ヘルマン・ヘッセ(実吉捷郎訳)『デミアン』(岩波文庫)

ヘルマン・ヘッセのことを知ったのは、たしか高校生ぐらいだったと思う。漫画作品『トーマの心臓』の中で、転校生が教師に食ってかかって、ヘッセをボロクソにけなすシーンがあって、それを読んで、そうか、この作家はろくでなしなのだと了解して、それ以来まったく読もうと思ったことがなかった。

そんな自分でさえも、以下の一節はあまりに有名であり、聞き及んだことがある。

「鳥は卵からむりに出ようとする。卵は世界だ。生まれようとする者は、ひとつの世界を破壊せねばならぬ。鳥は神のもとへ飛んでゆく。その神は、名をアブラクサスという。」(156頁)

この言葉の意味(おそらくAmor fati の意に近いのだろうが。)は、判然としない。この言葉は、これまでに多くの人の心をとらえ、かつ多くの人を救うよすがにもなったのだろうが、私にとっては、意味がわからない以上、すがりつくことはまだできそうにもない。

なぜ分からないかというと、最終的に、主人公は、結局のところ、卵の殻を破って、外に出ることができたのかどうか、できたとして何ページにおいて、卵の外から出たのか判然としないことにある。つまり何を以て殻を破って外に出たといえるのかが分からない。比喩だけを示されていて、当の意味があかされていない状況である。

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