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『青春のリグレット』の独自解釈:結局女は何を後悔したのだろうか?
僕の旧友Aはユーミンが大好きだった。
ユーミンの歌詞って、映画のワンシーンのようだ。
情景の描写をすることで、その行間から心の動きが浮かんで来る感じ。
悲しいとか楽しいとか言う直接的な表現は控えめで、登場人物の意見はあまり語られない。
だからか、最終的な曲の解釈が割れたりすることってあるのかなあ?
受け取り方感じ方で、曲の中の主人公の気持ちの読み取り方が変わる、というか。
Aはユーミンの歌詞を深掘りするのが好きで、彼の解説はわかりやすく面白かった。その中でも、一番目からウロコ的な解説が、『青春のリグレット』だった。
まずは、歌詞の要約。だいたいこんな感じかな。
男と女が愛し合っていた。
男は自分の将来の夢を犠牲にして女と生きていくつもりだった。
しかし、結局女は別の男と『普通に結婚』することを決めた。
女は、憎まれても仕方ないほど男を深く傷つけてしまった。
悪い女と言われても仕方ないし、許すことができないと言われても当然だ。
男にこんな仕打ちをしたことを女自身も後悔している。
彼らは握手をして街中で別れた。
女は本気で愛していた相手だっただけに、涙が出た。
でも、そんな思いも、時間が経って、いつか笑って話すことができるといいね、と女は思った・・・。
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少なくとも文字上の要約はこんな感じだろう。そしてAの深掘り解説は以下のような感じだった(長文注意です)
Aの深掘り解説:女側
女は男を愛していたと言うが、同時に他に男がいた。つまり二人同時に愛していた(『けんかをやめて』でも河合奈保子さん・竹内まりやさんがそんなのよくあると言ってますね)
『あなたが本気で見た夢』=仕事上の夢だったり、女と結婚することだったり。それを『はぐらかした』とあるが、仕事のことであれば、おそらく「私と仕事どっちが大事なの?」とさんざん自分のことを優先するよう促して、男に「この女は大切にしなきゃならん、結婚も考えなきゃ、たとえ自分の夢を少し犠牲にしなくてはならなくとも」と思わせたはず。でも他に男がいた
夏のバカンスも一緒に過ごしたし、他にも一緒に時間を過ごしたはず。それは楽しかったはず。でも他に男がいた
他の男を選んだ理由はよくわからない。が、男をはぐらかしてまで自分を優先させたのに、それでも他の男を選んだのは、シンプルに他の男のクオリティが高かったのだろう。つまり、二人の男を天秤にかけていて、目の前の男に多少無理なお願いをしたり、暇つぶしに付き合わせたりして、女はその時その時で男をを試していたのだろう。その場その場で「私を優先して」と言って振り回したにもかかわらず、結論は他の男の方が良かった、ということだ
どんな別れの告げ方をしたかも書いていないが、いつか『笑って話せる』よね、とマイルドに終わりを告げているあたり、「あなたに甲斐性がないのよ」と言う突き放した言い方はしなかったのだろう
『私を許さないで』と言っているあたり、「あなたは悪くないの、私が悪いの」的なことを言っていたのだろう。『憎んでても覚えてて』と、それがせめてもの罪滅ぼしだからと
でも他に男がいた。そして他の男を選んだ
女は何を後悔しているのだろう?ほんとは彼に対しては1ミリも悪いと思っていなくて、本気で愛したのだと自分に言い聞かせていただけなのでは?他の男のもとに行ってしまえば光の速さで男を忘れてしまう自分がいる。そんな私ってああ、悪い女・・・って、自分の悪い女っぷりを(ほんの少し)後悔しているだけなのでは?
最後の一節で、女は今ではもう『笑って話せるの』、と過去を振り返っている。女はあの別れはほんとはちっとも悲しくなんてない(当然だよね、だって他に男がいたのだから)。何が申し訳ないかと言うと、幸せな結婚生活の中で、かつて『せいいっぱい愛した』(と思っている)相手を、どんどん忘れて行っていること
つまり、女は男を本気で愛したいと思い込むことで、青春の思い出作りごっこをしていたのだが、結局他のもっと条件のいい男を選んだというだけの話なのではないか?ほんとに後悔しているのならば、この歌詞をこんなポップなメロディに乗せないですよね、ユーミン?
Aの深掘り解説:男側
男にとってその女は、おそらくいい女で、本気で愛した相手なのだろう。自分の夢より女を優先して一緒に生きている覚悟をしたのだろう
夏のバカンスや、他にも一緒に楽しい時間を過ごした。当時の男ならバカンス行くって言ったら全額男が支払っただろう。そして、3か月前までは幸せで二人の将来の夢なんか見たりしてたはず。なのに、女には他に男がいた
男にとっては、女からの別れ話は寝耳に水だったはず。なんで突然別れを切り出されるのか理解できなかったのでは?女に理由を聞いてみると、どうやら他に男がいて、結婚するというではないか。当然「え?」って絶句するよね。だって、3か月前までは二人で幸せに過ごしていたわけなんだから。でも、おそらくその頃にはもうちゃっかり女は他の男にプロポーズをされていて、もしかしたらもう結婚式場も決まっているのかもしれないわけだから
別れ話の展開が早すぎて、理解がついていけない。最後には街中で握手をしてさよならをしたが、女からは、別れ際にいつか『笑って話せるね』って言われ・・・そんなもん、笑って話せるかーーーーーー(怒)女なんて、女なんて・・・
後になってよく考えてみれば、結局自分は他の男と比べて、甲斐性がなく、信じたその女に結局もてあそばれただけだったんだ、って理解することになるだろう、悲しいことに。とは言え、男はそれでも前を向いて生きていかなきゃならんし、時間が傷を癒してくれるはず。差し当たり、俺は悪くなかった、あの女がサイテーだったのだ、と思わなきゃ前に進めないだろう。女も『私を許さないで 憎んでも覚えてて』と最後に言ったわけだし
結局一番リグレットがあるのは、そんな悪い女を選んでしまった、愛してしまった自分だ、と男は思うのだろうな
この曲はポップでキャッチ―でノリやすいし、メロディが楽しいから、Aは最初あまり歌詞に注目せず鼻歌まじりで聴いてしまいそう・・・でもある夜Aは、どっかのコールセンターの深夜バイト先で、ヒマすぎてバイト同士でラジカセでラジオを聴いていたらしい。コールセンターで音楽聞くってどうなのよ、っていうツッコミはさておき、その時この曲が流れたので、ヘッドセットを半分ずらしてふんふんと頭で歌いながらこの曲を聴いていた。そして、パッとひらめいたらしい。
「んじゃこりゃ~~~(怒)サイテーサイアクな性悪女じゃん」
まっさきに自分の年の離れた兄のことを思い出したそう。兄は高校時代に本気で野球か何かに取り組んでいたのだが、当時付き合ってた彼女を本気で好きになり、色々翻弄されたあと、最後にはどんでん返しでフラれたらしい。おそらく他に男がいたのでは・・・?この曲を聴き終わった時、こみあげる怒りでワナワナして、Aは思わずヘッドセットを床に投げつけたらしいです(笑)
まあこれは個人の一つの見解だし、他の解釈もあると思うけど、僕はこのAの解説が好きだ。その話を聞いて、女って(というか、ユーミンって)怖いなあと思った、その頃20代の僕でした。
歌詞の引用元:『青春のリグレット』by 松任谷由実(アルバム『DA・DI・DA』より)