猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード3:土地を求めて三千里
おそらく世界初の試みとなる、人と猫が快適に住むことができる「猫専用アパートメント」の建設を決意した私が最初に行ったこと、それは
土地探し
です。親から譲り受けた土地があるといった環境に育ったワケでもない一介のサラリーマンである私は、アパートを建てるためにまず土地を購入しなければなりません。2008年10月、果てしない土地探しの旅の始まりです。
全てはネット検索から
土地を探すためにまず最初に行ったこと、それは「ネット検索」です。Yahoo!不動産、SUUMO不動産といった大手不動産サイトを使ってひたすら土地検索の日々が続きました。東京都全域を漫然と検索していると、近隣の金額と比較して何故か割安な土地が見つかります。こういう土地には特徴があることを発見しました。
・旗竿地
・崖地
・火葬場の側
クセの強さゆえ敬遠されがちなこのような土地を不動産業界では「クズ土地」と呼んでいます。
崖地は切り立った崖に建つのでそもそも建築が難しく工事費が嵩む可能性があります。火葬場の側は心理的な要因が主な理由だと思います。属性の似た土地に「墓地の側」というのもありますが、近年、特に都市部において「墓地側」の土地は大人気です。その性質上、墓地が更地になってビルや家などが建つ可能性は低く、密集した都市部においては貴重なエアスポット的な場所になるからです。近隣に住む人にとっては建物が建たないので日当たりも良く、騒音などとも無縁です。また都市部の墓地はセキュリティーがしっかりしている所が多く、日中も墓参りに訪れる人以外は入れなかったり、夜間は施錠されて入れないようになっています。公園と似た効果を持ちながら、公園よりもセキュリティーがシッカリしていると言う理由で、都市部の墓地側は意外と人気の土地と言え、値段も高い傾向にあります。
それでは「旗竿地」とは何でしょうか。それはこのような形状の土地のことです。
敷地の形状がその名のごとく「旗」と「竿」のようになっている土地のことを言います。一般的に角地や整形地が好まれるため、このような不整形地は比較的人気がなく、近隣相場と比較して割安で売りに出されるケースが多いのです。
旗竿地のメリットとデメリット
旗竿地を購入する最大のメリットはコストパフォーマンスでしょう。同じ坪数でも安く購入出来るので、土地代を少しでも安く抑えたいと考える人にはうってつけと言えます。一見無駄になりそうな竿部分も駐車場として活用出来ますし、往来がほとんどなくなるのでプライバシーを確保しやすい、防犯しやすいのもメリットです。
旗竿地の周辺には建物が建つ可能性があり、日当たりが悪くなる可能性が高いのが最大のデメリットです。また売りに出される土地によっては接道部分が狭く再建築不可だったり、竿が変形して重機が入らなかったり、車を停められなかったりというケースもあります。整形地よりクセが強い点を理解した上で充分に吟味しなければならない点もデメリットですが、逆手に取って充分に吟味すればメリットに変えることも出来ます。そう考えた私は、土地を探す上で「旗竿地」と「崖地」に絞って探すことにしました。
何はともあれ現場見学をしないとはじまらない
「旗竿地」と「崖地」に絞って検索すると極端に該当物件が減ります。おかげで一つ一つの土地をじっくり吟味することが出来るようになりました。マイソク(間取り、写真、大きさ、周辺環境など物件にまつわる情報をひとまとめにしたチラシのこと。)を見て、多少気になる土地を見つけたら即座に内見申込みを入れ、実際に土地を見に行きました。
もちろん良い土地であれば購入することを前提とした内見ですが、多少条件に合致しなくても見に行くようにしていました。その理由は、数多くの物件を見ることでより良い土地を見分ける感性を養いたかったからです。銀行から半端ない金額を借りて購入する一世一代の買い物、中途半端な気持ちではとても買えません。それに私は20数年余りをサラリーマンとして暮らしてきた普通の人、いきなり飛び込んだ新天地で数千万円単位の借金をしてアッサリと買い物が出来るほどの度胸は持ち合わせていません。
土日の休日や仕事終わりの夜間に土地巡りをする期間が実に1年半もの間、続きました。
マイソクに載っていない情報がある
実際に土地を見に行って「何だこりゃ!」と言わずにはいられない土地があるのです。(むしろその方が多いのではないか?と思うほどです。)一部ですが、実際に私がマイソクを頼りに見に行った土地での体験をいくつかご紹介します。
世田谷区に良さそうな旗竿地を見つけた私はアポイントを入れ、現地を内見に行きました。マイソク上は理想にかなり近く、多少興奮したことを覚えています。ワクワクしながら現地に到着すると、真っ先に目に飛び込んで来たのは、竿部分のど真ん中に鎮座する井戸でした。古屋も残っており、解体しなければならないことがネックだと思っていましたが、敵はこちらではありませんでした。現場で落ち合った不動産会社の営業マンに「この井戸はどうなるのですか?」と聞くと「買い主さんの方で処理していただく形ですねー」とおっしゃいます。つまり自分で埋めろというワケです。井戸のポンプをカシャカシャ動かすと盛大に水が出てきます。まだ潤沢に地下水がある井戸を埋めるのにどの位のお金が必要なのか、水が出るということは地盤改良も必要なのではないかなど様々な懸念事項が頭をよぎり、この土地の購入は断念しました。
次の土地は神奈川県某所で見つけた旗竿地の例です。こちらもマイソク上は理想に近い土地でした。ここの問題点は購入する土地ではなく、周辺にありました。竿部分の右側にお隣の家が建っていますが、この建物が老朽化の影響でこちら側に傾いているのです。下から見るとお隣の家の屋根が竿部分上空にある状態です。こちらも営業マンに確認すると「確かにお隣のお家が傾げてますねぇ…気になるようでしたら購入後に直接お隣さんに交渉していただくしか方法はないです」と、そんなこと気にするのはあなたぐらいですよ?と言わんばかりの勢いで返されてしまいました。いつ倒れて来てもおかしくない状態の家が隣に建っている土地を安心して買える訳もなく、この土地も購入しませんでした。
これ以外にも、竿部分の接道がマイソクには3mと書いてあるのに実際に測ると2.5mしかない部分がある(奥が細くなってる)、土地が近隣のゴミ捨て場と化している、不法投棄された廃車が置いてある、お墓だったなど、枚挙に暇がありません。マイソクは販促物なので不利になるような事は書きませんし、制作者側の良心に任せられています。この様に実際に見に行かなければ分からない事は山のようにあるのです。
現場で出会う営業マンを味方につける
現場に足を運ぶ事の重要性はマイソクに載っていない情報を知ること以外にもう一つの目的があります。それは案内してくれる営業マンと名刺交換することです。不動産会社と言っても大手から、街の小さな店舗まで大小様々ですが、営業マンと話しをしてみると、会社の運営方針やコンプライアンス感がおぼろげに見えて来ます。手っ取り早く売ろうとしてるだけなのか、親身になって一緒に探してくれるのか、実際に話しをすると見えてくるものです。信頼出来そうな(大半はそうでしたが)方と出会えたら「旗竿地と崖地を探しています。良い情報があればぜひお知らせください」とお願いしていました。大抵の営業マンが「旗竿地と崖地ですか!?」と興味を示してくれます。印象に残りやすいので「変わった客だ」と認識され、その後親身に情報を教えてくれるようになります。そこで更に営業マンと関係を深め、信頼度が高いかどうかを見極める材料にするのです。
現場を見る目的はこの2つ
現場を見る目的は、マイソクに載っていない情報の確認と営業マンとの関係構築、この2つです。賃貸経営を行いたいが土地を持っていない人がまず行わなければならないのは「情報収集→土地見学」の繰り返しです。この作業で自身の審美眼を養い、いざ良い土地に出会った際に逃さないようにする準備=練習を繰り返し行うことをおすすめします。
「土地を探そう!」と思い立ち、どうすれば良いのか分からない状態、それはドラクエで言うところの「レベル1」の状態です。装備も整えず外界に出ればたちまち最弱スライムにすら殺られてしまいます。実際に土地を買うことは中ボスと戦うくらいのレベルです。楽に倒すには少なくとも「レベル10」くらいには成長し、魔法の一つや仲間の一人も身に付けておきたいですよね?レベル上げには現場に出て場数をこなすのが一番手っとり早いのです。
エピソード4に続く