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架空かもしれない誰かの話②

母が「上皇后さまのお歌の本が出るんだって」と言った。

「ふうん?」
曖昧に返事をしてスマホを取り出す。

「これ?」
検索した画面を見せれば、
「そう、それ。さすが早いなぁ」
嬉しそうにいうので、
「買えばいいんだね」
と言うと、
「いいの?お願いします」
と、すかさず返ってきた。

母は根っからの本好きだ。
学生時代、勉強に関係ない読みきれないほどの本を鞄に詰めて学校に行っていたという。

歳の割には漫画にも寛容で、
あさきゆめみし
天上の虹
などは自分でも好んで買っていた。

私も子供の頃から、本と言えばだいたい買ってもらえた。

最近は歳のせいで目も衰え、漫画は絵と文字を読むのが億劫になり、本も場所を取るからいいやと遠慮する。

そんな母が欲しいと言ったのだから、買おうと思った。

お金はもらわないつもりだったが、
半分出すと言ったので、ありがとうと言って受け取っておいた。


母は、お歌を声に出して読むのが日課になった。
目で追うだけでは区切りがわからないのでそうしている。

私が休みの日には、2人で本を眺めながら読み、
ひと歌ずつ、その情景をこう言うことかな?話をしながら読み解いている。
全てがあっているかはわからないが、
どのお歌も情景がありありと思い浮かべられて面白い。
わからない言葉や状況をスマホで調べて見ると、知らなかった風習や言葉、花にたどり着く。
野に咲いていても知らない花や植物の名前を知り、季節や身近な出来事を想う。

たった一冊の本で、特別な2人の時間が持てるようになった。



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