人口移動報告から政策とプロモーションの方針を立てる📊市町村職員が向き合うべき5種の数字
2022年1月28日、総務省より2021年(令和3年)の住民基本台帳人口移動報告が公開されました。これは人口増減のうち1年間の出生・死亡という自然人口増減を除いて、いわゆる引っ越し(転入・転出)という社会増減を集計したもので、高齢化社会にあって出生数より死亡数が多くなってしまうのは地域を問わず仕方ありませんが、社会増減は地方自治体の政策の良し悪しや発信力にも関わる部分であり、関連する公務員における仕事の成果のひとつとして検証する必要があるように思います。
みなさん、こんにちは。「公務員のためのSNS・動画・HP新しい広報の教科書」著者で元四條畷市役所マーケティング監の西垣内渉です。今回は今回公表された各種データをどう生かせば来年度以降の政策やシティプロモーションの方針づくりに有効となるかを事例に基づき提案いたします。
人口移動報告でわかること
今回発表となった人口移動報告を各市町村の視点で捉えると、わかることはたくさんあります。
これはその一部ですが、これらを把握するだけで今後人口の社会増を見込むにあたっての優先ターゲット設定が明確になります。今回は私が以前住んでいて、2017年〜2020年にマーケティング監として従事していた大阪府四條畷市を例にとりご紹介いたします。
転入者数の変化:性別・年齢別
四條畷市の転入者数は2021年1891人で、これは前年に比べて17人減とわずかに少ない結果でした。これをまず年齢別に見ると、以下のグラフとなります。人口移動報告からわかるのは5歳刻みなので、データそのままに前年と比べています。
もっとも転入が多かったのは25-29歳でこれは2年連続同じ傾向、人数は前年の385人から40人減って345人という結果でした。2021年に2番めに多かったのは20-24歳で、前年より59人も増えて300人の転入がありました。2020年は30-34歳が2番めに多かったことから、子育て世代よりライフステージとしてもひとつ若い世代が多く転入してきたことがわかります。
子育て世代を分析する指標は、0-4歳あるいは5-9歳の転入の傾向を見ればよくわかります。四條畷市の場合、2020年に168人の転入があった0-4歳は40人減って128人となり、5-9歳は53人の転入がありましたがこれは前年より7人の微増にとどまりました。子育て世代の社会増を強く押し出しているとするなら、2021年の結果は芳しくなかったとも言えます。
では男女別に見るとどうなるでしょうか。男性・女性それぞれの同じ5歳刻みのグラフを見てみましょう。
男女別に分けて見たところ、どちらかの性別において先ほど総数で見た時の経年変化とは大きな違いがありませんでした。ということは、転入を増やすためのコミュニケーションにおいて男性・女性どちらかに偏って進めることは得策ではないということが言えます。
転出者数の変化:性別・年齢別
以前noteにも記した通り、私が市役所に従事していた際に市民課と協力して実施していた転入者・転出者へのアンケートによれば、転出する人が強い不満を持って市外へ転出することは非常に稀で、ライフステージの変化などで引っ越さないと通学・通勤が難しいことが主な理由であったことから、転出を何かの政策によって引き止めるのは現実的でないと考えています。しかしながら、全容を知ることでわかることもあるので、今回は転入と同じ形で転出者の統計も載せておきます。
ちなみに四條畷市の転出者数は2021年2004人で、これは前年に比べて67人減と改善しました。これをまず年齢別に見ると、以下のグラフとなります。人口移動報告からわかるのは5歳刻みなので、データそのままに前年と比べています。
全転出者の半数近くを占めるのが20歳代で、20-24歳は男女あわせて420人、25-29歳は387人の転出がありました。男女別に見ると傾向に若干の違いが見られ、20歳代前半では男性の転出が増えて女性は減少した一方、後半では男性の転出が大きく減り、女性は微増を記録しました。
これがメイン!転入超過数の変化:性別・年齢別
もっとも重要なのは社会増、つまり転入者が転出者を上回っている状態です。四條畷市の転入超過数は2021年マイナス113人(転出超過)で、これは前年に比べて50人の改善となったものの、転出が転入を上回る良くない状態が続いています。これをまず年齢別に見ると、以下のグラフとなります。人口移動報告からわかるのは5歳刻みなので、データそのままに前年と比べています。
全体としては転出超過と苦戦しているものの、子育て世代に焦点を当てると、30〜44歳および0〜4歳の転入超過が際立っており、それを大きく上回る形で20歳代の流出が生じていることがよくわかります。20歳代がこれだけ転出するということは、高校・専門学校・大学卒業後に働く場所が十分になく、例え大阪市・京都市・神戸市といった大都市で働くとしても、寮に入ったり一人暮らしを始めるなど、市を離れる選択が優先されることを示しています。この課題は中長期的に改善する目標設定が望ましく、短期的に参考になるのは転入超過ができている年代の要因を探ることとなります。男女別に同じグラフを見てみましょう。
男女それぞれに見ると、30〜44歳の転入超過は男性の広い年代で見られ、女性は35〜39歳で突出して改善したことがわかりました。また、女性20〜24歳の転出超過も90人から54人と抑制されました。この結果からすぐに今後のターゲットを定めるのは難しいほどいくつかの示唆が見られますが、どう取り組むとしてもこれらの傾向を念頭に置く必要があります。
近隣市町村との比較
続いては、近隣市町村との比較ということで、四條畷市が含まれる大阪府内43市町村と比べてどんな結果だったのかを共有したいと思います。
2021年転入者数ランキング(大阪府内43市町村)
四條畷市は2021年12月時点の人口が55015人で、府内で2番めに人口の少ない市となります。それに連動して人口の流動性は少ない傾向にありますが、それでも相対比較では府内全ての町村および阪南市・泉南市よりは転入者が多く31位となりました。前年と比べては吹田市が1400人以上の増加、大阪市が4600人以上の減少とまちまちであったことを見ると、増加に持って行きたかったという印象があります。つづいては、ここに転出者の要因を合わせた転入超過・転出超過の相対比較を行います。
2021年転入超過数ランキング(大阪府内43市町村)
四條畷市は転出超過で大阪府内で比較すれば27位という結果になりました。転入超過を記録したのは全体の4分の1にあたる11市にとどまったことを見れば、たやすいことではないことがわかります。一方で、四條畷市と隣接する寝屋川市や交野市は転入超過を達成していることからは、よりよい発信ができていればさらに良い結果を導き出せたかもしれないということが言えます。
四條畷以外で見れば、大幅な転入超過を継続しながらも転入者を大きく減らしている大阪市、転入数が大きく増えたことにより転入超過幅もさらに改善した吹田市の「明暗」について今後深堀りしていきたいと思います。このことについても、これまでと同じように人口移動報告からわかることがたくさんあります。
転入元の変化(どこからやって来たのか)
最後に、各区市町村が分析するにあたって有効なデータとして、転入者の移動前の住所地、つまり引っ越す前に住んでいたところを知ることができます。1月末に発表される速報版では都道府県・政令指定都市に限定されるものの、大きな傾向はそこで把握できます。四條畷市の場合、どこから来る人が多いのでしょうか。
2021年の転入者1891人のうち、3分の2にあたる1200人以上が大阪府内での移動であることがわかります。その4分の1は大阪市からです。他都道府県では奈良県・兵庫県・京都府が上位を占め、そのあとに東京都・愛知県が挙がっています。このことから、関西2府4県でのプロモーションがもっとも重要であり、関西に住んでいる子育て世代に強く訴求していくことがさらなる転入者増と転入超過への道につながっていくことが想像されます。
ということで、ここまで人口移動報告でわかることをさまざまな角度から共有いたしました。各市町村の企画系部署と言われる、総合計画・総合戦略・人口ビジョンの改訂等を担当する方々はこれらのデータをフル活用して、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)を推進してほしいと思います。
これからも、この章で見られた2021年のトピックや変化について随時共有していきたいと思います。感想をツイッターなどで送ってもらえると次へのモチベーションとなりますのでよろしくお願いします。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。