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Wigner-Eckartの定理について

物理でSU(2)群の表現論やっていると出てくるこの定理、初見ではなんだかよくわからない気分になっていました。(J.J.Sakuraiとかで見た記憶が…)

そこで、この記事ではもうちょっと数学よりに定理を理解できないかと試してみました。間違いなどがあれば教えてくださると助かります。


群論の表現についてちょこっと

まず群の表現というものがどういうものかと言いますと

定義(群の表現
群Gからヒルベルト空間H上の可逆な線形演算子の群への準同型写像$${\pi}$$があって、ペア$${(\pi,H)}$$を群Gの表現と呼ぶ。

つまりベクトル空間で考えると、群Gを一般線形群GLの中で表してみようというノリである。$${g \in G \to \pi(g):H\to H }$$

群がLie群だったりしてより構造が入ってくると準同型写像も条件が入るらしいですが、ここではなんか性質のいい条件がいるんやなという感じで進めます。

ではこの表現の中の素因子みたいなものはないのかというと、既約表現というものがあって

定義(群の既約表現
作用$${\{\pi(g) | g \in G\}}$$で不変な部分空間がHまたは0であるとき、群Gの表現$${(\pi,H)}$$は既約である。

これは、群の作用によって閉じてる空間のうちそれ以上小さくできない空間上で表現を考えてるってことですね。

Schurの補題

ここで、群の表現論でよく使われる補題を見ておきましょう

Schurの補題
群Gの既約表現$${(\pi,H)}$$を考える。この時線形演算子Aで以下を満たすとする
$${ A\pi(g) = \pi(g) A , \ \ \forall g \in G }$$
するとこのようなAは
$${A= c I }$$
もしくは$${A=0}$$である。

これは、群の既約表現と可換な線形演算子は恒等演算子と比例しているか、ゼロであるという意味の補題である。

なんか上手く使えそうな補題ですね。

SU(2)群の表現

SU(2)は物理学で基本的な対称性として現れてきます。その既約表現の分類により粒子のスピンを記述できるとても便利な道具になっています。

SU(2)群は3次元の回転群SO(3)の普遍被覆群とかいう回転をちょこっと拡張したものになってて、このおかげで半整数のスピンとかが記述できるのです。すごくうれしい!

ということでSU(2)の有限次元ユニタリ表現を見ていきます。

SU(2)の有限次元ユニタリ表現は全角運動量Jとある1方向の角運動量mの固有状態であるベクトル$${|J,m\rangle}$$を基底ベクトルとして分類できます。

SU(2)の有限ユニタリ表現
全角運動量演算子$${J^2=J_0^2+J_1^2+J_2^2}$$および0方向の角運動量演算子$${J_0}$$を考える。これら2つの演算子に対する固有状態を$${|j,m\rangle}$$と表し、この状態は
$${J^2 |j,m\rangle = j(j+1) |j,m\rangle}$$
$${J_0 |j,m\rangle = m |j,m\rangle}$$
を満たしている。
すると、SU(2)の$${2j+1}$$次元既約表現は
$${\{|j,m\rangle | m=-j,-j+1, \dots, j-1, j \} }$$
を基底ベクトルとした空間$${V_j}$$
そしてSU(2)の作用
$${g=e^{i \sum_a c_a t^a } \to \pi_j(g) | j , m \rangle = e^{i \sum_a c_a J_a} |_{V_j}| j , m \rangle = \sum_{k} D^{j}_{mk}(g)|j,k\rangle }$$
によって$${(\pi_j,V_j)}$$と表される。

$${D^j_{kl}(g)}$$は$${(2j+1)\times(2j+1)}$$行列で、そもそも$${\pi_j(g)_{kl}}$$と書いてもいい気もします。

テンソル積の既約分解

物理学において、1粒子状態も素粒子としての性質を調べること自体はおもしろいです。とはいえ現実世界では多数の粒子が互いに相互作用しあっているため、多数の粒子の状態を考える必要があり、状態のテンソル積を考えたくなります。

2つの表現のテンソル積の既約分解を考えればより多くのテンソル積も同様に分解していけます。ですので2つの表現のテンソル積の既約分解を考えていきます。

SU(2)については物理でよく使われていまして、次のように記述できます。

Clebsch Gordan分解
2つのSU(2)有限次元ユニタリ表現$${(\pi_{j_1},V_{j_1}),(\pi_{j_2},V_{j_2})}$$を考える。この2つの表現の基底ベクトルを既約分解すると
$${|j_1, m_2\rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle = \sum_{J=|j_1 - j_2| , \dots, j_1+j_2} ~ \sum_{m=-J,\dots,J} \langle j_1, m_1 ; j_2, m_2 | J,m \rangle | J,m \rangle }$$
と分解できる。また、この係数$${\langle j_1, m_1; j_2, m_2 | J,m \rangle}$$はClebsch Gordan係数と呼ばれる。

CG係数は$${\langle J,m  | j_1, m_1; j_2, m_2 \rangle}$$のほうがいいよな気もしますが、どちらの記述も目にするので混乱しないように$${|}$$のどちら側にテンソル積があるのかを見るのがいいと思います。

テンソル積では表現の既約性を保てないので、このような分解を考えたくなるのです。

表現空間でいうと
$${V_{j_1} \otimes V_{j_2} = \bigoplus_{J=|j_1 - j_2| , |j_1 - j_2|+1 ,\dots, j_1+j_2} V_J }$$
という対応になってます。

便宜のために全ての有限次元ユニタリー表現を集めた表現考えます。

$${ \pi_{\bullet}(g) = \bigoplus_{j} \pi_j(g)}$$

これがWell definedなのかはわからないですが、有限次元の空間への作用しか考えないので、実際に使うときは問題ないです。

ということで準備が終わりました。

Wigner Eckartの定理

Wigner Eckartの定理はSU(2)の既約表現っぽい挙動をする球テンソル演算子の期待値についての定理でして、球テンソル演算子は

球テンソル演算子
球テンソル演算子とは、SU(2)の既約表現$${(\pi_L, V_L)}$$を考えた時、以下のような性質を持つ演算子の組み$${\{T_M^L | M=-L,\dots,L\}}$$のことである
$${ \pi_L(g) T_M^L \pi_L(g^{-1}) = \sum_{N} D_{M,N}^L(g) T_{N}^L }$$

と定義されています。

では定理をみていきましょう。

Wigner Eckartの定理
球テンソル演算子$${\{T_M^L | M=-L,\dots,L\}}$$のSU(2)の有限次元表現による行列期待値は以下のように書ける
$${ \langle j_1, m_1| T_M^L | j_2, m_2 \rangle = \langle j_2, m_2 ; L, M | j_1, m_1 \rangle \langle j_1 || T^L || j_2 \rangle }$$
ここで$${\langle j_1 || T^L || j_2 \rangle}$$は$${m_1,M,m_2}$$に依存しない。

これはつまり$${ T_M^L | j_2, m_2 \rangle}$$がどのくらい$${|L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle}$$と似ているかということを表しています。

実際$${ T_M^L | j_2, m_2 \rangle}$$はSU(2)の作用での変換は
$${\pi_{\bullet}(g) T_M^L | j_2, m_2 \rangle = \sum D^L(g) D^{j_2}(g) T_M^L | j_2, m_2 \rangle}$$
となるのでこれは$${|L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle}$$と同じ変換をしていることになります。

重要なことはCG係数に比例していることと、残りの係数が$${m_1,M,m_2}$$に依存していないことです。

では証明を見ていきましょう

定理の証明

上で見たように$${ T_M^L | j_2, m_2 \rangle}$$は$${|L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle}$$と同じSU(2)の表現の作用を持っています。そこで、線形演算子$${\hat{T}}$$として
$${\hat{T} |L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle = T_M^L | j_2, m_2 \rangle}$$
を満たすものを考えます。

するとこの演算子は

$$
\begin{align*}
\hat{T} \pi_{\bullet}(g) |L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle &= \sum_{N,n_2} D_{MN}^L(g) D_{n_2.m_2}^{j_2}(g) ~ \hat{T}|L,N \rangle \otimes | j_2, n_2 \rangle \\\
&= \sum_{N,n_2} D_{MN}^L(g) D_{n_2.m_2}^{j_2}(g) ~ T_N^L | j_2, n_2 \rangle 
\end{align*}
$$

また逆に

$$
\begin{align*}
\pi_{\bullet}(g) \hat{T} |L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle &=\pi_{\bullet}(g) T_M^L \pi_{\bullet}(g^{-1}) \pi_{\bullet}(g)| j_2, m_2 \rangle \\\
&= \sum_{N,n_2} D_{MN}^L(g) D_{n_2.m_2}^{j_2}(g) ~ T_N^L | j_2, n_2 \rangle
\end{align*}
$$

という関係式が成り立つことがわかります。

この式が意味するところは

$$
\begin{align*}
\pi_{\bullet}(g) \hat{T} = \hat{T} \pi_{\bullet}(g)
\end{align*}
$$

つまり演算子$${\hat{T}}$$は表現$${\pi_{\bullet}}$$と可換であるということになります。

するとこの演算子を既約表現の空間に制限すればSchurの補題が使えるではないですか!

ということで既約表現の空間に制限した場合

$$
\begin{align*}
\hat{T}|_{V_J} = c_J I_J
\end{align*}
$$

と既約表現空間ごとに恒等演算子と比例していることがわかります。

もとのテンソル表現をClebsh Gordan分解すると

$$
\begin{align*}
\hat{T} |L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle &= \sum_{J=|L - j_2| , \dots, L+j_2} ~ \sum_{m=-J,\dots,J} \langle L, M ; j_2, m_2 | J,m \rangle ~ \hat{T} | J,m \rangle \\\
&= \sum_{J=|L - j_2| , \dots, L+j_2} ~ \sum_{m=-J,\dots,J} \langle L, M ; j_2, m_2 | J,m \rangle ~ c_J(L,j_2) | J,m \rangle
\end{align*}
$$

となり、既約表現の基底ベクトルに射影すると

$$
\begin{align*}
\langle j_1, m_1| T_M^L | j_2, m_2 \rangle &= \langle j_1, m_1| \hat{T} |L,M \rangle \otimes | j_2, m_2 \rangle \\\
&=\langle j_2, m_2 ; L, M | j_1, m_1 \rangle ~ c_{j_1}(L,j_2)
\end{align*}
$$

となります。これはまさにWigner Eckartの定理になっていることがわかります。

ここで、$${c_{j_1}(L,j_2)}$$が$${j_1}$$だけでなく$${L,j_2}$$に依存しています。これは異なる$${L,j_2}$$からCG分解で$${(\pi_{j_1},V_{j_1})}$$表現が出てきまして、区別するために必要となっているのです(例えば$${(L=1,j_2=2) ,(L=2,j_2=3)}$$で$${j_1=1}$$を考えるとか)。

おわりに

群の表現をちょこっと強調しつつWigner Eckartの定理をみてきました。証明がかなり簡単にできてしまったので、ちょっとびっくりしてます(前提が間違ってなくて、証明が正しいといいな)。
定理の意味も、テンソル表現からの既約分解をして、それぞれの既約成分で球テンソル演算子の影響が定数として現れていると見れそうです。

今記事を書く上で定義をチラッとみたりしただけなので、色々抜けてるところはありそうです。ですのでちゃんとしたい人は小林・大島の「リー群と表現論」を読んで上の議論を改良するといいのではないかと思います。

物理だとJ.J.Sakuraiを見てみるのがいい気もしますが、私は思い出せません。


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