなか出前授業を受け入れてくれる学校が少ない中で、かつての恩師にも関わっていただけたことは、本当にありがたいことです。
授業の最後には、出前授業で那須の自然に興味を持った子どもたちの知見をさらに広げる機会を提案しています。これは、子どもたちが目で見たり、手で触れたりしながら学べる森での体験授業です。
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生命や自然の大切さを肌で感じる「体験授業」
体験授業では、実際に森へ入り、「皮むき間伐」などの森林管理を体験します。
「皮むき間伐」とは、木の樹皮だけを剥ぐことで、 立ったままゆっくりと枯らす間伐手法です。
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子どもたちは樹皮を剥くという作業の中で、木が生命を終えていく過程を肌で感じながら、「木を有効に活用しなければ」という気持ちを育んでいきます。これは学校の教科書では学べない大事な体験です。座学だけでは得られない楽しさや、自然との一体感を感じられる大切な機会になると考えています。
参加してくれた子どもたちは、初めて間伐を体験するという子ばかりですが、みんな楽しそうに自然と触れ合っています。こうした機会を通じて、この地で生まれ育った子どもたちが地域を学び、「地域のためになにができるだろう」と考えるきっかけになることを願っています。
出前授業や体験授業の目的は、「次の世代へバトンをつなぐこと」。そのためにも、地域や歴史、環境に関心を持ってもらう。こういった種まきの活動が、次世代にバトンをつなぐための大事なステップになっています。
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若い世代を育て、地域へ循環するサイクル確立への挑戦
体験授業には、地域の若い人材を育てるという、もう一つの大切な役割があります。
活動に参加してくれる学生たちを支え、育てながら、地元や企業に良い影響を広げたい。そのために「1000年の森を育てるみんなの会」の学生メンバーを組織化することに挑戦をしています。
学生メンバーには、中学生から大学生まで幅広い世代が参加しています。皮むき間伐の体験授業では、大学生がリーダーとなり、運営を進めています。
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大事な時間をかけて活動に参加してくれる学生たちには、リーダーシップや社会活動の経験を積んでほしいと思っています。それが、将来の就職活動にも役立つはずです。
例えば、プロジェクトを動かす経験は、社会に出てからも役立つ力になります。理念と目的、予算を持ってプロジェクトを進めることは、実際の社会で必要なスキルとなります。学生のうちにそれを経験できるのは、とても貴重な学びになるはずです。
人を育てるためには、大人の関わり方も重要になります。どうすれば学生の成長につながるかを考え、柔軟に対応することも大人の役目です。
人材育成にはお金も時間もかかります。それでもこのチャレンジを続けている理由は、この活動が地元企業にも良い循環をもたらすと信じているからです。私たちの活動に積極的に関わってくれるような学生は、同じビジョンを持っている場合が多く、地元の企業に就職してくれる可能性もあります。
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私自身、鈴木電機株式会社やみらい電力を経営する中で、人材を採用する難しさを日々感じています。しかし、この活動がうまくいけば、地元で育った学生が地元で働く未来が見えてきます。逆に、学生に選ばれる企業になるためには、私たち地元企業も、魅力的な会社づくりを推進しなければなりません。こうした相互作用の結果、企業も成長し、地域全体が活性化すると思うので、1000森の活動をそんな良い循環を生み出すきっかけにできれば良いなと考えています。
一人一人が地域の未来を紡ぐ一員だというメッセージを伝え続ける
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地方が直面している課題の中で、一番困っているのは「チャレンジする人材が足りないこと」です。
東京にはたくさんの若者がいて、挑戦する人も多いです。しかし、那須のような地域では、そういう人材がとても少ないのが現状です。
だからこそ私たちはみらい電力や1000森でのさまざまな活動を通じて、先人たちが築いてきた愛する那須の豊かな暮らしが未来に続くよう、チャレンジする人を育てていきます。
子どもたちには、地域の自然を守ることの大切さを理解してほしい。若者には那須の魅力をもっと知り、地域に根付いてほしいと思っています。
この地域を守り、未来をつくるのは次世代の子どもや若者たち一人一人の力です。「この土地に関わる君たちが那須の未来をつくる一員であり、次の歴史をつくっていくんだ」というメッセージを、これからも伝え続けたいと思っています。