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猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード9:猫脱走防止用扉のうれしい副効果

今回は、猫専用賃貸を標榜する上で必要な装備その2 「猫脱走防止用扉」をご紹介します。その名の如く、猫が室内から不用意に外へ脱走することを防ぐための専用扉を指します。宅急便の配達などで玄関ドアを開けた際、隙間からスルッと猫が脱走を防ぎます。一般的には玄関ドアから居室に繋がる箇所へ設置することが多いです。Gatos Apt監修物件には必ず猫脱走防止用扉を設置しています。ところがお住まいの方々に「猫脱走防止扉を使っていますか?」とお聞きすると、大多数の方が「脱走を防止するためには使っていない」と答えるのです。

飼い主が猫脱走防止扉を使わない理由

「玄関ドアを開けても、逃げないんですよね。」
「ゆっくり動くからその間に玄関を閉めたり、抱き上げたりしちゃうんです。」
「ウチの子は臆病だから宅急便の人が来たり、人の気配がするとそもそも玄関に来ないんです。」

これが猫脱走防止扉を使っていない住人の皆さんから伺った回答の一例です。個体差があるものの、猫は好奇心旺盛だけど臆病な生き物。猫からすると玄関から先の世界は未知の世界なので、好奇心より怖さの方が勝ります。なので「脱兎の如く」逃げ出すような事は(「驚かす」と言った外的要因がなければ)考えられません。もちろん、玄関ドアをずっと開けっ放しにしておけば猫は牛歩で徐々に近付き、「危険はなさそうだ」と判断すれば恐る恐る外へ出て行きます。多くの場合、その前に飼い主が玄関ドアを閉められるのです。
特に一緒に暮らしている年月が長い飼い主さんほど、自分の飼っている猫の特性を理解しているので「玄関ドアを開けていられる限界」を知っています。これが「猫脱走防止扉を使わない」理由です。ほとんど使われることがない装備にもかかわらず、私の監修物件では今でも必須装備として必ず設置しています。その理由は2つあります。

脱出を試みる猫がいるという事実

1つ目に挙げられるのは「賃貸なので、どんな猫が住むか分からないから」です。長年連れ添った猫と一緒に住むつもりで、一軒家を建てるのであれば施主が自由に決めれば良いことですが、賃貸に住む方々は千差万別です。脱走する可能性が少しでもあれば、猫脱走防止用扉は必須と考えます。
では、どういう猫が脱出する可能性があるのでしょうか。長年、猫専用賃貸のプロデュースを行なった経験上、脱走を試みる猫は大別して2タイプに分かれることが分かりました。

脱走を企てる猫タイプその1:保護したての野良猫の場合

前述の通り、一般的に猫は臆病なため、自ら進んで危険な目に遭うようなことはしません。玄関ドアが開いたことを音で察知し、チャンスとばかりに脱兎の如く外へ飛び出すという行為は、猫にとって大変危険な行為です。その危険を冒してまで逃げようとするのは理由があります。それは「その部屋にいる事がストレス」だから、です。猫が感じるストレスは1つだけとは限りません。例えば、ご飯が美味しくない、トイレが汚い、同居猫が嫌い、新たな同居猫が増えた、最近連れてくる飼い主の彼氏が気に食わない…などなど。大小様々なストレスが積み重なり最終的に「もうこの部屋にいたくない!」と、ストレスが爆発するのです。が、脱走しようとするまでストレスが溜まることは稀です。猫はストレスが溜まると普段とは違う行動を取るようになります。突然粗相をするようになる、ご飯を食べない、ずっと泣く、暗く狭い所で隠れるようにジッとしているなど。飼い主が飼い猫の異変に気付き、ストレスの原因を取り除くことが出来れば、「脱走」を決意するまでには至らないものです。こうした行動をすっ飛ばして、ストレスの頂点とでも言うべき「脱走」という行動に出る猫の筆頭、それは保護したての野良猫の場合です。
人間側の思惑からすれば「私はあなたのことを保護してあげた」と思っていますが、猫からすれば「捕らえられた!」と思っているはず。自由気ままに外の世界を謳歌していたのにある日突然、人間に檻(部屋)という狭い所に閉じ込められたのです。猫の立場で考えれば、とても怖くストレスフルであることは想像に難くありません。こういう猫はその空間にいること自体がストレスなので、脱走を企てるのです。猫は順応性の高い動物なので、最初はストレスに感じていた空間も、時間の経過と人間の優しく手厚い保護により徐々に薄れて行き、人馴れして来るものです。そうすると脱走防止扉も必要がなくなりますが、保護したばかりの猫の場合は、こうした理由により脱走防止扉が必要なのです。賃貸という性質上、保護したての猫が来る可能も大いにあります。ですが、飼われている猫の大半は人馴れした猫ばかりなのです。冒頭の「脱走防止扉を、脱走を防止するために使っていない」という答えには、こうした理由があったからなのです。

脱走を企てる猫タイプその2:一度、脱走したことがある猫

ストレスを感じていなくても、脱走を企てるタイプの猫がいます。それが「一度、脱走した経験のある猫」です。意図せず玄関ドアが開いていた、猫が自分でドアを開けてしまった(本当にあるのです!)など、何らかの理由により玄関ドアから外に出てしまった経験のある猫の場合、玄関ドアの外がどういう状態になっているのかを知っているので、躊躇なく出ていってしまうことがあります。

飼い主がうれしい猫脱走防止扉の副効果

とは言え、ほとんどの飼い主が「使わない」と言っている猫脱走防止扉を、「脱走防止の為だけ」に設置するのは建築予算的にも、設置スペース的にもコスパが悪いことは否めません。が、脱走防止扉がある事で多くの住人から喜ばれています。私が監修する新築の賃貸物件には全室、脱走防止扉の先にかなり広めのスペースを敢えて設けています。具体的には、ウォークイン・クローゼットや大きめのシューズ・クローゼットを備え付けます。このスペースは脱走防止扉を閉めれば猫が侵入不可のスペースになります。猫に触られたくない物や毛だらけにされたくない物、例えば猫餌の袋や食料、コートやブーツなどを収納するためのストレージ・スペースとして有効活用しています。
このスペースがあることで、猫を飼うオフィス勤めの女性が毎朝行うルーチン「毛取りコロコロで猫毛を取ること」から解放された!と、多くの住人からレポートをいただきます。他には「白米の袋をこれまではシンク下に保存していましたが、留守中にシンク扉を開けて白米のビニールをビリビリに破いてしまう癖があるので助かります!」(猫飼いの間では、これを「米騒動」と呼ぶくらい一般的な行為だったりします。)や、「(猫に邪魔されず)集中して読むことができるので、本棚と椅子を設置して読書スペースとして有効活用しています。」と、思いも付かなかった使い方をされる方もいらっしゃり、有効活用いただいています。
これが猫脱走防止扉を設置する2つ目の理由です。
それでは、猫脱出防止扉の設置例として、私が監修した猫専用物件を写真でご覧ください。

猫脱走防止扉の設置例

現代の部屋に普通の扉を付けられない理由

ご覧頂いてお分かりになるように、猫脱走防止扉と言っても「普通の扉」を付けているだけなのです。脱走防止柵として市販されている商品を取り付けたり、特注で柵を拵える必要が出てくるのは往々にしてリフォームの場合です。特に現代の建設設計においては、前エピソードでお伝えした様にリビングや寝室を如何に広くするかに腐心するので、極力無駄な空間を排除する傾向にあります。そうした時、真っ先に削られるのが水廻り、玄関廻りです。玄関廻りは無駄と思われている「廊下」を削ります。そうすると普通の扉を設置するスペースがなくなるので、特注せざるを得ない状況に陥りがちです。

ドアノブの設置に要注意!

最後に実践的なTipsをご紹介します。上記の写真のドアノブを良くご覧ください。全てバータイプだと気付きましたか?

建築業界にも流行りすたりがあり、現在はこうしたバータイプのドアノブが主流です。猫脱走防止用にこのタイプを使用するには注意が必要です。と言うのも、猫はこのタイプのドアノブは自分で開けられてしまうからです。丸い、突起のないドアノブなど、猫が物理的に開けることができない形状を選んで取り付けるのが望ましいのですが、特にハウスメーカーによる施工の場合、バータイプしか選べないということが往々にしてあります。どうしてもバータイプを使わざるを得ない場合は、施錠できるタイプを選びましょう。これであれば飼い主が出掛ける際に施錠すれば、猫がバーに手をかけても開ける事が出来なくなります。
私がハウスメーカー施工の物件を監修した際、ご多分に洩れずバータイプしか選ぶ事が出来ませんでした。そこで「施錠できるタイプにして、必ず施錠は外側から出来る様にする事」と念を押しました。工事完了の知らせを受け、最終チェックを行った際あれほど念押ししたにもかかわらず、施錠できるノッチが内側に付いていました。恐らく指示が細かすぎて職人さんに伝わっていなかったのでしょう。何せ施錠は普通、内側からするものだからです。この施工ミスを発見した私は、翌日の内覧会までに直してもらうようお願いをしました。すると職人さん、棟梁、ハウスメーカーの営業さんとその上司などが話合いを始めました。30分経ってもずっと話しているので「どうかしましたか?」と聞いてみたところ、ドアノブの件でずっと揉めていることが分かりました。曰く、現在付いている鍵ユニットを逆に付け直せば良い訳ではなく、専用のものを全室に付け直さなければならず、新たに部材を発注しなければならないのでいつ付けられるか目処が立たないと言うのです。今でこそ笑い話ですが、その瞬間は顔面蒼白です。内覧会で多くのお客さんがいらっしゃるのに、これでは説明が成り立たないですからね。結局、数週間後、無事に交換できましたが、いくら口酸っぱく念を押しても同様のミスを何度も体験しています。これから建てられる方は、ぜひこの点にもお気を付けください。

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