桜木花道のモデルはロッドマンじゃないと思う。前編

2022年秋に映画が公開予定であるとか、エンゼルスのマドン監督が名言Tシャツを着用していたり、と未だに話題に事欠かない『SLAM DUNK』ですが、「桜木花道=デニス・ロッドマン説」を見掛ける度にいつも違和感を覚えるので、それは違うんじゃないかなぁーというお話ができればと思います。


以下、わたしの読書感想文のようなものがあーでもない、こーでもないとダラダラと続くのですが、実は作者自身がインタビューでこの俗説を否定してます。モデルがいるとしたらチャールズ・バークレーだ、とも発言しているのでそれが本当なんだと思います。


とは言え、桜木とロッドマンはよく似ています。

・他の追随を許さないリバウンダーであること(シュートが下手というか得点能力はあんまりない)

・背番号10と派手なヘアスタイル(赤坊主や赤いユニフォームなど容姿も似てる)

・メチャクチャな言動と複雑な家庭環境(乱暴な振る舞いで騒ぎを起こしたりもしたが、恵まれないながらも立派なバスケット選手になった)

これだけの共通点が列挙できれば「桜木花道=デニス・ロッドマン説」が流布されても仕方ないとも思いますが、そうではないことを作品背景や時間軸みたいなものを考えながら確かめてみます。



まず『SLAM DUNK』の連載時期ですが、週刊少年ジャンプにおいて1990年10月1日に始まり、1996年6月17日に最終回を迎えています。

湘北高校のモデルであるシカゴ・ブルズは1980年代後半はプレーオフに進出はするもののNBAファイナルに駒を進められる実力はなくジョーダンのワンマンチームと揶揄されていて連載開始当初は一度も優勝経験が無く、よくそんな球団を模した作品を描いたなぁと作者や編集部の慧眼に驚きます。


で一方、桜木のモデルとされるロッドマンですが、当時はデトロイト・ピストンズ”BAD BOYS”の一員として二度のNBA制覇を果たしていますが、まだまだ体の線は細く、チームカラーである青色のピタピタのユニフォームを着て(派手なTATOOもなく)髪の毛は黒い地味な短髪(正直なところ垢抜けないというか結構ダサい感じ)で、赤いリーゼント頭の桜木とは全く違う容姿です。


プレイスタイルについても、容赦のない厳しいディフェンスで名を馳せたBAD BOYSの中でも取り分けクドい、汚い、鬱陶しいディフェンダーとして活躍し二度の年間最優秀守備選手賞に輝いています。

またド派手なダンクで得点を決めることしか考えていない桜木とはまるで違い、ロッドマンは受賞の際のスピーチに「この賞が本当に欲しかった」と感極まり涙まで流しています。

つまり作品の初期の頃においては共通点を探すのが難しいというのが事実です。


ただ『SLAM DUNK』という作品の凄いところは現実世界とシンクロしているというか、新しい時代の到来を見越していたような事がいくつも散見できるところだと思います。

赤木のワンマンチームと言われてた神奈川の弱小バスケ部が素晴らしいチームメイトを得て全国優勝常連校を打ち倒す。

ジョーダンのワンマンチームであったブルズは、若手であったピッペンやグラントの台頭や何よりフィル・ジャクソンという名将とともに名実ともにナンバーワンの球団に成り上がっていく。

週刊少年ジャンプでの連載開始された1990年の秋に始まったシーズンでブルズはNBA初制覇を成し遂げます。

またジャンプ誌上において最終回となった1996年6月17日の朝は多くの読者、SLAM DUNKファンが驚き、悲しんだことと思います。

しかし、その全く同じ時間帯の地球の西の西のアメリカ大陸の湖の畔の風の強い大きな街ではまだまだ日曜日の夜ですがシカゴ・ブルズの4度目のNBA制覇が成され、市民をはじめ世界中のブルズファンは歓喜に沸いていました。こんなエポックメイキングな出来事が日付変更線のあちらとこちらで同時に起こるものでしょうか。普通では有り得ないことだと思います。そして、この年はロッドマンがブルズに加入したシーズンで、赤いユニフォームで優勝した初めての年でもありました。

おかしなヘアスタイルで体中TATOOばかりのスキャンダルや騒ぎばかりを起こしていたヘンな男がブルズにとって必要な選手であると認められた時でもありました。

まさに 桜木花道=デニス・ロッドマン です。


では、何故そうなってしまったの紐解いていければよいのですが、ここからはわたしの憶測、邪推でちょっとずつでも確かめていくつもりです。

まず『SLAM DUNK』という作品が正統派のバスケットボールを題材にしたスポーツ漫画であることに異を唱える人は少ないと思いますが、連載開始当初は全くそんな風ではなかったとわたしは記憶しています。

週刊少年ジャンプという媒体の特性でもあると思いますが、掲載作品の多くは可塑性をふくませたようなフンワリと色んな含みを持たせた状態で始まりギャグ漫画なのか学園モノなのかラブコメなのか分からないまま読者アンケートの人気順位が良ければ連載は続き、アンケート結果により作品の方向性が定まっていくようなイメージがあります。キン肉マンやドラゴンボール、男塾やJOJOや幽遊白書は間違いなくバトル漫画ですが、いずれもはじめは何なのかハッキリしない印象だったように思います。

『SLAM DUNK』についてもフンワリと色んな含みを持たせた状態で始まり、おまけにオマージュというか、他社のパクリの寄せ集めみたいなものでした。”湘南爆走族の江口とFの赤木軍馬を同じ高校に入学させバスケをさせてみた”みたいなノリで、ギャグあり喧嘩あり恋愛ありの何でもありの学園スポーツ不良漫画が、例の名言とされている「先生、バスケがしたいです。」のシーンまでつらつらと続くわけです。  (あれは三井寿の言葉を借りた作者自身の「もうヤンキー漫画なんて嫌です。編集部ならびに読者の皆さん、バスケ漫画が描きたいです。」という吐露というかバスケットボール漫画宣言です。あの体育館の騒動後、翔陽戦からが名作としての『SLAM DUNK』の本当のスタートです。)  でそして更に、湘南爆走族とFのゴチャ混ぜにとどまらず、作中に柔道部が出てくるあたりはドカベンっぽいし、ふんふんディフェンスが炸裂した時にはダッシュ勝平のような雰囲気が漂いはじめギャグ漫画として割と面白いのではと連載当時は思ってました。

そんな作品初期における主人公の桜木花道がどんな人物なのかというと、ゴチャ混ぜ感の強い作品同様に湘南爆走族の江口の容姿で中身はドカベンの岩鬼といったところでしょうか。岩鬼が変なあだ名を勝手につけたり、高校で最初につけた背番号10だったこと等が桜木にも踏襲されたものと思われます。で、岩鬼がよく言う「花は桜木、男は岩鬼」という名文句ですが、実は湘南爆走族でも「花は桜木、男は江口」という描写もあり主人公の苗字として採用されたことが伺えます。また、この名文句の元ネタは歌舞伎の忠臣蔵の「花は桜木、人は武士」です。歌舞伎といえば”花道”なくして語ることはできません。このような経緯で桜木花道というキャラクターが生み出されたのではないでしょうか。ロッドマンの要素はどこにもないように思えますが4つのキッカケ、出来事を経て 桜木花道=デニス・ロッドマン に近づいていくのですが続きは その後編で明らかにしたいと思います。


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